第119話 緊急事態
「ええ!?
インターフォン越しで執事の濱木さんから連絡が入る。
対応した僕はその内容に驚愕した。
『はい。しかも相当な数です……どうしてこんなことに』
「『変種』でもない限り、あの塀を『
竜史郎さんが聞く。
『正門が開錠されていたようです。機械の故障ではなく内側からパスコードを入力され、ロックを外されたようで……私達使用人なわけがありませんし一体誰が……』
濱木さんは人為的な仕業だと思っているらしい。
まぁ、パスコードを入力した上なら、当然そう思うだろう。
「考えられることは幾つかあるが犯人追求している場合でもあるまい。それで、どんな状況だ?」
『はい、戦える執事とメイド達が銃を持ち屋敷の周り固める形で応戦しております。屋敷だけは侵入を許すわけにはいきませんから。それにシェルターに続いておりますので……ですが何分、数が多すぎて対応が困難になり、既に何名かが襲われ命を落としております』
「なるほど、それで銃器を持つ俺達に応援を求めたいというわけだな? わかった協力しよう。おたくらには世話になったからな。傭兵は戦うことくらいしか恩を返せない」
『いえ、そうではございません』
「なんだと?」
『貴方達は唯織お嬢様を連れて逃げてください。別館の駐車場一階から、さらに奥の倉庫に「ある物」を用意しております。それがあれば、いくら
「あるモノ? どうして俺達を庇う? 濱木……執事長のあんただって俺の目的に察しがついているんじゃないか? 俺はあんた達の主人を仇として殺そうと目論んでいる男だぞ?」
『……旦那様はそれだけのことをしてきたお方です。いつかそういう日がくるだろうと覚悟しておりました……以前は正義感の強く毅然としたお優しい方だったのですが……きっとああなってしまったのは、奥様がお亡くなりになったことが原因でしょう。したがって因果応報だと思っております。特に今の秩序が崩壊しつつある日本では……』
「イオリのことはどうする? 父親の仇になる男に預けていいのか?」
『唯織お嬢様は、旦那様がしてきたことは何も知らず、汚れを知らない身も心も綺麗なお方です。娘とはいえ旦那様の業を背負う責任もないでしょう。目的はどうあれ、久遠様のお人柄ならお預けしても良いと判断いたしております』
濱木さんも、屋敷の主人である『西園寺 勝彌』が何をしてきたのか察しているようだ。
竜史郎さんの目的に気づき受け入れたのも、唯織先輩と真摯に向き合う彼の姿勢に感銘を受けたのかもしれない。
「濱木さん、あんたはどうする?」
『私はこの屋敷と運命を共にいたします。長年仕えている他の執事とメイドも同じ覚悟です。ただ未来ある若い使用人には酷な選択だと思っております』
「……そうか、わかった。唯織は俺が責任を持って預かろう。それでどうやって、その『ある物』を入手すればいい?」
『別館の倉庫へ行くには二通りあります。一つは屋敷から出て、そのまま別館に向かうか、もう一つはシェルターの天井にある自動車用のエレベーターを使用して別館に行く方法がございます』
「話を聞く限りでは後者が無難そうだが……あまりいい予感はしないな」
『はい?』
「独り言だと思ってくれ。外から潜入する方を選択する。少年と美玖も手伝ってくれ」
「わかりました」
「……うん」
僕は頷き、美玖も続く。
美玖は自信なさげに見える。
彼女にとって初陣になるのだから無理もない。
僕は妹の手を握った。
「お、お兄ぃ?」
「大丈夫だ。訓練通りにやればいい」
「うん」
美玖も力を込め握り返してくれる。
まだ12歳の妹に本当なら戦いを促す兄はいないだろうな。
けど、美玖のためにも
残酷な現実と向き合わないと、今の世界では生きて行けないのだから。
それから戦う準備を整え、僕達は集まった。
竜史郎さんから戦闘に入る前の作戦が伝えられる。
「――少年にもチラっと伝えたが、俺は屋敷の外から単独で抜け出して別館に行き『例のモノ』を入手する。みんなは、その際のフォローを頼む!」
「竜史郎さん、どうして自動車用のエレベーターを使用しないのです? あれを使えば、わざわざ
真っ先に唯織先輩が意見し、僕を含む全員が頷いた。
「それも言った通り、何か嫌な予感がしたんでな……理由は正門が開けられたこと起因する」
「正門が開けられたことですか……確かに人間によるものとしか考えられません。使用人や私達ではないのは確か……では、やはり『避難民』の誰かですか?」
竜史郎さんは頷いて見せる。
「だろうな。鳴りは潜めているも所々、シェルターの在り方に不満を抱いているのは感じていた。特に使用人達の厳粛な態度にな」
「確かに、私も濱木から報告を受けておりました。しかし、いくらなんでもそこまでするでしょうか?」
「きっかけは些細な理由だと思うが、不満ってやつは積み重ねればいずれ暴発するものだ。特にああいう『上級国民』と自称する輩はな……だが疑問も残る」
「リュウさん、疑問って~?」
「そうだ、シノブ……悪戯や嫌がらせにしちゃ、やりすぎている点だ。なんでも相当な数の
「ましてや、ああいう人達に自滅する覚悟なんてありそうにないですし……」
「その通りだ、少年。多少、我慢していれば数年は問題なく過ごせる施設だからな。切迫しているのならまだしもってやつだ」
「じゃあ、竜史郎さんは他の誰かが関与しているかもしれないって言うんですか?」
有栖の質問に、竜史郎さんは一瞬口を噤む。
「……検問での
未知の存在……
「兄さん、だったら避難民達に尋問してみる? 一階の年寄り……飯田さんだっけ? あの人って、シェルター内じゃ幅を利かせているって聞いたわ」
「いや、香那恵。その時間はない。俺達は早々に作戦行動に移さなければならない。一匹でも多くの
その方が残された人達の生存確率も上がるってわけだな。
だから敵が多い外側ルートを選んだのだろう。
竜史郎さんらしい合理的な考えだ。
「ほんじゃ、ちゃっちゃと斃しに行こ~!」
「待て、シノブ」
「なぁに、リュウさん?」
「お前と香那恵はシェルターで待機だ」
「どーしてぇ?」
「銃撃戦がメインになるからだ。シノブはまだいいが、香那恵は銃のセンスが絶望的だからな。誤射して使用人に弾が当たったらヤバイだろう」
「兄さん、こんな時にディスるのやめてよ!」
「すまん、半分は冗談だ」
でも半分は本気らしい。
「竜史郎さん、他にも意図があるように聞こえますが?」
「ああ、イオリその通りだ。まずは避難民達達が余計な真似をしないよう監視するためと、一緒に避難している若いメイド達を守ってやってほしい。藤村ってメイドにも世話になったからな」
「うぃ~、りょうか~い♪」
「そういうことなら、彩花ちゃんと一緒に待機してるわ。あれから、弥之くんから『抗体
香那恵さんは言いながら腰に身につけているウエストポーチに手を触れた。
その中には注射器セットと僕から採取した血液の『検体採取容器』数本が入っているらしい。
「注射器が駄目になった際は、そのまま血液を飲ませるのもありだな。噛んだり体内に取り入れることでウイルスが消滅するなら理屈は同じだからな」
「そうね、兄さん。いざって時はそうするわ」
「カナネェさん、刀に塗れば瞬殺の武器になるんじゃね? 名付けて、ムッツリスケベ・ブレード!」
彩花さん、名案っぽいけど「ムッツリスケベ」って、もろ僕のことだよね?
そんなネーミング、断じて認めないからな!
こうして僕達の新たな戦いの火蓋が切られようよしていた。
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