第105話 疑惑の家族写真
ふと僕は壁にかかっている写真を見つめる。
家族写真能ようだ。
唯織先輩によく似た黒髪で凛とした雰囲気を持つ綺麗な女性が、優しく微笑みながら赤子を抱いている。
赤子の衣服から女の子だとわかった。
この頃から品の良さそうな可愛らしい顔立ち。
「奥様の織江様と赤子の頃の唯織様でございます」
執事の濱木さんが説明してくれる。
奥様ってことは、唯織先輩のお母さんだな。
なるほど、よく似ている。
彼女は母親似だとすぐにわかった。
濱木さんの話だと、織江さんは彼女が1歳くらいの頃、心臓の病気で亡くなったそうだ。
他の写真にも織江さんが写っており、父親らしき人と三人で撮られている写真もある。
大柄の体格で高価そうなスーツを着た男性だった。
白髪交じりの黒髪をオールバックにし、品の良い口髭を蓄えている。
三人で撮られている写真では優しそうに笑っているが、他の写真で素の表情もあり、本来は切れ長で目尻が吊り上がっているのだと思った。
そう、唯織先輩が生徒会長で威厳を発し塩対応している時の表情によく似ている。
なるほど、この人だな。
この人が唯織先輩の父親であり――。
「チッ……西園寺
竜史郎さんは舌打ちして見入っていた。
そう、久遠兄妹にとって最大の『敵』でもある。
確かに写真からも厳格な雰囲気が十分に伝わるけど、そんな悪人には見えない。
これだけの屋敷を持ち、世界で活躍する人と考えれば頼もしいカリスマ性すら感じる。
あれ? でもこれらの写真って……可笑しくないか?
僕はあることに気づく。
「唯織先輩のお兄さん……
家族で撮られたほとんどの写真は、父母と赤子の頃である唯織先輩の三人のみだ。
廻流って人が西園寺家の長男なら、きっとそれ以前の写真もある筈だが、それっぽいのが見当たらない。
それに、三人で撮られた構成も何か変に見える。
何かアングルが偏っているような感じであり、写真のサイズも額縁に合ってない。
まるで端の方だけを切り取ったような違和感を覚えてしまう。
若いメイドの藤村
「廻流坊ちゃまは幼い頃から、お体が弱かったのでご家族でお撮りになられた写真がないのです」
長年仕えている執事の濱木さんが説明してくれる。
「へ~え、だったら今の写真とかってないんですか?」
「ございますよ。兄妹でお撮りになった写真が」
濱木さんは棚に置かれていた額縁に収められた写真を見せてくれる。
「このお方が、廻流様です。丁度、10年前のお姿でしょうか。お嬢様が8歳のお誕生日をお迎えになられた頃に一緒に撮られた写真でございます」
唯織先輩の小学生の姿か。
この頃から美人顔なのがよくわかる。
そして彼女の肩に軽く手を置いて傍に立つ、高校生くらいの男子がいる。
彼が長男である、西園寺 廻流ってわけだ。
うん。
唯織先輩から「お兄様」と敬い慕われているだけあり、頭の良さそうな好青年風のイケメンだと思う。
しかし、なんだろう……この彼、以前どこかで見たことがあるぞ。
「セイヤくん?」
僕の後ろで、香那恵さんがぽつりと呟いた。
セイヤだって? 明け方、竜史郎さんが話てくれた孤児院時代の幼馴染だっけ?
「ああ、確かに奴の面影がある……間違いない。なるほど、そういうことか」
竜史郎さんも同調し何かを察して納得したようだ。
「どういうことです?」
「今は言えん……あくまで憶測の範囲だ。はっきりと確信したら後で説明する」
聞き方によっては、この場では言えないとも聞こえる。
「……この人、どこかミユキくんに似ているね?」
隣で一緒に眺めていた、有栖も言ってきた。
「似てる? 僕に? まさか……」
だって僕、こんな爽やかイケメンじゃないし。
色白で髪の長い、典型的な陰キャぼっちだし。
僕から見れば、どこにも似ている要素なんてないじゃん。
「うん、雰囲気というか……何か通じる感じがあるような気がしたの」
有栖にしては珍しく抽象的な表現だ。
彩花も身を乗り出して写真を見つめ、「にしし~」と笑みを浮かべる。
「案外、センパイと腹違いの兄だったりして~♪」
「んなわけないだろ。母さんから、僕は父親似だって言われていたんだ。そんな話なんて聞いたことないし……」
だが待てよ?
母さんの絵里……以前からやたら羽振り良かったよな?
前に亡くなった父さんの財産や遺族年金がどうのって言ってたけど、事あるごとに平気で三万や五万は小遣いとして家に置いて、ほぼ毎日夜遊びして出歩いていた。
生前、父さんは工場を経営する社長だったと聞いたけど、いくら保険や財産を残していたとしても、あそこまでの豪遊はあり得るだろうか?
もし大富豪である西園寺財閥と絵里が何らかの関係性があるのなら、羽振りが良かった説明もつくんじゃ……。
「――似てないよ。だって、お兄ぃの方がカッコイイもん」
美玖は頬を膨らませ、そっぽを向いている。
この子から僕のこと「カッコイイ」っていう台詞は初めて聞いたぞ。
「ごめんなさい、美玖ちゃん。私の言ったこと気にしないでね」
「みくりん、ジョークだよ。ウチら、こう見ても一筋だから」
有栖と彩花は、ふくれっ面の美玖に対して謝っている。
にしても、彩花の「一筋」って言葉が嫌に気になるんですけど……どういう意味?
美玖は二人に向けて、柔らかく微笑み細い首を横に振るう。
「ううん、姉ちゃん達は悪くないよ。ただ、この人を見た途端、身体中がぞわっとしたから、つい……」
写真の廻流って人を見て、何かを感じたっていうのか?
まるで彼に対して不快感や拒否反応を示したかのようだ。
そんな中、唯織先輩がリビング入って来た。
「廻流お兄様と連絡が取れました――西園寺製薬の研究所で、いつでも待っているとのことです。父の所在も聞きましたが、製薬会社と研究所には訪れていないとのことでした。それに、お兄様も自身の研究で、しばらく地上には出向いてない様子で、外で起きている様子がわからないと話していました」
確か廻流って人がいる『研究室』も、他のウイルスが漏出しないため厳重な地下に籠り、ずっと
ぶっちゃけ、僕が行けば血清を元にして、その人が量産してくれるんじゃね?
そうなれば『青鬼』は元に戻せずキルしちゃうけど、『黄鬼』なら条件付けで助けられる人もいる。
終末世界も救えるんじゃないか?
問題とするなら、その廻流って人がどんな人格者にもよるかな。
頭がいい分、私利私欲に走る可能性もある。
提案するにも、その人を見極める必要もあるか……。
なんだか僕、思考も竜史郎さんに似てきたかも。
その『師』である竜史郎さんは、唯織先輩の話を聞き頷いていた。
「わかった……なぁ、イオリ。一つ聞いていいか?」
「はい」
「この写真の彼……廻流は本当にお前の兄なのか?」
竜史郎さんは先程の写真を取り出し、唯織先輩に見せてきた。
唯織先輩は豊満な胸を強調するように両腕を組み、細い指先で眼鏡の位置をくいっと直した。
父親を彷彿させる切れ長の双眸を竜史郎さんに向ける。
「どういう意味でしょうか?」
「……違うなら別にいい。ただ思い当たる奴に似ているんでな」
瞬間、唯織先輩の表情が緩んだ。
「やはり、他の写真を見比べると、血の繋がりがないとわかりますか?」
「なんだと?」
「仰る通り、その廻流お兄様は養子です。本当の廻流は13年くらい前に亡くなっています」
唯織先輩の証言に、聞いていた誰もが絶句する。
実は写真で見た『廻流』は養子であり、本物の『廻流』は既に他界していると言うのだ。
「……そうか。だとしたら、写真の『彼』は誰なんだ? それに本物の廻流に対しては呼び捨てだな?」
竜史郎さんが問い質している通り違和感を覚える。
養子の廻流を敬愛する一方で、本物の廻流に対しては嫌悪感を表しているように聞こえた。
「……あくまで我が家の内輪事ではありますが、この状況で貴方達に隠しても意味もありませんね。私が知る範囲でよければ説明いたしましょう」
唯織先輩は溜息を吐き、『西園寺 廻流』が入れ替わった経緯を話し始めた。
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