第六章 畏敬ノ鬼神

第91話 支配するレッド

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この章は全9話であり主人公チームより裏の世界に主な視点が当てられております。サイドストーリー的な要素が強い形です。

また主人公チームのある一人の謎と過去に触れていく感じとなります(#^^#)

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 ~谷蜂たにばち 葦呉あしおside



 ちきしょう……。


 また冒頭から、この出だしかよ。


 だがムカつく。


 あの『夜崎 弥之』ってガキめ……。

 医者である、僕の利き腕を打ちやがった。


 クソッタレがぁ!


 神の腕を意図も簡単に傷つけやがってえ!

 こんな腕じゃ、患者の手術できねーだろうが!


 まぁ、たまに手術ミスして笠間理事長と医院長に揉み消してもらったけどね。


 ……にしても、ムカつく。



「夜崎 弥之……久遠 竜史郎……こいつらだけは絶対に許さない……絶対にぶっ殺してやるぅ……この医者である僕の身体に傷を負わせやがってぇ」


 あの『安郷苑』から抜け出し、僕は延々と歩いていた。


 辺りはすっかり夜となり、自分がどこに向かっているのかわからない。


 別に行く所なんてない。

 ただ、あの施設にはいたくない……その思いだけで必死で逃げきたんだ。


 ライフルで撃ち抜かれた右上腕部の銃創は止血したものの、上腕骨が砕かれている。

 本来なら手術が必要であり、全治一ヵ月ってところだろう。

 おまけに美玖ってガキに頭突きされ、肋骨が数本折れてしまっていた。


 だが、今の『遊殻市』にろくな医療体制があるわけではなく、そもそも手術する医師すらいない。


 流石に自分の腕を自分で治療はできないので、辛うじて応急処置だけは行った。


 あとは笠間病院から抜け出す際にくすねた、鎮痛剤と薬物を身体に注入して痛みを誤魔化しているがどこまで持つか……。


「――随分と苦しそうですね、谷蜂先生?」


 ふと背後から声が聞こえた。


 随分と若い男の声だ。

 しかも聞き覚えがある。


 そう、あの笠間病院で何度か顔を合わせ、挨拶と言葉を交わしたことがあった。


 僕は足を止め、後ろを振り返る。


 暗がりの中で、男が一人で立っていた。

 

 まだ少年、いや青年といったところか。


 美ヶ月学園の制服を着ており、すらりとした高身長。

 爽やかで整った顔立ち、如何にも育ちの良さそうなカースト上位でエリート系。


 ああ、間違いない……彼は、


「……笠間 潤輝君だね?」


 そう、笠間病院の理事長の息子だ。


「覚えて頂いたんですね、光栄です」


 潤輝は爽やかに微笑みながら、ズボンのポケットに両手を入れながら悠々と近づいてくる。


 見たところ、特に目立った武装はないようだ。

 どこから見ても普通の学生。


 それだけに違和感しかない。

 特に今の時代なら尚更のことだろう。


 僕は左手をドクターコートのポケットに手を入れる。

 医療用のメスを握りしめた。


 万一のための隠し武器である。


「キミ一人かい、潤輝君?」


「いえ、後ろに仲間達がいます」


「な、仲間? お友達かい?」


「いえ、仲間です」


 やたら『仲間』を強調してくる。


 ってことは、そいつらに守られながら過ごしているってわけか?

 相変わらず一人じゃ何もできない、正真正銘のお坊ちゃまなことだ。


 この潤輝は、親から英才教育を受けているだけあり、頭もよく他の者達より優秀な部類だと思う。


 しかし所詮は温室育ちのお坊ちゃま。


 少し躓いただけで、イラつきヒステリックに取り乱しては周囲に当たり散らす。

 そういった精神的な弱さを合わせ持つ。


 潤輝とは数回程度しか会ってないが、その人間性がよくわかる。

 初めて会った時から彼には僕と通ずるモノを感じていたからね……。


「……潤輝君、キミのお父さん……いや笠間理事長は?」


「ええ、すぐそこにいますよ」


「本当かい!? 理事長は生きていたのかい?」


「……生きている、ですか……まぁ、なんといいましょうか」


 急に歯切れが悪くなる潤輝に、僕は余計に不信感が芽生える。


「……どうして、ここに? 僕に何か用かい?」


「ええ、谷蜂先生。その右腕の負傷……随分とお辛そうなので、よろしければボクが治してあげようと思いまして」


「治す? キミが? いくら理事長の息子だからって医師でもない素人のキミが治療できる筈がないだろ?」


「治せますよ――今のボクならね」


 潤輝はしれっと言いながら、さらにこちらへと近づいてくる。

 ズボンのポケットから片腕を出し、パチンと指を鳴らした。


 すると消えていた街灯から照明が燈され、彼の姿がより鮮明に映し出される。


 その姿に、僕は思わず細い双眸を見開いてしまった。


「――潤輝君! キミの顔、なんか赤いぞ!?」


 言葉のままだ。


 赤みを帯びたとか、そういった比喩ではない。


 本当に赤。


 正真正銘の真赤な皮膚。

 首筋から頬に掛けて黒い血管が浮き出ている。


 さらに瞳の結膜部分が漆黒に染まり、瞳孔が赤く煌々と光っていた。


 その姿はまるで――


人喰鬼オーガみたいじゃないか……じゅ、潤輝君、キミはまさか感染しているのか?」


「ええ、まぁ。『赤鬼』っていうらしいですよ」


「あ、赤鬼!?」


 初めて聞いたぞ、そんな種類……一体なんだってんだ?


 それに、潤輝の奴。


 感染している筈なのに、見た目以外は普通っぽくないか?

 話し方といい、身振り手振りといい……。

 とても知性を失った本能で動くだけの人喰鬼オーガとは思えないぞ。


「ボクの存在がそんなに驚異ですか、谷蜂先生?」


「ああ……正直とても感染者とは思えない」


「そうですよね。ですがこうなってから、僕はすこぶる気分がいい。特に夜は絶好調なんです。ここまで導いてくれた、あの子に感謝しなきゃ」


「あの子だと?」


「――『白鬼』です。ボクら側の女帝、いや『救世主』と言っても過言じゃない。その子が導いてくれたんです。『人間を1000人ほど食らえば、青鬼からさらに進化できる』とね……そして、ボクは『赤鬼』へと進化したんだ」


 『青鬼』から『赤鬼』に進化だと!?

 しかも人間を1000人も食った!?


 それに、『白鬼』って何だ?


 人喰鬼オーガ側の救世主――そんな奴まで存在するのか!?


 だが救世主と壮語する割には、「あの子」とは妙に軽い呼び方だ。

 まるで同年代、あるいは年下に対しての敬称に聞こえる。



 潤輝はもう一度、指を鳴らした。


 すると、彼の背後にある暗闇から、ぞろぞろと『青鬼』が現れる。


 こいつら全員、潤輝が言っていた『仲間』か?

 にしても数が多い……ざっと見ても100体以上はいるんじゃないか?


「『赤鬼』は『青鬼』を支配することができる。上下関係がしっかりしているから、『友達』とは言えないでしょ、谷蜂先生?」


 悠然と喋る潤輝の後ろに潜んでいた一人の『青鬼』が前に出て来る。

 僕と同じ、ドクターコートを纏った初老の男性。


 僕にとって、潤輝よりも見覚えがある存在。


「――笠間理事長!?」


「そっ、ボクの父さんだ。今じゃ従順な下僕だよ」


「潤輝君! キミが理事長を……自分の父親をこんな姿にしたのかね!?」


「ちょっと違うけど結果的にそうなるかな。だけどボクが『赤鬼』になることは、父さんが望んだことでもある。『黄鬼』になったボクを捕獲して『白鬼』の進言通りに、人間を食べさせてくれたのも、全て父さんのおかげなんです」


「なんだって!? しかし、どうやって1000人もの人間を!?」


「笠間病院に入院、また通院利用している患者や医療スタッフを拉致すれば簡単じゃないですか? そういや谷蜂先生も、その『捕食者リスト』に入っていたけど、まんまと逃げられたって生前に父さんが愚痴っていたそうですよ」


 なんだと、この野郎!

 僕をドラ息子の餌にしようとしていたのか、コンチクショウめ!


「……いいね、その殺意。気に入ったよ、谷蜂先生」


 僕の怒りを他所に、潤輝はニヤっと不敵に笑った。






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