第四章 封鎖都市
第73話 新たな受難
あれから近場の暴力団事務所に殴り込みに行き、新たな銃器と銃弾を入手する。
さらに黒のワゴン車を強奪した。
「しかし日本のマフィアは何でも手に入るな。また何かあったら、違う事務所にも立ち寄らしてもらおう」
竜史郎さんはボコボコにして正座させられているヤクザ達を尻目に機嫌よく微笑む。
まるでコンビニ並みに手頃さを感じている様子だ。
しかし暴力団にとって僕達は蝗害のような存在だろう(笑)。
「そういえば、竜史郎さん。以前、他に仲間がいるって言ってましたよね?」
荒れ果てた道路を入手したワゴン車で走らせる中、助手席に座る僕は運転する彼の横顔をチラ見した。
「ああ、俺の密航を手引きしてくれた戦友な。きっと、まだアメリカにいるのだろう……少なくても日本よりも安全だからな」
「日本よりも安全? 感染者が少ないって意味ですか?」
「違う。規模や人口が多い分、感染者も比例している筈だ。俺が言っているのは武装の面だ。あっちは簡単に銃器が手に入るからな。一般市民を初め年寄りから子供だって自分の身は守れる。なんでも行政任せの日本とは違う」
「……まぁ、それが日本の秩序を守る美学でしたから」
寧ろ世界のお手本となる良い国だと思っていたんだ。
けど、こうして
こればっかりは仕方ないし割り切るしかない。
それにSNS等のネット上では、依然として世界中にウイルスが広がりを見せているようだ。
原因は不明であり、未だに「あの国」のバイオテロだと囁かれているらしい。
「……兄さん、もうガソリンがないんじゃない? 西園寺邸まで、あと何キロ?」
真後ろの後部座席に座る香那恵さんが顔を覗かせている。
何故か僕に必要以上に顔を近づけてくるもんだから、吐息が首筋に当たってぞくっとしてしまう。
ちなみに先程の暴力団事務所では、偶然にも彼女の愛刀である同じ『村正』が飾られてあり、万一の予備として頂戴している。
「まだ50キロ以上ある……しかも、さらに山奥に入るんだろ? イオリ、普段はどうやって学園に通っていたんだ?」
「学園寮ですよ。連休でない限り、家には滅多に帰らないようにしていましたので」
一番後ろの後部座席に座っている唯織先輩が答えた。
「そうか……どのガソリンスタンドも燃料が空だったからな。みんな同じことを考えて使い切られたか、街から出さないよう意図的に燃料を抜かれたかだと思うが……」
「ガソリンがないなら他の車から拝借したらどう~? よく映画とかでもやってるしょ?」
珍しく彩花がナイスな提案をする。この子は香那恵さんの隣に座っていた。
竜史郎さんは「そうだな」と頷き、周囲を見渡しながら手頃な車を物色する。
道路には同じく燃料切れで乗り捨てた車や事故で大破した車が散乱していた。
酷い場所では、玉突き事故により道が閉鎖されている箇所もある。
不思議なことに、どの事故車も燃料が空であり、誰かが抜き取った形跡すらあった。
竜史郎さんじゃないけど、きっと同じことを考えている人間達がいるのだろうか。
しかし、せっかく車を入手したものの、国道も公道も遠回りせざるを得ない道路ばかりだ。
おまけに場所によっては感染した
そうこうして回避している内に、あっという間に燃料不足に陥ってしまった。
「前方のあれ、なんですか?」
しばらく走行していると、真ん中の座席にいる有栖が何かに気づき聞いてきた。
本当なら、僕も有栖の隣に座りたかったが、他の女子達(主に彩花)がブーブー不満を言ってくるので、クジ引きした結果こういう配置になったのである。
竜史郎さんは車を停止させ、双眼鏡を取り出し眺めた。
「――検問だな。どうやら自衛隊のようだ」
そう言いながら、僕に双眼鏡を渡してきたので眺めて見る。
バリケードと数台の装甲車で道路が塞がれており、その前に自動小銃を持ち武装した迷彩服を着た兵士達が10名ほど立っていた。
また道路沿いには、複数の死体のようなモノが幾つか転がっている。
自衛隊が撃ち殺した
「本当だ。でも同じ人間だし、ワケを説明すれば通してくれるんじゃないですか?」
「正気か少年? この遊殻市は奴らによって都市封鎖されているんだぞ? 連中からすれば、俺達は感染者扱いじゃないが濃厚接触者だ。見す見す通してくれるわけないだろ?」
今の日本政府がどれだけ機能しているか不明だが、ウイルスの感染が拡大する都市を中心に、ああして自衛隊が各地で検問を行っているらしい。
なんでも北海道や沖縄方面は比較的感染率が少なく、上級国民達の大半が逃げ込んでいるという噂もある。
そして都市封鎖された市民達は地元警察の誘導や呼びかけで、各避難場所でコミュニティとして集められているという話であった。
「おまけに武装もしているし、下手をしたらテロリスト扱いね」
「その通りだ、香那恵。このまま平和的に通してくれるとは限らない」
竜史郎さんは言いながら、ホルスターから拳銃を抜いて銃弾数を確かめる。
まさかこの人、自衛隊相手に一戦交えるつもりか?
「ちょ、竜史郎さん! 何するつもりですか!? 戦ったら駄目ですよ!」
「ん? ああ、癖というか念のための確認だ。あの程度の武装なら突破できなくもないが後々面倒だからな……それに俺が所属していた傭兵部隊の間でも、自衛隊がその気になれば一番ヤバイ軍隊だと聞いたことがある」
「……だったら竜史郎さん、傭兵じゃなく自衛隊に入れば良かったんじゃないですか?」
「俺にも事情がある。実戦で戦えるためにも戦地に赴く必要があった。それに俺達が『成すべきこと』は日本にいたのでは難しい……それが理由だ」
成すべきことか……。
おそらく唯織先輩のお父さん。
西園寺財閥の総帥である、西園寺
理由はわからないけど、多分キル目的だと思う。
そのために妹である香那恵さんも一緒に行動を共にしているんだ。
もし僕がその場面に遭遇したらどうしよう。
止めるべきか、理由によっては静観するべきか。
親交を深めた唯織先輩の父親だけに悩むところだ。
「せめて使用人の誰かに繋がれば、なんと通れるかもしれないのですが、あれから何度も連絡しています。しかし父は疎か屋敷の誰にも繋がりません……」
唯織先輩は困惑した表情を浮かべ、自分のスマホを確認している。
「わかった。一端、引き返そう。別のルートを探すしかあるまい。その間、車の燃料が切れたら乗り捨てる。街から外れてしまったら野宿も視野に入れるからな」
竜史郎さんの迅速な判断に、僕達全員は頷いた。
ワゴン車をバックさせ、そのまま引き返す。
自衛隊には僕達の存在は気づかれているも、すぐ離れたことにより特段何かされることがなかったのが幸いだ。
スマホや車に搭載されたナビで、西園寺邸に行く別ルートを探そうとするも、なかなか見つからない。
車で行くのなら、さっきの検問道路を渡ることが望ましいのだが……。
「このままでは西園寺邸には行けないな……案外、
竜史郎さんはナビを操作しながら、ぼそっと呟く。
「それ以前に誰も街から出られないんじゃない? 他の場所だって、きっと自衛隊が検問して封鎖している筈よ」
香那恵さんが当然の意見を述べるも、竜史郎さんは首を横に振るう。
「んなもん、ああいう連中なら掻い潜る術はいくらでもある。俺だって、アメリカから武器を所持して密航できたくらいだからな。問題なのは、こちらの情報が不足していることだ……色々とな」
「ならば戻って、私が自衛隊と話をつけましょう。あそこから先は西園寺家の私有地でもありますし、娘の私なら……」
唯織先輩が協力的に提案している。
けどこの久遠兄妹は、自分の父親をキルする目的で動いているかもしれないのに……。
「いや駄目だ。迂闊に近づくと撃たれる可能性がある。いくら私有地と言ってもな。こちらが武装している云々じゃない。さっきも言った通り、奴らにとって俺達は濃厚接触者、つまり細菌だ。よほどの忖度がなければ融通を利かすことはないだろう」
「しかし、
「イオリ、さっき双眼鏡で覗いたが、道路沿いにあった遺体の中には『
「「「「「え!?」」」」」
その発言に、僕達全員が一斉に驚愕した。
竜史郎さんは頷き話しを続ける。
「判別できず誤射したのか、それとも感染して無くても近づく者は問答無用で射殺しているのかわからん……遺体を放置しているところから、意外と俺達より
ようやく美ヶ月学園の件が落ち着いたってのに……。
僕達の受難はまだまだ続くようだ。
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