第71話 最後の駆除戦
あれから竜史郎さんの指示下、学園の敷地内にいる
残りの連中は正門や裏校舎、また校庭などに屯している。
昨夜のような体育館という建物内の戦いとは違い、比較的に斃しやすい状況だ。
屋上や遮蔽物に隠れて一体ずつ狙撃する方法もあるが弾薬も限られている。
可能な限り白兵戦で戦うことに専念し奴らの数を減らして行く。
最も活躍したのは、彩花や香那恵さんの近接戦闘を得意とする女子達だ。
改造シャベルと日本刀を駆使し、圧倒的な強さを発揮していた。
唯織先輩も空手の有段者だけあり、正拳突きや上段蹴りで
彼女の場合、身体強化された上なのでハンマーを叩きつけられたくらいの威力があるだろう。
ほぼ一撃で仕留めているように見えた。
「……
トリガーハッピー病が疼いたのか、唯織先輩は不満を漏らしていた。
有栖も新体操で鍛えているだけあり、脚力で宙を舞い可憐で柔軟な動きで
双眸を赤く染めた興奮状態とはいえ、普段が心優しい美少女だけにギャップが半端ない。
竜史郎さんも傭兵で培われた隠密スキルを駆使し、
僕だけ唯一、
そんな中、唯織先輩が羨ましそうに頬を染めながら近づいてくる。
「弥之君、さっきから気持ち良さそうに撃っているじゃないか? どうだ? 私とポジションを変わってほしいのだが?」
「いや……僕には唯織先輩のような接近戦闘は無理ですし、こういうのは適材適所だと思いますので駄目です、はい」
っと、丁寧に断った。
しかし、これからは、ああいう戦闘も覚えなければならないと思う。
まずは身体を鍛えて体力をつけないと……そう目標を立てる自分もいる。
このままじゃ、みんなの足を引っ張るだけの存在になりそうだ。
下手したら陰キャぼっちキャラに戻り兼ねない。
――奇妙なもんだ。
平穏だった世界じゃ、いくら一人になろうと大した気にもせず無気力に恨み節ばかり唱えていたのに、この終末世界に陥ってから意識が変わったような気がする。
前向きになったというか……意欲的になったというか。
僕に影響を与えたのは、間違いなく竜史郎さんだろうなぁ。
あの人と会わなければ、僕は今頃どうなっていただろうか?
いくら
竜史郎さんが導いてくれたからこそ、今の僕があると思う。
あの人が僕という存在を認めてくれるからこそ、こうして一緒に戦いたいと思えるんだ。
無事に殲滅戦も終わり。
「よし、イオリ。約束通りだ。お前の父親である『西園寺
戦いが終わるや否や、竜史郎さんは唯織先輩に要求し詰め寄る。
そういや、それが目的だったんだな、この人。
「竜史郎さん、私にも父の居場所はわからないと言ったじゃありませんか。ですが実家の『屋敷』、また財閥本部である持株会社、それと西園寺製薬の
「ここから一番近い場所は?」
「屋敷でしょうか。ですがとある山の奥側にあるので歩きとなると相当な距離になります」
「
「無理ですね。重要な研究ほど機密保持や感染拡大防止のため地下の研究室で厳重に行われています。民間の電波は当然届かない範囲です。回線が生きていれば、『屋敷』か『財団本部』からなら、
つまり手っ取り早く行けるのは『屋敷』ってわけだな。
「じゃあ、まずは実家である屋敷に案内してくれ」
「わかりました、約束は守りましょう。」
唯織先輩は快諾する。
竜史郎さんの言い方では、どう見ても父親の『
唯織先輩と出会った当初の行動だと明らかに『
せめての救いは共に戦ったことで、少なくても竜史郎さんは唯織先輩には一目置いて認めているといったところか。
けど、生徒会長の彼女が離れたら、この学園は大丈夫なのだろうか?
「唯織先輩、学園の方は大丈夫なのですか?」
「ああ、弥之君、大丈夫だ。問題は全て解決したからな。私が抜けても副会長の富樫が頑張ってくれるだろう。私も父や兄がどうなっているか心配だしな……それに――」
唯織先輩は僕の腕を掴み、豊満な胸を押し付けてきた。
ぷにゅっと超柔らかく弾力性のある感触が二の腕に伝わってくる。
「せ、先輩!?」
「弥之君も私の力が必要となるだろ?」
「え、ええ、まあ……はい」
思わぬ女子からの密着に、顔が火照るほど動揺してしまう、僕。
――陰キャぼっちと近寄り難い美人生徒会長。
少し前じゃ絶対にあり得ないほどの親密展開だ。
「ああ!?」
「ええ!?」
僕達の様子を見て、彩花と有栖の表情が変わる。
眉を顰め、瞳が攻撃色の赤に染まっていく。
なんかキレかかってません、お二人さん?
「弥之くんって、案外胸の大きい子が好きだったのね……私だって負けてないのに、一言いってくれればいいのに」
香那恵さんまで不満そうに変な勘違いをしてくる。
「変な誤解しないでくださいよ! もうなんなんですか!? 竜史郎さんもなんとか言ってくださいよ!」
僕は全否定しながら助けを求めていてみた。
けど彼は自分の思考に没頭している様子だ。
「……どの道、車が必要になるな。しかし、イオリがこっち側についたのは大きい成果だ。万一は人質――」
「ちょ、竜史郎さん!」
「なんだ、少年。俺をハーレムに巻き込むなよ」
いや、あんた今、唯織先輩を「万一の人質に」って言いかけたよね!?
何、心の闇を堂々とぶっちゃけようとしてたんだよ!
んなことさせねーからな!
しかし、このチーム……僕がいないと案外駄目かもしれない。
翌日の朝。
僕達は新たな目的地に向かうため準備に取り掛かっていた。
学園から
当面の食料や物資もあるし、屋上を活用して自給自足も試みるらしい。
保管していた予備の銃器類は、竜史郎さんの配慮で銃弾ごと学園に置いている。
使い方も他の生徒達に指導済みだ。
唯織先輩が去った後は、新たな生徒会リーダーとして富樫副会長と御島先生が頑張ってくれることになった。
「――では富樫副会長、いや生徒会長だな。後のことは頼むぞ」
唯織先輩は別れ際に引き継ぎを行っている。
「はい、わかりました。生徒会長……いえ、西園寺さん。僕は以前から貴女のことが――」
「これからも不安が多いと思う。迷うこともあるだろう。しかし自分をしっかり持ち、正しい方向へ皆を導いてほしい。富樫君、キミなら出来る筈だ」
「……は、はぁ。いえ、はい、頑張ります。西園寺さんもお元気で」
少し残念そうな富樫先輩。
結局、唯織先輩のこれからを配慮して告白できなかったのか。
それとも素っ気ない彼女の反応を見て脈なしと悟ったのかわからない。
「御島先生も頑張ってください……私が言えることじゃないかもしれませんけど」
有栖が御島先生に声を掛けている。
あれから大分気を取り直して前を向いているも、まだ大熊先生のこと引きずっているようだ。
「そんなことないわ、姫宮さん。貴女もしっかりね……私のように大切な人を失わないようにね」
「はい、絶対に……」
有栖は頷きながら、何故かじっと僕の方を見つめてくる。
大切な人を失わないようにか……。
僕も有栖やみんなを守れるように強くならないとな。
え? 関心を示すとこ、そこじゃないだろって?
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