第80話 胡散臭い避難民達
「その『彼』について、美玖は何か聞いてないのか?」
「わかんない……でもお医者さんの話だと、その人の手引きでお兄ぃは入院になったって言ってたよ」
「なんだって?」
僕は頭の片隅にある人物が浮上する。
銀縁眼鏡を掛けた理系風の男――。
僕を一カ月間、昏睡状態にした『白コートのアラサー男』だ。
あいつが、僕の母さん……絵里と繋がっているというのか?
一体、どんな関係なんだ?
自分の母親ながら、絵里も謎が多かったからな。
シングルマザーのパートタイムだった癖に、やたら羽振りがよく、夜は必ずって言っていいほど繁華街で遊びに歩いていた。
ふと、死んだ不良グループの『山戸 健侍』の言葉を思い出す。
あいつが僕に絡んだのも、その『アラサー男』の手引きだった。
それから具合が悪くなり、『笠間病院』へ運ばれたんだ。
僕の奇妙な体質といい……。
全て、その男を中心で繋がり回っているような気がする。
現に、僕は
いくら異父兄妹とはいえ、作為的な何かを感じてしまう。
「少年。どの道、谷蜂に会えば詳細がわかるだろう。今の話だと、その『彼』と会うように手引きしたのは谷蜂のようだからな。香那恵も一部始終を見ていたんだろ?」
「ええ、前にも話したけど、二人で『理事長室』に向かっていた所までは見ていたわ」
「ってことは理事長とも面識のある、それなりの権威がある男……医者か? あるいは西園寺製薬の重役か?」
竜史郎さんは憶測を立てつつ、チラっと唯織先輩を見つめる。
「確かに笠間病院は西園寺財閥が設立した医療法人、『
唯織先輩がわからないのも当然か。
そもそも学生である彼女に、西園寺製薬と笠間病院の医師が臓器売買などの怪しい癒着関係にあるなんて知る筈がない。
――どちらにせよ、谷蜂に会ってはっきりさせる必要がある。
そう思っている中、佐伯さんが戻って来た。
谷蜂を連れてくると言ったのに何故か一人だ。
「……すまない。先生は一階に降りることを拒否している。『僕に会いたきゃ、そちらから来いよ、オラァ!』とのことだ」
「……わかった。ならば、そうしよう。行くぞ、みんな」
竜史郎さんは顔を顰めるも大人の対応をする。
僕を含め全員が複雑な胸中で立ち上がった。
そういや、僕が笠間病院へ搬送された際、「感染の恐れがある」とかで真っ先に入院を拒んだのもこの医者だったな。
噂以上の傲慢な医者のようだ。
それから佐伯さんと百合紗さんの案内で移動することになった。
一階の階段は
二階から三階まで、避難してきた一般人の居住エリアだとか。
複数の家族が一室にて共同で暮らしていたり、リビングや廊下びっしりにパーティションで区切って生活空間を作っているなど、大勢の人達がすし詰め状態でそこで暮らしている。
僕達が来所した時、佐伯さんが「誰も受け入れられない」と言った意味がよく理解した。
この施設は、もう避難民で限界なのだと。
しかし随分と周囲から奇異な目で見られている。
初めは、僕達が銃器で武装しているからだと思ったが、どうやらそれだけじゃないようだ。
「美玖ちゃん!?」
甲高い声が響く。
ショートカットの女の子が人混みを掻き分け走ってきた。
「ナオちゃん!」
美玖とナオちゃんと呼ばれた女の子は手を握り合う。
「美玖ちゃん、治ったんだね!?」
「うん、この人達に治療してもらってね。ナオちゃんも無事で何よりだよ」
「美玖ちゃんが守ってくれたからだよ……あのまま怪物になったらどうしようかと思ったけど良かったぁ」
仲睦まじく互いの安否を気遣う二人。
その光景に、こっちまでつい表情が緩んでしまう。
美玖は僕の身体のことをまだ知らない。
特にこの場所では、まだ知らない方がいいと思った。
ひょっとしたら、彼女を巻き込んでしまうかもしれないからだ。
「……本当にワクチンは存在するんだ」
誰かが呟いた。
それに釣られる形で周囲がざわつき、じっと僕達の方を見つめている。
――美玖が人間に戻ったことで、抗体ワクチンの存在が知られてしまった。
竜史郎さんが庇ってくれたから、僕がその体質を持っていることは伏せられている。
けど、こうして周囲を眺めていると恐怖を感じてしまう。
まるで中世の『魔女狩り』のような集団心理の禍々しさ――。
「……悪いことは言わない。貴方は早々にここから出て行った方がいいわ」
案内役の百合紗さんは、竜史郎さんに向けて小声で忠告している。
「ありうがとう、ミセス。わかっているが俺にも目的がある。それが終わるまで厄介になるつもりだ。その代わり、売られた戦いは容赦しないタイプだからな」
竜史郎さんは言い切り、素早く
そのままある場所に向けて翳した。
「ひぃいっ!」
如何にもガラの悪そうな三人の男達がパーティションから出てくる。
悲鳴を上げて逃げて行った。
まさか、あの連中……隙あればとでも思ったのだろうか?
ガチで胡散臭い所だ。
いや案外、僕達というイレギュラーな存在が、ここの均衡を崩しているのか。
百合紗さんじゃないけど早々に出行った方が良さそうだ。
「そうだ、ナオちゃんだったね? お父さんにお礼を言ってくれないかい?」
僕は美玖に寄り添う女の子に笑みを浮かべる。
「この人、だ~れ?」
「私のお兄ちゃんだよ」
「ふ~ん、なんかイメージと違うね。こっちの黒くてカッコイイ人だと思ったよ~」
ナオちゃんは竜史郎さんに向けて指を差す。
うん、子供は正直だ。
けど、竜史郎さんだと相当歳が離れているじゃないかい(怒)!
「にしし♪ センパイの魅力もお子ちゃまには理解できない見たいっすね~」
彩花が茶化すように言ってくる。
何、僕の魅力って? イジりやすいキャラとか?
知らねーわ、そんなの。
「お父さん、美玖ちゃんが治ったって知ったらほっとすると思うよ~。谷蜂先生にお父さんがいくら診てもらうようにお願いしても相手にされなかったからね~」
「そうなのかい?」
「うん、自分も感染するかもしれないからって……今じゃ、ずっと四階に入り浸りだよ」
「はぁ、谷蜂先生らしいわね……尚更輪をかけて酷くなったかもしれないわ」
奴を良く知る看護師の香那恵さんは溜息を吐いて呆れている。
医師としての職務放棄ってやつか?
まぁ、僕の時もそんな感じだったようだから今更驚かないけどね。
「そういう奴が医者として、笠間病院でそこそこ成立させていたんだ。何か興味深い情報を知っているかもしれん」
「竜史郎さん、興味深い情報とは?」
唯織先輩が首を傾げて聞く。
「……会ってみればわかるだろう」
仲間とはいえ、流石に疑惑だらけの重要人物である実娘の彼女には言えないようだ。
もしこれまでの憶測が本当だとして、それを知ってしまったら……唯織先輩はどうするのだろう?
「ミユキくん、どうしたの?」
僕が考え込んでいると、有栖が顔を覗いてくる。
「なんでもないよ……四階に行こう」
「うん」
ナオちゃんと別れ、僕達は四階へと向かう。
入居者であるお年寄り全員が集められているだけあり、二階と三階同様に人々で密集されていた。
ただ頑丈な介護用のベッドがあるだけマシなのかもしれない。
「――谷蜂先生はあそこにいる」
佐伯さんが指を差した場所に男がいた。
見晴らしの良いスタッフルームで一人、悠々とくつろいでいる。
ドクターコートを着用し、中太りの中年男。
丸眼鏡を掛けた白髪交じりの坊ちゃん刈り、双眸が細く吊り上がった如何にも傲慢そうな雰囲気を持つ医師。
前に香那恵さんからスマホで見せてもらっているので間違いない。
こいつが、
──────────────────
お読み頂きありがとうございます!
もし「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、
どうか『★★★』と『フォロー』のご評価をお願いいたします。
【お知らせ】
こちらも更新中です! どうかよろしくお願いします!
ハイファンタジーです(^^)
『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』
↓
https://kakuyomu.jp/works/16816452218452299928
『今から俺が魔王なのです~クズ勇者に追放され命を奪われるも無敵の死霊王に転生したので、美少女魔族を従え復讐と世界征服を目指します~けど本心では引き裂かれた幼馴染達の聖女とよりを戻したいんです!』
↓
https://kakuyomu.jp/works/16816452218452605311
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます