第107話 地下シェルターの極み
不意の修羅場に、竜史郎さんには強く咳払いをしてきた。
「少年のハーレムや情事など、俺にはどうでもいいがな。それよりイオリ、この屋敷内で兄の
「すみません。先程、お兄様から要望で研究に専念したいため、しばらくこちらが側の連絡は受け付けないと……」
「なんだと?」
竜史郎さんは眉を顰める一方で、唯織先輩は頷いて見せた。
「珍しい話ではありません。特にお兄様のような根っからの研究者ほど、一分一秒を大切にするタイプですので……」
つまり頭が良い分、多少なりと偏屈なところもあるってことか?
なんの研究科はわからなないけど、
「唯織先輩……お兄さんに僕のことを話してないんですか?」
「ああ、弥之くんその通りだ。お兄様には、私を無事に屋敷まで送ってくれた恩人で、どうしても父の行方を知りたいという人達がいるとしか伝えていない。詳細を説明しても……なんて言うか逆に怪しまれてしまうからな」
唯織先輩は上目遣いで何か言いづらそうに仲間達を一瞥する。
それもそうか。
彼女じゃないけど、こうして見ると全員が銃器で武装している者ばかりだし。
日本じゃ間違いなく、怪しい武装集団かテロリストにしか見えない。
「少年の言いたいこともわかる。自分の身体が『抗体
「そうですね……」
僕は素直に頷く。
何せ、この体質を変えたのはそいつのようだからな。
おそらく廻流は『白コートのアラサー男』と同一人物だろう。
だとしたら、僕がずっと放置されている意味がわからない。
僕が奴なら、「
唯織先輩は話を続ける。
「ですが、こちらの都合で研究所に来る分には構わないと許可を頂いております。その際は迎え入れると約束して頂きました」
彼女の話だと西園寺製薬所の研究施設内で、廻流はずっと引き籠っているらしい。
なんでも実験の際、細菌など外部に漏らさないよう徹底した設備を誇る研究施設だとか。
聞いている限り秘密基地っぽい。
「どの道、直接会うしかないか……まぁいいだろう。イオリ、少し屋敷内を見学しても良いか? できれば父親の書斎とか見させてもらえると嬉しいんだが?」
竜史郎さんは思考を切り替え、唯織先輩に聞いている。
絶対に『西園寺 勝彌』の痕跡を調べるため物色するつもりだと思った。
「はい、父の書斎はあるにはありますが、ここ何年も使用しておりません。仕事上のことは、ほぼ本社で行っておりましたので……」
「それでも構わない」
「わかりました。案内いたしましょう」
唯織先輩は承諾した。
「それで、これからどうするの? この流れだと、明日にでも研究室だかに行く感じっぽいけど、ウチらもう足がないしょ? きっと『検問』には、あの銃を持った
彩花が率直に聞いている。
この子は見かけによらず、意外と的を得ることを言う。
きっと地頭がいいのだろう。
僕をイジったりディスる以外は、実に周囲をよく観察していると思った。
ぶっちゃけ、それをなんとかして欲しいんだけどね。
可愛いくて人懐っこいから、つい許してしまうけど……。
竜史郎さんは両腕を組み、少し考えている。
何故か、僕の方をチラ見した。
「そうだな……チェックメイトまで近づいているのは確かだ。あまり焦る必要もないか……この屋敷内も調べたいしな。しばらく身体を休め、これからの作戦を考えることにしよう。イオリ、しばらく厄介になるがいいか?」
「勿論です。それと行動を移す際は、必ず私もついて行きますからね」
「……わかった」
唯織先輩に念を押され、竜史郎さんは複雑な表情を浮かべる。
最近じゃ、彼女に対して気を遣う場面が多々見られる。
互いに信頼し打ち解ければ解けるほどに……だ。
おそらく竜史郎さんは迷っているかもしれない。
唯織先輩の前で、彼女の父親であり自分にとっては復讐対象者である『西園寺
こうして、二人が屋敷内を散策している間、僕達は地下シェルターへと案内された。
明るいうちは見られなかったが、夜になると稀に
こんな山頂付近の奥でと思うが、検問していた自衛隊さえ武装していたにもかかわらず感染してあの有様だったからな。
きっと相当な数の
あるいは、強力な『変種の青鬼』が潜んでいるかだ。
「万一敷地内に入られた場合を想定して、使用人である私達も宿舎に戻らず地下に寝泊まりしております。旦那様にも、そうするように命じられておりますので」
執事の濱木さんは丁寧な口調で説明してくれる。
また使用人達も自分らが隔離した生活を送っていた様子で、自衛隊が『検問』していることは知らなかった様子だった。
そして外部の情報も乏しいと話している。
中庭にて。
濱木さんが手にしたリモコンを押すと、地面が大きく分かれる。
分厚い金属の扉が出現した。
これがシェルターへ続く扉か……もう外観からしてやばい。
まるで要塞の入り口のような造りだ。
そういえば、メイドの藤村さんは、シェルターから屋敷玄関まで僕達を出迎えるのに10分近くかかっていた。
これが時間のかかった理由か。
ゆっくりと金属の扉が開かれ、僕達は中へと通される。
案の定、西園寺邸の地下シェルターは半端ない。
これまで訪れた美ヵ月学園や安郷苑など比ではなかった。
シェルター内部は地下60mまで続く15階建ての集合マンションみたいなところである。
厚さ2.7mmp鉄筋コンクリートで覆われた壁は核弾頭が落とされても耐えられるという超頑丈な造りらしい。
しかも内装は一流ホテルやクルーズ船さながらで、プールや映画館、バー、サウナ、図書館、トレーニングルーム、射撃場などが完備されているらしい。
ん? 待てよ?
「射撃場ですか!?」
移動しながら説明を受ける僕は声を張らせ聞き返してしまう。
だって、ここ日本だよね?
大豪邸とはいえ、そんなモノがなんで個人宅にあるの?
驚愕する僕に、濱木さんは柔らかく微笑み頷いた。
「はい、ですがあくまでクレー射撃用です。しかし住人達には使用できないよう閉鎖しております。銃弾とて貴重な消耗品ですので……散弾銃は私達使用人が護身用と防衛用で銃弾と共に保管しております。夜崎様達であれば、お手持ちの銃を使用される分は射撃場としての使用が可能です」
凄ぇ、なんでもありだな。
もう、ハワイかって感じ。
しかし驚くのはまだ早かった。
さらに地下にはスーパーマーケットのような物資や食料貯蔵庫があり、野菜など自家栽培室や魚の養殖場などもあるらしい。
地下にいながら食料の確保もできるようだ。
「そんだけの設備なら、ヘアーカラーくらいあるかもね~?」
「ございますよ。色も流行りのモノであれば選ぶこともできます」
メイドの藤村さんが微笑む。
「ラッキー! ねぇ、カナネェさんも一緒に染めあっこしようよ~!」
「そうね……」
香那恵さんは愛想よく微笑むも、さっきからどこか心ここにあらずって感じだ。
やっぱり、「セイヤ」という人物が気になるらしい。
あれ? そういえば僕が手伝う件はどうなっているんだ? まぁ、別にいいけど……。
ちなみに地下シェルターは最大人数80人が住めるようになっており、のち50名の西園寺財閥と縁のある『上級国民』が避難してリッチな地底暮らしを満喫しているらしい。
残りの階は使用人達が住んでいるとのことだ。
「実は別棟の地下もありまして、そこはもっぱら駐車場や
濱木さんの説明に、僕は感覚が麻痺して溜息しか出ない。
「まだあるんですか? けど車が出入りできるなら、それなりに外と繋がるスペースがあるってことですよね?」
「はい。天井の一部が自動車用のエレベーターになっております」
じゃ、ひょっとして天井から
「このシェルターと地下
「ええ、まぁ……しかし、普段は強固な扉で閉ざされており、暗号化されたロック式なので部外者が自由に出入りすることは不可能です」
言いながら、濱木さんは扉の方に指をさした。
確かに入り口と同様、分厚い金庫のような扉だ。
にしても改めて、ガチやばい所だな。
あまりにも規格外すぎて、もう笑うしかない。
そう僕達が呆気にとらわれている中、誰かが近づいてきた。
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