第97話 金髪JK革命家
※96話から三日前に遡った話です。
~篠生 彩花side
あたし達が乗ったワゴン車は、イオパイセン(唯織)の実家へと向かっている。
一台のパトカーが先導し、もうじき例の自衛隊が道を塞いでいる『検問所』に差し掛かると思われた。
前は近づくことも出来ず引き返したけど、今回は警察官の三浦巡査がいるので大丈夫だろう。
まぁ、戦闘にもならない限り、あたしは後部座席に黙って座っているだけだけどね~。
そんなあたしは、ふと髪が気になり前髪をかきあげて手鏡を持ち出して眺めた。
金髪の生え際である黒い部分が目立っている。
所謂、地毛の部分ってやつ。
「あちゃ~、そろそろ染めないと駄目だね~。イオパイセン
「私が使用するわけないだろ? しかし地下シェルターはスーパーマーケット並みの物資が豊富だからな。ひょっとしたら、何個かあるかもしれん」
「そっ。無かったら、コンビニで拝借するしかないかなぁ……食料より残ってる確率が高いよね、センパイ?」
あたしは助手席に座る、一つ年上の男子に向けて聞いてみた。
弥之センパイは振り向く。
「……そういうこと、僕に聞かれてもね。けど今時、好んで髪を染めようとする人も少ないと思うから、きっとあるんじゃない?」
「だねぇ。髪染める時、センパイも手伝ってくれない~? どっかのお風呂場でぇ」
「え? いや……な、なんて言うか」
童貞の弥之センパイは返答に困った表情を浮かべる。
この困り顔が地味にあたしは好きなんだよね。
思わずイジって遊びたくなる、うふふ。
「なぁに、センパイ勘違いしてんのぅ? 髪染めるのを手伝ってって話でしょ? まさか、あたしと一緒にお風呂入るのを想像でもしてたぁ? キモ~、ないわ~」
「な、何を言ってんだよぉ! んなワケないだろ!」
やっぱ、センパイはカワイイ。
初心な反応が堪んない……マジいい。
弥之センパイがその気だったら一緒に入ってもいいんだけどね……なんちゃって。
――あの時、初めて会って、あたしが『黄鬼』になりそうだった時。
弥之センパイは、まだ人間であるあたしを守ろうとしてくれた。
あたしから生きるのを諦め潔く死を望んだけど、彼が必死で引き止めてくれたのよ。
そして今、あたしはこうして生きている。
センパイの体質のおかげだ。
あくまで偶然かもしれないし、運が良かっただけかもしれない。
それでも、あたしは弥之センパイに心から感謝した。
気つけば、弥之センパイのことが気になっていた。
彼に興味を持ち、もっと彼のこと知りたいと思うようになる。
だから仲間になって一緒に行動することに決めたのよ。
傍にいることで、少しずつセンパイに惹かれ……好きになった。
こんな感情を抱いたのは、きっと『あの人』以前――いや多分それ以上に気持ちが溢れていると思う。
だって、弥之センパイがヒメ先輩のこと好きなんだろうなって気づいていても、諦めたくない想いが優先している。
以前なら、すぐ諦め逃げていたのに……。
たとえ弥之センパイと付き合えない、叶わぬ恋だとしても……あたしは、ずっとセンパイの傍にいたい。
今なら強くそう思えるから――
「彩花ちゃん、どうしてこだわるの? 染めなくても可愛いと思うよ」
ヒメ先輩が微笑みながら首を傾げてみせる。
相変わらず綺麗で可愛い……おかまけに性格も良く優しい先輩。
見た目だけの嫌な女なら今頃は有無言わずに速攻で、弥之センパイを奪っているのになぁ。
悔しいけど、彼女なら仕方ないと認めてしまっている自分もいる。
ただヒメ先輩も元彼のことで色々悩んでいるみたい。
未練とかでは決してない。
寧ろ、弥之センパイに対しての罪悪感のようだ。
自分が弥之センパイを好きになる資格はないと思い込んでいる。
別に目の前でイチャコラでも見せつけていたのならともかく、変なところで潔癖な性格なのだろう。
だから肝心の一歩を踏み出せない。
既にチェックメイトしているのに、ヒメ先輩はその事に気づいていないみたいだ。
じれったいと言えばそれまでだけど、あたしもライバルにわざわざ塩を送るつもりもないわけで……。
「……私は彩花ちゃんの気持ちがわかるわ。私も、そろそろ染めたいと思っているしね」
カナネェさんはブラウン髪の毛先を見つめ呟いている。
癒し系の美人、しかもスタイルが抜群だから色っぽく見える。
このネェさんも何故か、弥之センパイ推しだ。
あたしは年齢がどうとか言うつもりはないけど……ガチでセンパイ、ライバルが多すぎ。
おまけに最強おっぱいのイオパイセンもガチだし、強敵揃いで思わず挫けそうになる。
――けど、そんなのあたしらしくない。
このシャベルを手にした時から、どんな時だろうと前を向いて進むと決めたんだ。
あたしは感情を切り替え、ニッと前歯を見せる。
「えへへ、大人のカナネェさんと気が合うね~。あとヒメ先輩、あたしね、黒髪でいる自分を見るのが嫌なだけだよ」
ふと
そう、あたしには二つ年上のお姉ちゃんがいる。
――篠生
同じ聖林工業高校の三年生だ。
あたしと違い真面目な優等生であり、長い黒髪がよく似合う綺麗で自慢の姉だった。
そういえば、見た感じの雰囲気がヒメ先輩に似ているかもしれない。
きっとだからだね。
ヒメ先輩に勝てないと思えてしまうのは……。
穂花は剣道部に所属し、全国大会で優勝するほど剣豪として知られていた。
あたしも中学三年まで剣道をやっていたけど、才能がないと悟りやめてしまっている。
そのまま高校に入学したものの、すぐ不登校となり暇を持て余しては街中をぶらついていた。
不登校になった理由は単純に周囲を見ているうちに高校生活がバカらしくなったからだ。
別にクラスで浮いた存在じゃないし、ぼっちでもない。
自分で言うのもなんだが、あたしの見栄えやノリの良さから、男女共に友達は多かったと思う。
同級生から先輩に好意を持たれ、コクられたことも何度もある。
成績だって悪い方じゃない。
どちらかと言えば、クラスカーストでは上位の方だろう。
稀に言うところ、リア充だ。
けど、そこに疲れを感じてしまった。
ふと周囲の環境が嫌になってしまったのだ。
だから周囲から劣っていたり馴染めない相手を罵り底辺に押し込むことで、自分の地位を安泰にしようとする傾向がある。
それが、スクールカーストの実態だと気づいた。
あたしはそんな流れに乗りたくなく、このままダブったら学校を辞めようとさえ思った。
「――そんなのバカらしいじゃん。別に高校は義務教育じゃないし、ゆくゆくはパパの仕事を継ごうと思っているからね。周囲に気を遣ってまで行く所じゃないしょ?」
心配してくる姉の穂花と話し合った際、あたしはそう答える。
しかし昼間から街をブラついていると、時折警察に補導され両親が呼び出される。
ママは世間体もあり、あたしを学校に行くように強く勧めてくる。
大工のパパは理解があり、自分の跡を継げばいいと時折、あたしを現場に連れて行ってくれたりした。
だから、あたしはパパと仲が良く懐いていた方だと思う。
そんな姿勢もあってか高校の同級生から不登校である、あたしのこと「金髪Jk革命家」と揶揄されているようだ。
マジウケる~、炎上させてねぇつーの。
「もう彩花の将来なんだから自分で決めなさい。でもあとで後悔するようならお姉ちゃん、反対だよ」
最後に穂花お姉ちゃんは理解を示してくれた。
けど本音を言うと、一番の原因はお姉ちゃんにある――
あたしは穂花お姉ちゃんを尊敬し慕っている一方で、常に優秀な彼女に対して心なしか劣等感を抱いている。
それはママだけじゃなく、必ずと言っていいほど他の生徒達や教師からも比べられていたからだ。
「あの穂花の妹か、言われてみれば似ている」
「だけど穂花ほどじゃない。彼女とは違う」
そう、常にお姉ちゃんを基準に比較されてしまう。
勝手なことを言うな! あたしはあたしだ!
お姉ちゃんとの違いを表現したかった。
だから髪を金髪に染め、派手な格好をするようになる。
こうして、金髪JKこと彩花が完成した。
でもあたしは今の自分は嫌いじゃない。
お姉ちゃんと異なった、これがあたしの個性だから。
ある意味、自分自身の『革命』を起こしたさえ思っていた。
――そんな時だ。
あたしの前に、『あの人』が現れたのは……。
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