第69話 三分間の恋人
~木嶋 凛々子side
まさか突然、平塚にコクられるとは……。
こいつ、前々から私に気があるとは思っていたけどね。
よく悠斗の不利になる情報や余計なことをベラベラと喋っていたし。
正直、平塚のこと嫌いじゃないけど好きでもないわ。
世渡りばかり上手くて、まるっきり中身のない奴。
実害はないけど、見ていてウザくなる時すらあるわ。
おまけに調子に乗りやすく憶病な癖に欲深い、如何にも三下感丸出しの男。
こんな奴と付き合うくらいなら、悠斗と寄りを戻した方がまだマシかもね。
はっきり言えば恋愛対象外のクズ。
けど……。
私は平塚が握り締める『
確か『
――欲しいわ、あれ。
こっちも『
特に日本じゃ拳銃はおろか銃弾すら手に入らないし、あって損はない。
しばらく一人で生きていくためにもね……。
それに、万が一の『盾』くらいにはなるかしら。
「……こんな世界だし、独りで生きていくよりはいいかもね。わかったわ、じゃあ付き合おっか」
「マジでぇ!? よっしゃあああ――!」
うっさいわね。
猿のようにはしゃぐ平塚に対して、私は冷めた眼差しを向けながらも愛想笑いを浮かべる。
ぶっちゃけ、こんな雑魚にいくら好きなられてもちっとも嬉しくない。
私は知っているんだからね。
あんた、昨日の『夜宴』で何回、渕田や他の女とやったの?
おまけに結衣にもワンチャン狙ってたわよね?
全部、渕田本人や他の女達から聞いているのよ。
それにあんた、弥之が連れてきた『篠生 彩花』っていう聖林高校の金髪ギャルにも目をつけてたわよね?
このヤリチンの下衆猿が、よくも純情ぶって私にコクってきたものね……こんな奴、別に興味ないけどね。
言っとくけど、私と付き合ったからってエッチは無しだからね。
私はもう弥之のモノよ――そして、弥之も私のモノなんだから。
したがって、あんたみたいな三下の雑魚が入り込める余地なんて微塵もないわ。
「そうそう、平塚……いえ、啓吾ね。その手に持っている拳銃に銃弾は入っているの?」
「ん? ああ、撃ち尽くして拳銃には弾は残ってないけど、
平塚は言いながら制服のポケットから
ちゃんと銃弾も入っているようね。
『
にしても、まだそれだけ銃弾もあって戦えるのに、親友の悠斗を見捨てて逃げてくるなんてガチのクズで無能ね。
どっちにしても、こんな奴、信用できないわ。
案外、『盾』にすらならないかも。
弥之のように誰かのために身体を張る度胸もないでしょうね。
まぁ、いいわ。
隙を見て奪ってやる。
そして、こいつとはバイバイよ。
――しかし、その時だ。
玄関のエトランスホールから、ゆっくりとした足取りで誰かが近づいてくる。
先程、私が取り外したバリケードの隙間を抜けて向かって来た。
暗闇で誰かはわからないが、どこかで見たことのあるシルエットであり制服姿の男女二人。
私と平塚も、この時点で走って逃げれば良かった。
きっと逃げ切れた筈なのにそれができないでいる。
金縛りにあったかのように身体が硬直し動けない。
恐怖より好奇心が疼いたのか。
二人が誰なのか見定めなければならないという、謎の責任感と衝動に駆られてしまっていた。
そう、私も平塚も既に二人が誰なのか察していた。
女子の方は元親友、男子の方は元彼……。
――
二人とも仲良く『黄鬼』になっているわ。
結衣はまだ原形はあるけど、悠斗の方はぐちゃぐちゃね。
全身が血塗れで所々肉が削がれている。
きっと複数の
なんでも噛まれても感染するまで捕食をやめないらしいわ。
人間によって、そのまま食べられて死んでしまうケースもあるそうよ。
「――ひぃぃぃい! なんで、こいつらがここにいるんだよぉ!? 姫宮達に始末されたんじゃないのか!?」
平塚は見捨てた親友達の成れの果てに驚愕し悲鳴を上げた。
「啓吾、早く拳銃に弾を込めなさいよ! こいつら人間じゃないんだから、とっとと撃ち殺しちゃって!」
私は彼女らしく指示するも、平塚は怯えるばかりでちっとも行動を起こさない。
戸惑いパニックとなり、あたふたするばかり。
――この無能が!
私は床に落ちていた鉄パイプを拾い、タイミングを見計らう。
「く、来るなぁ……来るなよぉ! ハルちゃん、泉谷ぁ!」
「げいごぉぉ、にげんなよおおお! あぞぼうぜえええでぇええ!」
「みでぇえ! わだじと、はるどぐんのあがぢゃんだよおおぉおお!」
悠斗と結衣は生前の意識はあるも人肉を求めるバケモノと化している。
飢餓の衝動と本能に赴くまま、平塚に覆い被さってきた。
がぶっと首筋と腕に噛みつき、その場に押し倒された。
その勢いで手に持っていた拳銃を落とし、床に転がっていく。
「いっでぇえ! ハルちゃん、泉谷ぁ、俺が悪かったぁ! 悪かったから、もうやめろよぉぉぉ!! やめてくれぇぇぇえええ!!!」
平塚は必死で謝罪し抵抗するも、二人は猛獣のように貪り離れることはない。
――チャンスね!
私は鉄パイプを翳し、悠斗と泉谷の頭部に目掛けて思いっ切り振り下ろした。
「「ぐえぇえっ!」」
二人は呻き声こそ上げるも、平塚の血と肉の欲しさに正気を失い捕食をやめようとしない。
明らかに食欲の方が勝っているって感じだ。
生前も自制心がなかったから尚更ね。
私は好都合と思い、ひたすら鉄パイプで攻撃を繰り返す。
たとえ親友だろうと元彼だろうと躊躇はしない。
何度も、何度も、何度も……完全に動かなくなるまで叩きつける。
――ついに悠斗と結衣は動かなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ……ようやく、くたばったようね。見境のない糞猿共が」
私は血塗れの鉄パイプを放り投げ、床に落ちている『
「い、いでぇ。あ、ありがとう、凛々子ちゃん、助かったよ~」
平塚は覆い被さる、悠斗と結衣を払い除けて立ち上がる。
噛まれた首筋と上腕部の肉が抉れ、多量の出血が見られていた。
正気もあり、まだ感染していないようだ。
「……啓吾。
「ああ、わかったよ……はい」
私は
新しい
「凛々子ちゃん、随分手つきが慣れているね?」
「……悠斗と同じよ。動画を見て覚えたの」
私は素っ気なく言いながら、平塚に銃口を向ける。
奴の表情が再び恐怖で歪んだ。
「えっ、何するんだよ、凛々子ちゃん!? 悪いジョークはやめてくれよ!」
「どうせ、あんたも感染するんでしょ? 襲われる前に殺してあげる」
「ふざけるなよ! 俺達、付き合ってんだろ!!? 彼氏なんだからドラマや映画みたいに最後まで看取ってくれよぉぉぉおおおおがぁああああ!!!」
怒号を発しながら、平塚の様子が可笑しくなる。
全身が黄ばみ、皮膚にドス黒い血管が浮き出てきた。
案の定ね。
――ドォン! ドォン!
一切の迷いなく、顔面に目掛け二発撃った。
「ぶぎゃあ!」
平塚の眉間と鼻にヒットし血飛沫を上げ、頭蓋骨ごと脳が粉砕される。
仰向けで倒れていった。
「付き合っている? そういえばそうだったわ……僅か三分間の恋人だったけどね」
私はぽつりと言いながら、平塚に近づき制服のポケットから残りの
「これでまた装備が充実したわ。『
自然と笑いが込み上げてくる。
こんな本能で生きる猿共より、私の方が遥かに優秀だと自覚したからだ。
気を取り直しリュックから『血塗られた迷彩布』を取り出し身体に覆う。
その姿で玄関を出て、校門を歩いた。
彷徨っていた
平塚は『黄鬼』になりきる前に殺したから、奴の肉にでも食らいに行くのかしら?
どうでもいいわ。
私は死なない……何が何でも生き残って、弥之に愛されてみせる!
姫宮になんて絶対に負けない! 負けるもんか!
こうして私は美ヶ月学園を抜け出した。
さぁて、どこへ行こうかしら?
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