第65話 自業自得の末路


残酷描写及び暴力描写が多用のため苦手な方は自己回避をお願いします。

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 ~姫宮 有栖side



 竜史郎さんが手櫛と戦っている間、私と彩花ちゃん、香那恵さんと西園寺会長は依然として感染者オーガ達の殲滅に追いやられていた。


 あれから相当の数を斃しているが、まだ半分くらいはいるのではないだろうか。

 おまけに当初より数が増えているような気がする。

 よく見ると『青鬼』の中に、『黄鬼』の男子生徒が混じっていた。


 それは『反生徒会派』の男子生徒が噛まれ感染した末路である。


 『黄鬼』の中では肉体の損傷が激しい者や、案外ミユキくんの血液を体内に入れることで人間に戻れそうな者もいる。


 だけど、戦闘中の私達にその目利きする余裕はない。

 ここは彼らの自業自得と割り切り、『青鬼』と同様に撃退対象として斃していった。



「はぁ、はぁ、はぁ……もう限界」


 香那恵さんが息荒く、刀を床に突き刺した。

 その場で片膝をつき、しゃがみ込んでしまう。


 ついに体力の限界がきてしまったようだ。

 逆に強化されていない彼女がここまで一緒に戦えている分、驚異的ではあるのだけど。


「香那恵さん、下がって!」


「妹さん、富樫副会長のところで休んでください!」


「ここはウチらで十分だよ、カナネェさん!」


 私と西園寺会長と彩花ちゃんの三人は、香那恵さんを守る形で前に立ち感染者オーガ達を牽制する。


 香那恵さんは頷き、なんとか自力で立ち上がった。

ふらつく足取りで後ろへと下がって行く。

 

 彼女もいい感じで血塗れなので匂いも消せている。

 富樫副会長達と一緒に物音を立てずに黙っていれば、『青鬼』から捕捉されずに済む筈だ。



「さらばだ、黒づくめ~、ギャハハハァァァッ!」



 突如、手櫛の喜悦する叫び声が木霊した。


 私は研ぎ澄まされた知覚で、その位置を確認する。


 ここから離れた場所で手作り製のリフトに乗り昇っていく手櫛の姿が捕捉した。


 竜史郎さんは無事のようだが、感染者オーガ達と戦闘を繰り広げている。

『青鬼』達は何故か彼だけを対象に群がっているようだ。


 何故か手櫛は感染者オーガ達からスルーされているようで違和感がある。


「手櫛め、この期に及んで屋上に逃げる気か?」


 西園寺会長も奴の姿を捉えており、短機関銃ウージーで攻撃しながら憶測を立てる。


「逃げるって……ここに逃げ場所なんてあんの? こいつら斃したら、あたしらで報復しに行くっての!」


 彩花ちゃんが鼻で笑い、両手で持つシャベルの鋭い刃先で感染者オーガの顔面ごと突き刺し破壊した。


 逃げるか……本当にそうなのだろうか?


 私は二丁の拳銃を構え撃ちつつ、どこか胸騒ぎを覚える。



「――嬢さん、みんな聞いているか!? 手櫛の目的は少年だ! 奴は少年を殺す気だ!」


 竜史郎さんは戦いながら、私達に向けて呼び掛けてくる。


 その言葉で疑念が確信へと変わった。


「ミユキくんが危ない!」


「ヒメ先輩、ここはあたし達に任せて、センパイのところに行って!」


「彩花ちゃん?」


「確かに姫宮さんが適任だな。新体操で鍛えているだけあり、私達の中で最も身が軽い。それに身体が強化された状態なら、リフトを使わずとも屋上に上がれるかもしれん」


「西園寺会長……わかりました! ここをお願いします!」


 二人に背中を押され、私は前へと駆け出す。

 

 迫り来る感染者オーガ達の頭上を跳躍し、踏みつけながら器用に銃弾の装填を行う。

 本来『回転式拳銃コルトパイソン』と『自動拳銃ベレッタ』では、まるでタイプの異なる拳銃だが、竜史郎さんから指導を受けて練習したことで装填速度が大幅に向上したと思う。


 こうして私は疾走し移動をしている中、ふと『彼ら』の姿を見かけてしまった。


 クラスメイトの渡辺くんと平塚くんの二人だ。


 相変わらず、ミユキくんから奪った自動拳銃ハンドガンと盗んだ自動小銃ライフルで、逃げながら感染者オーガ達を撃ち交戦している。


「手越の野郎、何考えているんだ!? こんなの可笑しいって! 絶対に狂っているぅ!! なんで俺がこんな目にぃぃぃ、くそったれぇぇえぇぇっ!!!」


「ひぃいっ、来るなぁ! 来るな! 来るな! 来るなよぉぉぉ!!!」


 無我夢中と言えば聞こえはいいが、完璧にパニックを起こしている。


 きっと渡辺くんは手櫛に取り入って、上を目指そうと『生徒会派』を裏切ったんだろうけど、完全に寝返る人物を見誤ったようだ。


 結局、『手櫛 柚馬ゆうま』は誰の手にも負えないサイコキラーである。


 この状況は、そんな男の戯言に触発され反旗に加担した者達の末路とも言えた。

 当てが外れた、それだけのことだ。


 元彼の『笠間 潤輝』と逃げ出した私が言う資格はないんだけどね……。



 カチッ、カチッ、カチッ。



 平塚くんの様子が可笑しい。

 いくら引き金トリガーを絞っても銃弾が発射されることはなく、イラついたのか拳銃を上下に振って叩いている。


「ケンちゃん……弾が出ねぇよぉ! もう俺の弾がねえよぉぉぉ!」


「落ち着け、啓吾! まだポケットに予備がある筈だろ! それに弾切れなら、お前より俺の方がヤバイんだって!」


 渡辺くんは自動小銃ライフルを撃ちながら、平塚くんに呼び掛けている。


「――嫌だァ! 俺は死にたくねぇ! こんなところで死にたくねえぇぇぇ! 感染してバケモノになるのも、まっぴらごめんだぁぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」


 平塚くんは発狂し、渡辺くんを置いたまま逃げ出してしまった。


 途中で感染者オーガ達が彼に掴み掛かってくるも、自動拳銃ハンドガンを鈍器の代わりにして頭部を攻撃して払いのけるなど、今まで見せたことなない潜在能力を発揮し必死で抵抗している。


 これぞ、窮すれば通ずと言うべきか。


 平塚くんは、まんまと群がる感染者オーガ達を突破することに成功し体育館を出て行った。



「おい啓吾! 自分だけ逃げるなぁ、待てぇ! 待ってくれぇ、クソォぉ!」


 渡辺くんは一人になり、自動小銃ライフルを撃ち続ける。


 しかし――カチッ。


 ついに弾切れになってしまった。


「クソォッ! 誰かぁ、誰かいねぇのか!? 助けてくれよぉぉぉ!!!」


 渡辺くんはいくら叫び呼び掛けようとも誰も返事をする者はいない。


 ほんの一ヵ月前まで学年カースト二位として男女問わず多くの生徒に囲まれ余裕そうな笑みを浮かべていた、ちょい悪系の彼と同一人物とは思えない寂しい姿だ。

 

 きっと初めて味わう孤独と孤立――失望と絶望だろう。


 束の間。


「痛でぇえぇぇぇ! なんだよぉぉぉ!?」


 渡辺くんの首筋を正面から1体の感染者オーガが噛みつく。

 『黄鬼』となった女子生徒の姿だ。


 あれ、この子……どこかで見覚えがある。


「お前は……ゆ、結衣?」


 渡辺くんは痛みに耐えながら『黄鬼』を押し退け、その姿に愕然とする。


 確か、木嶋さんの親友であり、彼とも親交のあった『泉谷 結衣』さんだ。

 いつの間に感染者オーガなったのだろうか?

 それに一階は男子生徒しかいなかった筈。


 泉谷さんは渡辺くんの腕を掴み、自分の下腹部へと強引に刺し込む。

 痛みを感じないことのあり、手首辺りまでずっぽりっと入っている。


「ひぃい! な、何するんだよぉ!?」


「わぁだじぃだぢのぅ、ア、アカちゃ~んだぁよ! パァバ~!」


 泉谷さんはニンマリと不気味に笑う。

 黄色い皮膚で青筋と血管が浮き出た肌に、眼球が黒く瞳孔が赤く染まっている。

 鼻先から口元にかけて血塗れであり、とても依然のぽちゃっとした可愛らしさは皆無だ。


「や、やめろぉぉぉ! 俺が、俺が悪かったよぉぉぉ!! 結衣ぃぃぃ、もう悪かったからぁぁぁぁぁ!!!」


 渡辺くんは謝罪しながら絶叫する。


 にしても、赤ちゃんにパパって?


 なるほど……そういうことだね、渡辺くん。


 私は二人の関係と状況を察し、現場から目を背け先へと進むことにした。


 渡辺くんは、泉谷さんに抱きつかれ再び噛まれ悲鳴を上げている。


 そんな彼の瞳に、感染者オーガ達の頭部を蹴り上げ宙を舞って移動する、私の姿が見えたようだ。



「姫宮ぁ、助けてくれぇぇぇ! 助けてくれよぉぉぉっ!」


 敵の立場である私に向けて、渡辺くんは必死で助けを求めてくる。



 ごめんね、渡辺くん……。


 私はキミが思うような天使や女神じゃない、ましてや救世主でもないから。


 ただ私は大好きな男の子……ミユキくんを守りたくて拳銃を握る、一人の女の子だよ。



 それに元はと言えば、全部キミ自身でいた種でしょ?



「姫宮、姫宮あああ! いやああああああ!! ぎゃああああああああっ!!!」


 他の感染者オーガ達も、渡辺くんに群がっていく。

 頭や手足を強引に掴まれ、次々と噛まれ捕食されている。


 渡辺くんは、感染者オーガ達が鈴生りになった状態で、片腕を伸ばし天井に向けて逃れようと必死に足掻いていた。


 しかし、直に力尽き断末魔と血飛沫の中へと消えていく――






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