第117話 上級国民との交渉
~笠間 潤輝side
ボク達『赤鬼』三人組は気配を消し、奴ら上級国民達に近づく。
「あんた達、ここで何してんの?」
「何んじゃ、ワシらはこれから、こっそりと
飯田はバカ丁寧に説明しながら、ようやくボク達の存在に気付く。
「嫌だなぁ、飯田さん。ボクのこと忘れちゃいました? すっかりボケちゃったんですかぁ?」
ボクの問いに、飯田はよく目を凝らして見入っている。
はっと何かに気づき、同時に入れ歯が外れた。
「じゅ、潤輝か……笠間病院の息子?」
「そうです。お久しぶりです」
「キミも逃げてきたってわけか? しかし、何か顔が赤くね? それに目玉も真っ黒だぞ……まるでウイルスに感染したみたいじゃないか?」
「そうですよ。だって、ボクら
「なんだと!?」
飯田は杖を掲げたまま、その場で腰を抜かした。
他の連中も、手に持った金属バッドやゴルフクラブを構え警戒し威嚇してくる。
ボクの前に穂花と翔太が立ち、両腕から『
二人共、好戦的な性格だから、すぐ応じて乗っかってしまう悪い癖がある。
ったく、交渉術くらい学べよ。
「やめてくれ、穂花さんに翔太くん。まずは情報を集めたい、キルするのは早いよ」
ボクの指示に二人は頷き、
一応、『赤鬼』のリーダーとしてのボクの言葉には従うようで安心したぞ。
っと思いきや。
「……はい、はい。そうですか、わかりました『
「っというわけだ、潤輝くん。『
はぁ!?
お、お前らまさか!
ボクの指示じゃなく、『白鬼ミク』に意見を伺った上で従っているのか!?
まるっきり信用されてないじゃねーか!?
もうリーダーの権威なんてゼロじゃん!?
ふざけんなよ、このバカップルが!
けど、こんな所で仲間割れしている場合じゃない……。
ボクは深呼吸をして怒りを抑える。
人間だった頃は、感情に赴くままブチギレていたが、『赤鬼』となった今は違う。
与えられた任務遂行を優先し、自分が生き残るため堪えることも必要だと、『白鬼ミク』から学んだのさ。
この切り替えの柔軟こそが、カースト一位だった処世術ってやつだな。
「飯田さん。さっきの話だと、どうやら貴方達はボク達の力が必要のように聞こえたんですけど、教えて頂いてもいいですか?」
「……潤輝くん、キミは本当に感染しているのかね? 見た目以外は至ってまともそうに見えるのじゃが?」
「まぁ、『青鬼』が進化した姿ですからね。知性は以前と変わりありませんよ。したがって話し合いも出来れば交渉も出来る」
「な、何が言いたいんじゃ?」
「話し合いませんか?――互いの損益のために」
ボクは両手を広げ平和主義者を装う。
こんなクズ共なんぞいつれも殺せるが、話次第じゃ生かして利用する価値があるかもしれない。
せっかく知性を持つ『赤鬼』だろ。
なんでも武力や暴力で片づけるのは頭の悪い証拠だ。
ミクちゃんも、ちょっとでいいからこの辺を理解して評価してもらいたいと思う。
どうもボクの存在を軽んじられているようで仕方ない。
確かに育成中に穂花のおっぱいを揉んだのは魔が差したといえるが……。
そうだ。
いっそ、『赤鬼』を女子だけに限定したらどうだろう?
ミクちゃんから特に異性について注文を受けているわけじゃない。
選抜の権利はボクに委ねられているんだ。
――これぞ、
良くね?
だとしたら、
ボクはチラっと翔太に視線を向け、直ぐ逸らした。
いや考えるな。
今は可能な限り思考もカットしなければならない。
また『白鬼ミク』に勘づかれたら最悪だからだ。
これからの課題として感情と共に思考も切り替えられるように訓練しなければ――。
うん、ボクって煩悩が芽生えると才能を発揮するタイプだと思う。
「交渉か……潤輝くんは小さい頃から知っているし信用できそうじゃ。いいだろう」
「飯田さん、彼はもう
代議士の秋元が意見してくる。
「信じるか信じないかは貴方達の自由です。ですが、そうなると、ボクは彼らを抑える自信がない……」
ボクは言いながら、穂花と翔太を見据える。
さも、自分が彼らに首輪をつけているかのように演出した。
実際は『白鬼ミク』の言うことしか聞かないムカつく連中だけどな。
案の定、秋元を含む他の人間達は動揺しながらも頷いて見せる。
どうやら交渉するしか選択肢がないことを理解したようだ。
「では、さっそく事情を聞かせてもらいましょうか?」
ボクの問いに、飯田達は各々の言葉で西園寺邸の内部事情やシェルターのこと、自分達の不満をぶちまけてきた。
一応、傾聴と受容の意志を持って聞いてはみたものの。
「ワシは……ワシはな、トイレットペーパーを自由に使いたいんじゃあぁぁぁぁぁ!!!」
「くだらねぇ! そんな理由でクーデター!? マジかよ、おい!?」
飯田の爺さんの不満と動機に、ボクは呆れてツッコミを入れた。
他の連中もやれ酒が自由に飲めないだの、女がいないだの似たような動機ばかりだ。
これだから上級国民って奴は……。
「でも潤輝くんも美ヶ月学園じゃ、籠城生活に耐え切れなく僅か三日目で周囲と揉めて孤立した挙句に逃げ出したんでしょ?」
「一番、堪え性のないのはキミだと思うんだけどね?」
うっせーっ、この戦闘狂バカップルが!
戦闘漫画ばりにネタが尽きるまで強い奴だかを探しまくって、魔界でも冥界でも行って戦ってろや!
ボクは深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「――なるほど、事情はよくわかりました(本当はしょーもなさすぎて、ちっともわかんねぇけど)。それで、シェルターに
「そうじゃ、執事長の濱木や使用人共にギャフンと言わせてやろうと思ってな!」
実際にギャフンと言った奴はギャグマンガの世界でしか見たことねーけどな。
けど、ボクはさも真剣に考えて悩むフリをする。
「飯田さん達とボク達の利害が一致していますね……実はボク達も西園寺邸を破壊する目的がありましてね。既に約1000体の『青鬼』達を敷地外で待機させている状況です」
「いっ、1000体だと!? 本当か!?」
「ええ、本当ですよ。ですが話に聞くと、執事達が銃を所持しているだけでなく、核弾頭でも耐えられるシェルターもあるようで……正直、どう攻略するべきか考えていたところでして」
「そこでワシらと利害が一致したと? ワシらが内部から、潤輝くん達を招き入れれば、屋敷内だけじゃなくシェルターにまで1000体の
「その通りです。流石は飯田さん」
ボクは大袈裟に、飯田を担ぐ。
この上級国民達のリーダー格は飯田であり、奴の呼びかけで集まった連中ばかりだ。
飯田を取り込めば、必然的に上級国民達はボクの言いなりに動くだろう。
「しかし疑問もある……万一、
「勿論ですよ。『青鬼』は『赤鬼』には忠実ですからね。ボクらの方で、貴方達には手を出さないよう指示しておきましょう。物資や設備にも手を出しません……ボク達、
「ってことは、潤輝くん達が食い殺すのは、あくまで『使用人共』だけなのだな?」
「はい、たまたま居合わせた貴方達に手を出す理由もありませんし」
「メイドは……使用人の女は何人か生かし残してくれるのか?」
「ご要望があれば。一番の目的は屋敷の崩壊なので」
「だ、誰も市長のせいにしたりしないか?」
「……蟹江市長、色々なところから相当叩かれたのですね。可哀想にご察し致します」
ボクの返答を聞き、飯田と秋元を含む上級国民は互いに目を合わせ頷く。
悪い話じゃない。
そう思ったのだろう。
「わかった! ワシらは潤輝くんと手を組むことに決めたぞ!」
「おおっ! 流石は遊殻市、いや日本を支えてきた上級国民達の皆さんだ! これでお互いに安泰ですね!」
ボクはさも「渡りに船」と言わんばかりに感動して見せて装う。
本当はどうでもいい。
こんな連中の力を借りずとも、侵入する方法はなんとでもなる。
それとだ。
「皆さんに一つ確認したいことが――西園寺家の娘、『唯織』はここに戻って来ているのですね?」
「ああ、そうじゃ。他に客人として何人か引き連れておる……黒づくめで目つきの悪い男に看護師姿で日本刀を持った女、他にシャベルを担いだ小娘に学生風の男女と小学生じゃ。だが、どいつも銃器を持ち歩いておる物騒な集団じゃったぞ」
「……そうですか。西園寺 唯織がここにいると」
ボクは腹の底から込み上げる笑いを必死で抑えた。
幼馴染の唯織がいる――!
嬉しいじゃないか。
ようやく感動の再会が果たせるぞ。
そして復讐だ!
ボクを散々顎でこき使ってきた腐れおっぱい女!
テメェは有栖の次に許せねぇ!
後悔させた挙句に嬲り食い殺してやる!
まずは、その乳がからかぶりついてやるからな!
ククク……今から楽しみじゃないか。
だが、しかし。
客人として招いている連中が気になるぞ。
なんでも全員が銃を持っているとか?
学生風ってのも気になるが……。
まぁ、いいや。
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