第102話 青鬼と銃撃戦
僕達を乗せたワゴン車は猛スピードで突進しようとする。
自衛隊、いや
にしても『青鬼』だって?
実は感染していたって展開は、まだ理解できるとして、どうして理性と知性が消失した『青鬼』が
まともに歩くことすらできない奴らが、そんな器用な真似を……?
だとしたら、その辺に倒れている感染していない一般人の遺体も、こいつら
一つだけ考えられるとしたら、自衛隊員達は全員『変種』の可能性が高い。
滅多に現れない『変種』の
などと、様々な疑念が過ってしまうが、実際に三浦巡査が射殺されたんだ。
クソッ!
せっかく林田巡査が身を挺して守った女性だったのに……。
「ちょい、リュウさん! まさかこのまま強引に突破するつもり!?」
「そのまさかだ! このまま端側のバリケードを突き破り、西園寺邸に行く!」
後部座席にいる彩花に問われ、竜史郎さんは断言する。
「逆にこちらが蜂の巣にされるのでは!?」
唯織先輩も声を荒げ疑問を投げかける。
「俺は運転に集中する! イオリ、それに嬢さんは
竜史郎さんの普段以上に切迫した指示に、僕達全員が「はい!」と素直に返事をして行動に移している。。
ワゴン車の
右手に握られた
唯織先輩は後部ドアを開け、
「まさか自衛隊と一戦交えることになるとはなぁ! いつもお勤めご苦労さん! ハァーハハハッ!!!」
久しぶりにトリガーハッピーを発症させた。
強化された二人は決して闇雲に撃ってわけではない。
確実に遠くにいる自衛隊員質の頭部と顔面にヒットし脳髄を破壊している。
こっそりと覗いたフロントガラス越しから、あっという間に半数以上の自衛隊員達が斃れていくのがわかった。
しかし、こちら側の攻撃に対して、奴らの迎撃が一向に無いように思える。
他の
「弾切れなのか? あるいは知性が乏しい分、装填するのに時間が掛かるのか……ようわからんが好機に違いない! このまま突っ切るぞ!」
竜史郎さんはハンドルを切り、バリケードを突き破って装甲車の間を掠めながらすり抜けた。
その瞬間だ。
ドドドドドドドドドッ!
装甲車の影に隠れていた自衛隊員達が発砲してきた。
トランクとバンパーを中心に銃弾を受け、リアガラスが粉々に割られていく。
「うわあぁっ!」
畳み掛けるような襲撃に思わず悲鳴を漏らしてしまう。
有栖と唯織先輩は怯まず、銃撃してきた自衛隊員達に向けて撃ち返しているようだ。
「やはりそうなるか! その為に待機していたってことか!? どちらにせよ、このまま突き進むぞ! 嬢さんとイオリはもう撃たなくていい、反撃も不要だ! しばらく座席下に隠れていろ!」
竜史郎さんよりアクセルをベタ踏みし、
後部のタイヤが撃たれ
ガタンガタンと揺れまくり、まるで映画さながらのカーチェイスを彷彿させる展開だ。
そんな際どい状況にもかかわらず、僕もこうして現実逃避した思考が過るってしまうのは、きっと恐怖のあまりに危機感が麻痺してしまったからに違いない。
ようやく銃撃が止んだと思った頃、さらなる異変が起きた。
「……ガソリンが減っていく。タンクに穴が開いたのか? このまま走るのはマズイな」
竜史郎さんの言葉に、僕も上体を起こしてチラッとメーターを確認する。
確かに燃料警告灯が点滅していた。
「……ガソリンタンクに銃弾が当たってよく爆発しませんでしたね?」
「少年、あんなの映画だろ? 実際、ガソリンタンクに銃撃を受けたくらいでは引火などせん。まぁ、火花が発したら話が別だがな……だから今の状況はヤバイんだよ」
竜史郎さんが動かなくなったフロントガラスの窓を拳銃でカチ割り、そのまま顔を覗かせる。
タイヤが
当然、金属部分がアスファルトに擦れて火花を散らしている。
なるほど、漏れたガソリンに引火してしまうという意味か……。
逆によく、ここまで持ち堪えたってところだよな。
ワゴン車は減速し、ゆっくりと止まった。
「流石に、ここまで逃げ切れば残った『青鬼』も追って来ないだろう……車を捨てるぞ」
竜史郎さんは車を降りて、穴だらけになったトランクをこじ開ける。
ボストンバックに入った銃器を確認しているようだ。
「良かった、無事のようだ。万一、調べられてもいいよう底に隠しておいて正解だったな……」
「もう、夢と欲望の親密車中泊はできないね、センパイ」
車から降りた彩花が僕をイジってくる。
「な、何を言ってんだよ! 僕は一人で助手席に寝ていたじゃないか! 彩花さん、美玖の前で変なこと言わないでくれます!? 大体、そんなの抱いたことないし!」
いや、なくはないけど、恥ずかしすぎて拒んでいたんだ。
陰キャぼっちの僕だって、自制できず流石に何をしでかすかわかったもんじゃない。
みんな魅力的な女子達ばかりなわけだし……。
そう思いながら、ちらっと有栖を見つめる。
有栖は車から降りて、
「なぁに、ミユキくん?」
瞳が合い、華奢な首を傾げている。
やっぱり可愛いなぁ……だから有栖にだけは嫌われたくない。
いくら最近いい感じだからって、ついその気になって手を出して拒まれたりしたら、僕はもう生きていけない。
「大丈夫だった、有栖さん。怪我はない?」
「うん、沢山撃ってきたけど、どれも銃弾の軌道が滅茶苦茶だったからね。あんなの、そう簡単に当たらないよ」
銃弾の軌道って、まさか見えるのか?
拳銃でも音速だよな?
凄げぇ……身体だけでなく動体視力も強化されるのか?
「二人とも無事で良かったよ。美玖は大丈夫か?」
「うん、お兄ぃ。隠れた時、彩花お姉ちゃんが覆い被ってくれたからね」
「そうか……ありがとう、彩花」
「にしし~♪ いいよん、その代わりに髪染めるの手伝ってね~センパイ」
彩花は真っ白な前歯を見せて要求してくる。
妹の恩人だし、仕方ないので了承した。
香那恵さんと唯織先輩も怪我はなく無事のようだ。
「しかし、まさか『
一通り荷物をまとめた、竜史郎さんが言ってくる。
「
「さぁな。だが奴らの事情に俺達の知らない未知の部分があるのは確かだろう。少年の身体といい……案外、『
「『青鬼』以上の存在……まさか」
僕は困惑しつつ、案外そういう存在もいるんじゃないかと思っていた。
あるいは自分以外に何かを施され、抗体ワクチンの血清を持つ者も――。
今の世界を含む全てが、あの『白コートのアラサー』の掌で踊らされているような気がしてならない。
「よし、ここからは歩いて行くぞ。イオリ、あと何キロだ?」
「50キロくらいはあるでしょうか?」
しれっと答える唯織先輩に、僕達全員が絶句する。
「……どれだけ広いんだ、西園寺邸の所有地は? ったく、ムカつくぜ」
おまけに屋敷は山の頂上付近にあるから、ほとんど登り坂ばかりだ。
普通に歩いて行くより時間が掛かるったらありゃしない。
「仕方ない、休み休み行こう。一晩くらい野宿も覚悟だな――」
竜史郎さんの号令で、各自は溜息まじりで返答する。
それからは
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