第94話 白鬼と偽りの男




~笠間 潤輝side



 谷蜂の死に際をボクは離れた距離で眺めていた。


「――今の連中は副会長の富樫に一年生の城田か? 懐かしいじゃないか……っと言っても、まだ一ヵ月とちょっとぶりか?」


 特に『城田 琴葉』は学園三大美少女に数えられ、このボクにぞっこんだったんだよな?

 

 こんなことなら、食っておけばよかったな……今なら本当の意味で食ってやれるけどね。


 『赤鬼』となった、このボクがね。

 しかし、城田は今のボクを見たらなんて思うだろうか?


 ぱっと見は以前と変わらないも、顔から全身の皮膚が赤い絵の具で塗られたかのように染められている。

 どう見ても異質な存在だと自負している。


「イオネエ、いやの唯織の姿が見えなかったな。たまたま不在なのか、それとも既に感染して死んだのか……まぁ、あの女のご身内であるあの方・ ・ ・から生存確認の指示を受けたわけでもない。あくまで、ボクの個人的な理由だ」


 ボクはニヤっと唇を吊り上げる。


 嘗ての幼馴染であり姉として慕っていた、西園寺 唯織を捕食して下僕にしたい。

 人喰鬼オーガとしての性が疼いていた。


 同時に、ある女の姿も脳裏に過る。


 スタイル抜群で綺麗な黒髪の美少女、嘗て交際していた彼女。


「――裏切り者の有栖。お前だけは許さない!」


 欲情と憎悪が入り混じり、ボクは醜く顔を歪ませる。



 わざわざ谷蜂を向かわせたのは理由がある。

 美ヶ月学園の現状がどうなっているか探るためだ。


 つい先程、口にしていたあの女・ ・ ・の生存が知りたかった。


 幼馴染であり、一時は姉として慕っていた『西園寺 唯織』だ。


 父親同士を介して仲良くなった一つ年上の女。

 子供の頃から愛称で呼び合い、それなりに仲が良かった。


 ボクは唯織を姉として以外の感情も抱いていた時期もある。


 それは彼女の身体が女として成長するにつれて益々深く募ってしまう。

 特に胸なんて、中学の頃から凄いことになっていた。


 ボクも思春期の男の子だ。


 つい魔が差して、一回だけ唯織のおっぱいを触ったことがある。


 しかし、あの女は空手の有段者だ。

 ブチギレられ、ボクの腹部に容赦なく正拳突きを食らわせてきた。


「……ジュン、二度とするなよ。次はないと思え!」


「わ、わかったよ、イオネエ。冗談さ……ハハハ」


 その時はおっかなく、愛想笑いして誤魔化したが、めちゃ痛くてガチでムカついた。

 テメェの乳が反則級にデケェから、ムラっとしただけだろって思ったさ。


 けどそれ以来、唯織はボクを遠ざけるようになる。


 父さんから「西園寺家のご令嬢とは仲良くしなさい」と言われ、こりゃマズイと思い、あの女の気を引くために生徒会に入り書記をする羽目となった。


 ボクはバスケ部のエースでもあったから、んなのやりたくなかったけど仕方ない。


 まぁ、おかげで生徒会長である唯織の中でボクの評価も上がり、事あるごとにボクを頼るようになった。


 学園の三大美少女の一人と称えられ、周囲に威厳を放つ生徒会長のお気に入りの幼馴染。

 実態はどうあれ、形式上でもボクの地位を上げるのに一役買ってくれたようなものだ。


 結果オーライ。


 これも、ボクの『強運』がなせる技ってやつかな。


 そして、高一から付き合っていた彼女――『姫宮 有栖』。


 こいつも、ボクを引き立たせるのに十分な女だった。


 見た目は抜群な美少女。おまけに性格も良く、誰もが見惚れる高嶺の花。

 そんなアイドルのような女と付き合っているボクこそ、より完璧人間だったと言えるだろう。

 落すのに相当苦労もしたけどね……。


 だが、有栖の奴……一度もエッチをさせてくれない。

 せいぜいキス止まりがいいところだ。


 頭に来たので、他の女で性欲を満たすことにする。

 ボクに憧れるバカそうな女を適当に釣ってヤッた。


 けど、有栖と別れる選択肢はボクにはなかった。


 当時のボク達は誰もが称賛する、学園のベストカップル。


 別れたとなれば芸能人以上の話題となり、下手をしたらボクの地位が下がってしまう。


 学年カースト一位としての地位だ。


 それに、ボクの親友と言われた『渡辺 悠斗』。

 あいつも有栖に惚れて狙っていたからな。


 見せつけるためにも余計別れるわけにはいかない。


 悠斗なんぞに取られるくらいなら、たとえ処女のままでも一生ボクの傍に置かせる。


 そう思っていた。


 けど、意外な糞野郎のせいで、有栖の裏切りが発覚したんだ。


 ……あの男め、絶対に許さないぞ!



〔――潤輝さん〕


 ん? この思念……やばい! あの子からだ!


 ボクは急いで思念のチャンネルを合わせる。


(や、やぁ……ミク・ ・ちゃん。どうしたんだい?)


〔『赤鬼レッド』を増やす件はどうなりましたか? 経過報告をお願いしますわ〕


(あ、うん……ぼちぼち候補達を集めている。たまに『運』のない残念な奴はいるけどね。今もそいつを看取ったところさ……)


〔しっかりと育成サポートを頼みますよ。今の所、『赤鬼レッド』は貴方しかおりませんの。このわたくし、『ΑΩアルファ・オメガ』を支えるには『赤鬼レッド』の存在は不可欠です。聡明な潤輝さんなら、この意味はわかりますわよね?〕


 口調こそ、さもお嬢様っぽくお淑やかだが明らかにトーンが苛立っている。

 マズイ……この子だけは怒らせちゃいけない。


 何せ――


(も、勿論さ……ボク達、人喰鬼オーガの真祖であり完全なる存在。それこそが元素となる『ΑΩアルファ・オメガウイルス』――つまりキミのことだろ、ミクちゃん? いや人喰鬼オーガ側の『救世主メシヤ』……あるいは『白鬼ホワイト』と呼ぶべきかな?)


〔わかっているなら結構ですわ。早く仲間を増やしてくださいね。次に1体でも増えてなければ――――殺すぞ〕


 その言葉で、ボクの背筋は一瞬で凍り付く。

 彼女が本気になれば、ボクは今すぐにでも殺されてしまう。


 それが絶対的な女帝、『白鬼』の力なんだ。


(わ、わかっているよ! どうかボクに任せてくれ! この通りだ!)


 誰もいない場所で、ボクは跪いて土下座をする。

 プライドなど、どうでもいい。

 彼女を……ミクをこれ以上、怒らせるわけにはいかなかった。


〔……いいですわ。今、『廻流かいる』様からも、その辺にしてやれと指示がありました。本当に『悪運』の強い方ですね、潤輝さん〕


(カイル様……あのお方も、お傍にいらっしゃるのかい?)


〔当然ですわ。わたくし達とって『神』のような存在ですの。勿論、貴方にとってもよ〕


(わ、わかっているよ……必ず目的は果たすとお伝えください)


〔ええ、では――……〕


 ミクの思念が途切れる。


 ボクは頭を上げ、深い溜息を吐いた。


「クソッ! 西園寺 廻流かいるめ! あの偽物・ ・がぁぁぁ!!!」


 いくら『赤鬼』だろうと、人喰鬼オーガである以上、『白鬼』であるミクには絶対に従わなければならない。


 彼女の気分次第で、いつでもボクを殺せるからだ。


 だが、『西園寺 廻流かいる』は別だ!

 あいつは人間じゃないか! 


 全ての元凶である男――。


 人喰鬼オーガに感染させるウイルスこと、『ΑΩアルファ・オメガウイルス』を創った張本人だ。


 けどボクは知っているぞ。


 あいつは本物の『西園寺 廻流かいる』じゃない。


 ――偽物だ!


 本物の『廻流かいる』は、あんな理系風の爽やかイケメンじゃない!

 さも贅の限りを尽くしたようなブクブクと太った豚みたいな奴だ。


 昔、父さんから聞いたんだ。

 本物の『廻流かいる』が、どうなったのかをな!


 ……しかし、まぁ。


 法も秩序もない、この世界でその真実をぶちまけたとして何の意味もない。


 もっとも人喰鬼オーガであるボクでは何もできない。


 あまりにも相手が悪すぎる……。







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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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