第95話 絶対者のΑΩ




 ~笠間 潤輝side



 かれこれ一週間以上になるだろう。


「――やあ。おめでとう、潤輝君。キミが最初の『赤鬼レッド』だ」


 西園寺製薬所の研究所、とある地下室にて。

 

 ボクは意識を取り戻した。

 とても広々とした、美ヶ月学園の体育館以上の空間であり部屋だった。


 その周囲は、ボクが食い散らかした医師や看護師の姿、そして患者達と思われる遺体が血塗れで散乱して放置されている。

 まさに地獄絵図の光景だ。


「ここはどこだ? ボクはどうしていたんだ? それに、この両手の皮膚……なんか色塗られたみたいに真っ赤じゃないか!?」


「覚えてないのかい? 地下の研究施設ラボだよ……西園寺製薬のね。キミはお父さんに助けられたんだ。親子の愛ってやつでね」


「父さんがボクを助けた? あんた誰だ?」


 ボクは悠然と立ち尽くしている、長身で銀縁眼鏡を掛けた白コートの男を見据える。

 男の隣には、ドレス姿で真っ白な髪と皮膚を持つアルビノのような小さな女の子が寄り添うように立っている。


「口を慎みなさい。この方への無礼は許しませんわ」


 ああ、この綺麗な声……覚えがある。

 無意識の中、ずっとボクに語り掛けていた声だ。



 ――人間を1000人食らいなさい。そうすれば、貴方は至高の存在に進化することができるでしょう。



 その声に導かれるまま、ボクはここにいる人間達を食らいまくった。


 ボクは血塗れの床に両膝をつき、頭を下げてひれ伏した。


 思考じゃなく、本能で平伏したんだ。

 この真っ白な少女に向けて。


「流石はミク……人喰鬼オーガの真祖たる『ΑΩアルファ・オメガ』だ。私は『西園寺 廻流かいる』。キミと幼馴染である、唯織の兄だ。確か、キミとは初対面だったね? いつも妹が世話になっているよ」


 西園寺 廻流かいる? 西園寺財閥の御曹司だって!?


 確か西園寺製薬会社に所属する研究員で、相当頭のキレる優秀な息子だと父さんから聞いたことがある。


 本人が言う通り、ボクは会ったことはない。

 普段から地下の研究所に入り浸りらしいからな。


 前に屋敷に遊びに行った際、唯織から写真で見せてもらった程度だ。

 確かにスマートで写真どおりの頭の良さそうなイケメン……。


 ――けど、こいつは違う。


 こいつは、本物の廻流かいるじゃない。


 その廻流は、ボクが偽物に気づいていると知らずに余裕の笑みを浮かべている。


「潤輝君、さっき言った通りだ。キミは進化したんだ。ここにいる彼女、『白鬼ホワイト』に仕える忠実な人喰鬼オーガとして」


「白鬼? 忠実な人喰鬼オーガ?」


 ボクからの問いに、白コートの男こと『西園寺 廻流』は頷く。


 何故、ボクがこうなってしまった事の詳細を説明してきた。




 ボクが有栖と共に美ヶ月学園を抜け出した後、すぐ人喰鬼オーガ達に遭遇する。


 有栖を囮役にすることで、その場をやり過ごすことはできたが、すぐ別の人喰鬼オーガに襲われて『黄鬼』となってしまった。


 そもそもなんで生徒会と揉めて学園を抜け出したかって?


 決まっているだろ?


 気に入らなかったからだ。


 何もできない癖に優秀なボクに依存してばかりの無能な糞連中。

 見返りもなくボクを顎でこき使ってばかりの『西園寺 唯織』。

 これまで躓くことなく順風満帆だった人生を狂わされた世界そのモノにだ。


 ボクはブチギレ、唯織と揉めた。


 あの女は「我ら生徒会が生徒を導かないでどうする?」とか偽善者ぶった理屈ばかり言いやがって、結局損をするのは有能な人間ばかりだ。


 だったら最も有能なボクだけが生き残ればいい――


 そう思って学園を抜け出したんだ。


 有栖はついでだな。

 なんだかんだボクの傍にいてくれたし、裏切ることはないと信用もしていた。

 二人で生きていけば、そのうちエッチもさせてくれるだろう。


 そう思って誘って一緒に抜け出した。


 なのに、あの女……最後の最後でボクを裏切っていた。


 クソッ……よりによって、あんな奴なんかに……。



 まぁ、いい。

 話を戻そう。


 『黄鬼』になったボクは激しい空腹が襲うも、まだ意識はある。

 思考がある内に、父が経営する『笠間病院』を目指して歩いた。


 途中、病院を抜け出して自家用車で逃げていた父さん達と遭遇する。


 何故か父さんはボクが感染していることを知っており、ボクは拘束されてすぐに西園寺製薬所の地下研究室と連れて来られた。


 そこから記憶を失くし、ボクは『青鬼』になったんだと思う。




「父さんは、ボクの父さんはどこだ? 床に散乱している遺体はなんなんだ?」


「そこら辺の亡骸は、キミが食い散らかした避難民だよ。『笠間病院』で勤務していた医師や看護師、入院患者から通院患者までね。キミのお父さんが『捕食者リスト』を使って、わざわざ呼び寄せたのさ。キミに捕食させるために、この地下研究所を安全かつ最適な避難場所シェルターと偽った上でね」


「捕食者リスト?」


「まぁ、被験者あるいは『患者リスト』とも言うべきか……昔から、笠間病院は西園寺製薬所と癒着目的で、『とある国』を経由してやり取りしていたんだよ。癒着と言っても、あくまで表向きであり実際は金銭的なもたれ合いじゃない――『人体実験』目的だ」


「人体実験だと!?」


「そう。全ては『ΑΩアルファオメガ』……ここにいる、彼女を創るためにね」


 廻流の言葉に、隣に立つ真っ白な美少女『白鬼』ことミクは両手でスカートを摘み丁寧にお辞儀して見せてくる。


 『ΑΩアルファオメガ』……西園寺製薬所のシンボルマークでもある。


 始まりと終わりを意味するらしい。

 つまり彼女は人体実験を重ねて創られた存在のようだ。


 だとしたら……。


「――西園寺財閥が人喰鬼オーガを創ったのか!? ウイルスとして世界中にばら撒いたってのか!?」


「当たっているようで間違っている。人喰鬼オーガの起源とされる『ΑΩアルファオメガウイルス』は『とある国』を介して、ここ西園寺製薬所の地下研究室で創られた。しかし創ったのは、あくまで私……いや、このオレだ。この事を知っているのは、『とある国』に左遷された少数の研究員しかいない。無論、父である『西園寺 勝彌かつみ』も知らないこと」


「一体なんのために……?」


「キミが知る必要はない。それと、父親のこと心配していたよね? ほら、彼ならそこにいるよ」


 廻流が指を差した先に、複数の人喰鬼オーガ達が一ヵ所で屯している。


 その中でドクターコートを着た中年の男が蹲っていた。

 男は感染して『青鬼』となっており、ボクが食い散らかしたであろう遺体の残骸をひたすら頬張っている。


 ボクはそれがすぐ自分の父親だと理解した。


「父さん……どうして人喰鬼オーガに?」


「キミを研究所まで運んだ後、自宅で奥さんに噛まれたらしい。つまり、キミの母親にだ。どこかで感染したのだろう」


「母さんが?」


「キミの母親は死んだよ。夫を噛んだと同時に、彼自らがゴルフのドライバーで滅多打ちにしたようだ。オレも笠間先生にはお世話になっているからね……ミクに頼んで彼をこの研究所に呼び寄せたんだ。潤輝君、キミと対面させたくてね」


「呼び寄せた……父さんを? その子が?」


 ボクはちらりと、『白鬼』ことミクに視線を向ける。


人喰鬼オーガなら、たとえ遠隔でも指示を与えて呼び寄せることができますの。どんな指示でも容易ですわ」


 ミクは腕を伸ばし、指先を一体の『青鬼』に向ける。


 看護師の姿をした人喰鬼オーガだ。

 あの看護師……確か父さんの愛人セフレだった女だ。


 父さんの浮気に気付かないフリをしていた母さんが、よく愚痴を漏らしていたのを思い出した。


 すると看護師の『青鬼』は立ち上がり、まるで操り人形のように奇妙なダンスを踊り出す。

 しかもやたら動きがキレッキレだ。


「そして、殺すこともできますわ――死ね」


 ミクが指先を横に振った瞬間だ。



 パン!



 看護師の『青鬼』の顔面が膨張し腫れあがり、風船の如く頭部ごと破裂する。


 無惨な首なし状態となり、その場に倒れて死んだ。






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