第116話 赤鬼の事情




 ~笠間 潤輝side



「どちらにせよ、半数くらい斃されている。ミクちゃんの指示でこの『検問』は維持しなければならない」


 ボクは指をならし、後方に控えていた『青鬼』を10体ほど呼びつける。

 迷彩服を着た兵士達だ。


 先日、翔太と穂花が襲った別の地区で検問していた自衛隊員達である。

 このカップル、何故か強い連中と戦いたがる習性があるのか、武装していたり強そうな人間を見ると率先して捕食しようと突進していく。


 まるで某少年誌の主人公みたいな連中だった。

 オラ、強い奴と戦うとわくわくすっぞみたいな……戦闘狂のアレ。

 平和主義者のボクには理解できない思考回路だけどね。


 勿論、そいつらも武装しており自動小銃ライフルを所持している。


「キミ達はここで仲間達と待機してくれ。後は『女帝』の意向に従うように。ボクら『赤鬼』だと範囲が限られるからね」


 ボクの指示で、『青鬼』達は忠実に持ち場へと配置されていく。

 今自分が言った通り、『赤鬼』の指示だと視界内、大体直径1キロ範囲内で指示が届けばいい方だ。


 けど『白鬼』のミクは違う。

 あの子に制限はない。


 人喰鬼オーガであれば地の果てだろうと操ることが可能である。

 っと言っても、穂花が言った通り単純な指示だけだけどね。


 それでもボクらにとっては驚異でしかない。

 何せ四六時中、監視され爆弾を背負わされているようなものだからだ。


 ――ミクの気分次第でいつでも爆破できる。


 ボクらの命は全て『白鬼』に握られ委ねられているのだから。




 検問を抜け、ボクらは山頂へと登っていく。

 その辺に放たれていた、『青鬼』達を回収しながら先へと進んだ。


 ひたすら西園寺邸を目指して。

 気がつけば相当な大所帯になっていることに気付く。


 ボク達を先頭に『青鬼』が並び道路いっぱいに広がる長蛇の列となっていた。

 その数は、1000人規模になるのではないだろうか?


「まるで大名行列だね。ボク一人だと、せいぜい300体くらいなのに、きっと翔太くんと穂花さんの影響もあるのだろう」


 ミクが『赤鬼』を増やしたがるのも頷ける。


 『青鬼』の進化であり、人喰鬼オーガを束ねる役割を持つのが『赤鬼』。

 さらに『赤鬼』を導き統率して、手足として操るのが『白鬼』だからな。


 まさに女帝……人喰鬼オーガ側の救世主ってわけだ。


 先も言った通り、ボクらは忠実に従うだけだし既に納得もしている。


 けど、ミクが慕う偽物の『廻流かいる』だけはムカつく……おっと、いかん。

 どこで思考を読まれているかわかったもんじゃない。




 そして明朝には、西園寺邸の敷地が見える範囲まで辿り着いた。

 もうじき陽が昇りつつある。


「このまま塀に昇って襲撃しても構わない。だが夜の方が、ボクら人喰鬼オーガにとっては都合がいいと思う。『青鬼』の動きも機敏になるしね」


「慎重ね。まさか人間にびくついているの? 最初の『赤鬼レッド』なのに、プライドがないのかしら?」


 穂花が後ろでディスってくる。

 なまじ綺麗な顔立ちで、あの糞女に似ているから余計にイラっとした。


「プライドより確実に任務を達成する。『白鬼』のミクちゃんもそれを望んでいるんじゃないのか?」


「けど潤輝くん、貴方は確か『白鬼様マスター』から期限つけられているでしょ? 明日までよね? 悠長なこと言えるの?」


「ど、どうしてそのことを!?」


「情報収集は基本でしょ? 潤輝くんも言ってたじゃない? あの方白鬼様に丁寧に伺えば、大抵のことは思念で応えて下さるわ――元笠間病院理事長の息子さん。美ヶ月学園の二年生、学年カースト一位だったそうね?」


 この女、ボクの素性をミクから聞いて調べたってのか!?

 小動物のような大人しい顔して只者じゃないぞ!

 抜け目なく頭がいいかもしれん。


 考えてみりゃ、お互い『赤鬼』同士。


 生前、理性で抑え込んでいた『負』の部分が性格として強調され浮き彫りになっているのか……。


 つまりは、この穂花って女の本性だ。


「揉めている場合じゃないと思うぞ。もうじき陽が昇る……それに近くで複数の人間の匂いがするのだが?」


 翔太は冷静な口調で言ってくる。

 こいつはクールな奴だ。


 おまけに彼女である、穂花と同時に『赤鬼』に慣れたのに感謝する言動こそ聞かれるも、別に二人でイチャコラしたりする気配はない。

 ボクの手前ってこともあるけど、生前の記憶があれば恋人としての会話くらいあるものだ。


 穂花も素気ない感じが気になる。

 普通、彼氏の前なら彼女らしい表情や寄り添う仕草くらいは見せるものだ。


 奴らにはそれが一切ない。


 二人並んではいるものの、くっつくどころか一定の距離すら空けている。

 本当に付き合っていたのかって感じだ。


 まるでビジネスパートナー、あるいは仮面カップルってか?


 しかし、まぁ所詮は他人の恋路だ。


 ボクには関係ない……それよりも。


「人間の匂い? 確かに……西園寺邸の方向だ。誰かが外に出ているようだ」


「敷地内だから安全だと安心しているかしら?」


「かもしれない……どうする、潤輝くん? 『白鬼様マスター』から、とりあえずリーダーはキミだと聞いている」


 とりあえずって、あの白餓鬼!

 おっといかん……忠誠心、忠誠心。


 ボクはイラ立つ気持ちを落ち着かせる。


「侵入して様子を見よう。ボクの記憶だと、高い塀に覆われているが、『赤鬼』のボクらなら飛び越えられるだろう。いざって時は『青鬼』達に指示して踏み台になってもらう」


 こうして、ボク達は西園寺邸へと近づことにした。



 懐かしい門構え。

 変わらない刑務所以上の高々とした塀に囲まれた屋敷だ。


 幼い頃、父親に何度か連れて来られたっけ。

 あの唯織の豊満なおっぱいを触ってから出禁になったけどな。


「この程度なら余裕ね」


「そうだな」


 穂花と翔太は軽く言うと、あっさりと塀を飛び越えて行った。


「マジかよ……」


 ボクも元バスケ部のエース。

 女子にモテると思ってダンクシュートを極めた男だ。


 こんな塀くらい。


 塀くらい……。


 ……。


「『青鬼』の皆さーん! 手伝ってぇ!」


 ボクの指示で、『青鬼』達は自分らの身体を積み重ねて段差を作ってくれた。

 本来なら互いの接触を避けたがる『青鬼』だが、『赤鬼』であるボクの指示だとその限りではない。


 ボクは『青鬼』達の身体を土台としてよじ登り、なんとか塀を越えることができた。



「だっさ……本当にカースト一位?」


「元バスケ部の癖に鍛錬が足りないんじゃないか?」


 地面に着地した途端、穂花と翔太に白い目で見られてしまう。

 二人共、眼球は真っ黒で瞳孔は真っ赤だけどな。


 にしても、うるせぇ。

 

 ボクは目的がないと本気を出さないタイプなんだよ、文句あっか!



 気持ちを切り替え、周囲を見渡した。


 相変わらず嫌味たっぷりのでかい豪邸屋敷の周りに別館が四隅に並んでいる。

 ここ中世の城かよって思える桁外れの光景だ。


 その別館の一つから、複数の人間が出入りしていた。

 見た目は大きな洋館っぽいが、記憶だと室内は立体駐車場っぽくなっていたことを覚えている。


 ボク達は木の陰に身を隠して、その人間達を観察する。

 どいつも、食っても不味そうな中年の男や年寄り達ばかりだ。

 知性のある『赤鬼』に進化してしまうとグルメ嗜好に目覚めてしまう。

 

 ん? どこかで見たことがある奴もいる。



 あの杖をついた爺さんは、昔よく笠間病院に訪れていた『飯田 充蔵じゅうぞう』だ。

 大手医療機器メーカーのCEOだった筈。

 病院に訪れたボクにこずかいをくれた時もあったっけ。


 もう一人の太った中年男は代議士の『梨元 照広てるひろ』だ。

 奴も笠間病院を含む医療法人『西園にしぞの会』の医師や医療業界との斡旋で一役買っており、西園寺財閥に忖度を企てるなど色々とあくどいことをしていた奴だ。


 一見、政治家らしく誠実で温厚そうな人格者だが内面は強欲の塊。

 とくに跡継ぎとする息子がどうしょうもない奴だと父さんが漏らしていた。


 そして、背がすらっとした痩せた白髪頭の男は遊殻市の市長である『蟹井 大輔』だな。

 なんかのパーティーで何度か見かけたことがある。

 しばらく見ない間で随分と形相が変わったようにみえるな。

 ストレスが溜まっているのか、より痩せこけて見える。


 きっと、『ΑΩアルファオメガ-ウイルス』が蔓延したのは、市長の責任だと市民達に叩かれまくった結果だろう。

 真実を知ったら、さぞ『廻流カイル』を殴り殺したくなるだろうな。


 他の連中も似たような年代っぽい奴らばかり。

 しかも父親の関連で見かけたことがあり、西園寺財閥と所縁のある。


 ――所謂、上級国民共だ。


 そんな連中がどうしてこの屋敷にいるんだ?

 こんな陽が明けようとしている時間帯で?


 見たところ、際立った武装はしてないようだし……。


「接触してみるか。騒がれたら皆殺しにして食ってやればいい――」


 そう判断し、人喰鬼オーガらしく舌鼓を打つ。






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