第109話 幻の少年と謎
~久遠 竜史郎side
俺は唯織に頼み、彼女の案内で屋敷内を散策している。
彼女の言う通り、本家とはいえ行方不明である『西園寺
しかし俺が知りたいのはそこではない。
――西園寺家そのモノについてだ。
両親を殺し、俺と香那恵の運命を狂わせた元凶の一族。
本来なら、こんな敵の本拠地と呼べる屋敷など
それに、唯織を前でむやみに事を荒立てたくないという気持ちも芽生えている。
すっかり彼女も頼れる仲間の一人だからだ。
復讐者の娘という奇妙な関係だが、唯織も逃げずに父親が犯した現実に、正面から向き合おうという姿勢がある。
そんな彼女がひたむきな姿勢なのに、俺だけ自分の感情を優先するわけにはいかない。
香那恵とて、それを望んでいないだろう。
最近、迷うところもあるしな……。
――唯織の前で『西園寺 勝彌』に復讐するべきかどうか。
以前の俺なら迷わず執行していた。
しかし、そうなった場合を想像すると躊躇してしまう自分もいる。
だからこそ、俺は知らなければならない。
見極めなければならない。
復讐するべき『西園寺 勝彌』がどういう人物なのかを――。
それからでも処刑は遅くない。
俺は急がず猶予を持つことにした。
まったく不思議なものだ。
唯織も含み、俺にそう思わせたのは、きっと『少年』の影響だと思う。
――夜崎 弥之。
香那恵ではないが、初めて出会った時から彼に郷愁に近い感情を抱いてしまっている。
きっと『奴』によく似ているからだと思った。
「竜史郎さん、ここが父の書斎となります」
唯織は扉を開け、とある一室を案内する。
アンティーク調で、円型の広々とした空間。
吹き抜けのニ階建てであり、その壁一面にびっしりと書物が並んでいる。
まるで図書館だ。
とても個人の書斎とは思えないな。
それに使用してないわりには埃一つない。
きっと使用人達がこまめに清掃をしているのだろう。
一階の中央には、年季の入った書斎机と革製の椅子がある。
いかにも高級感を醸し出した代物だ。
机の上には、未処理の書類が見られる。
俺は目を通して見るも、何年か前の決算やら報告書であり、手掛かりになるような内容ではないと判断する。
「イオリ……デスクの中など物色してもいいか?」
「お好きにどうぞ」
控えめにお願いしてみたが思いの外、実の娘から了承が得られる。
俺は椅子に座り、机の引き出しを開けてみた。
大したモノは入ってない。
書類やら文房具ばかりだ。
「――ん?」
一番、下段引き出しにだけ鍵がかけられている。
俺は
「……そんなモノまで所持しているのですね?」
「前に潜入任務は得意だって言ったろ」
唯織に白い目で見られながら、俺は下段の引き出しを開けてみた。
すると、棚にびっしりと収納されたファイルがある。
これも財閥の経理や運営に関するものばかりだ。
まぁ、悪徳とはいえ仕事人間だったってことは認めよう。
俺の親父も弁護士で似たような気質だったからな。
よく見ると、ファイルの間に挟まる形で一冊の本がある。
それを取り出して見ると、家族アルバムだとすぐわかった。
俺は思わず舌打ちしてしまう。
「フン、いっちょ前に家族アルバムってか? おっとイオリの前で失言だったな……」
「いえ……竜史郎さんの目的はなんとなくわかります」
「わかっていて、ここまで俺に協力してくれるのか?」
思いもよらぬ返答に、俺は隣に立つ唯織を見据えた。
彼女は癖である両腕を組みながら、切なそうに瞳を背ける。
「はい。『西園寺
まさか、そこまで理解した上でついて来てくれているとはな……。
俺は唯織を仲間として認めつつ、彼女の覚悟を甘く軽んじていたようだ。
だから俺も向き合わねばなるまい。
復讐対象者の娘として――唯織と真っ向からな。
「強いな、イオリは……正直に言うと俺はキミの父親を殺すかもしれん。いや、間違いなく殺すだろう。勿論、真実を暴きだした上でな。その際、お前が敵対するのであればやむを得ない……それが家族ってものだからな」
「どうするかは全てを知った時に決めます。それまでは弥之くん……いえ貴方の味方です」
「わかった。お前を信用するぞ、イオリ」
俺は頷き、アルバムの方に目を向ける。
ページを捲って確認すると、亡き妻である織江と幼い頃の唯織ばかりの写真が収められていた。
一見して微笑ましい写真だが……。
「こうして写真に目を通すと、父親は随分と唯織を溺愛していることがわかる。母親と瓜二つだからかな?」
「ええ、おそらく……あまり父とはそういう話をいたしませんが」
「だが長男の……
俺は最後のページに乗っていた一枚の写真を見た。
リビングで観せてもらった家族写真と同様のアングルだ。
幼い唯織と母の織江、そして父の勝彌が写っている。
さらに端には……居間では切り取られていた一人の少年の姿が写っていた。
「……なるほど、これが本物の廻流ってわけか」
話に聞いた通り、随分と太った少年だ。
あからさまに甘やかしすぎで贅の限りを尽くしたような体形。
正直、決して容姿が良いとは言えない。
唯織はその姿を見て、うんざりした表情を浮かべる。
「そうです……もう、いいでしょ。そんなモノ、早くしまってください。ただ不快な写真です」
「わかった。しかし、さっきチラっと言っていたが、実の兄に対する台詞とは思えないな……幼い頃、相当酷い目に遭わされたのか?」
「…………」
俺の問いに、唯織は口を噤む。
まるで悪寒が起きたように、自分の身体を両腕で抱きしめるようにして、ひとしきりその震わせている。
「どうした、イオリ?」
「いえ……今なら話すこともできますが、幼い私は性的虐待に近いことを、ずっとこの男から受けていました」
「なんだって!?」
思わぬカミングアウトに俺は声を荒げる。
自分の妹を……実の兄がだと?
てっきりエロアニメやWEB小説の世界だけかと思っていたが……。
唯織は深呼吸を繰り返し頷いて見せる。
「そういう男です。そんな奴を兄と思える筈がないでしょ?」
「確かにな……すまない。嫌なことを思い出させてしまったようだ」
「……いえ。ある日、そのことが父にバレて、父は物凄い剣幕で奴を殴り飛ばし、そのまま別室に連れて行きました。それっきりです、その男が姿を消したのは――」
「姿を消した? 本物の廻流が?」
俺の問いに、唯織は素直に頷く。
「父からの説明が一切ありませんでした。ただ使用人から、その日の夜に例の事故死である、『ワインを飲み干して溺れ死んだ』とだけ告げられました。無論、幼い私ですら違和感を覚えております……ですが、それ以前にあの男から解放されたという安堵感しかなく、私は言及せずその言葉を受け入れました」
被害者である唯織の心情を察すれば致し方ないことだ。
俺にとっては疑念と疑惑しかない。
きっと、本物の廻流は怒り任せで殺されたに違いない。
――父親である、
飲酒での事故死も真実を隠蔽するための偽装だろう。
普段の素行が悪い分、疑問を持たれないか、また唯織のように納得してしまうかだ。
警察とて、勝彌ほどの上級国民なら事故死としていくらでも丸め込める。
「それからしばらくして、二人目の廻流がこの家に来たってわけだな?」
「はい。血の繋がりこそないにせよ、私にとって尊敬する大切な本当の兄です」
「……なるほどね。線が一本に繋がったってわけか」
セイヤはおそらく孤児院に入居する前から、西園寺財閥に目を掛けられていたようだ。
施設側もその事に配慮して、当時の俺達を含む周囲の子供達に必要以上の情報を教えなかった、そういうことだろう。
知る必要のない少年。
まさに幻の少年ってわけだ――。
しかし今の
特に高校生の姿が、彼と似ているのが気になる。
俺のよく知る少年こと、夜崎 弥之に――
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