第58話 囚われた少年
~姫宮 有栖side
「う、うう……お、お前らは? ここはどこだ?」
「ここは一階だ、
「……ああ、俺は『粛清』されたんだ。『
「ミユキくんが……山戸、さんを助けた?」
彼からの思わぬ言葉に、私は聞き返してしまう。
「お、お前は姫宮だな? 三年でも有名だから知ってるぜ……そうだ。俺は手櫛に『無能者』の烙印を押され、散弾銃で撃たれそうになったんだ。昔からつるんでいる仲間達でさえ傍観するしかない中、唯一身を挺して守ってくれたのが夜崎ってわけだ。なんでも『自分の目の前で人間が死ぬところは見たくない。戦う相手は
「……ミユキくん」
私は胸がキュンとした。
やっぱり私の思っていた通りの男子だ。
ミユキくんは他人のために必死になれる情が深き人。
だって、あれだけ悪事を働いた山戸にさえ、身体を張って庇おうとするなんて普通はできやしない。
私だって彼を見捨ててしまう。
けど、ミユキくん……自分も大切にしなきゃ駄目だよ。
だから、私が彼を守ってあげようと思ったの。
ミユキくんを守るためなら私は拳銃を手に取り戦うことができる。
これからも躊躇することなく
ミユキくんのこと考えると胸がいっぱいになる……私の心が彼のことで溢れていく。
今すぐにでも、ミユキくんに会いたい……。
「――その口振りからすると、少年は無事のようだな?」
「ああ、手櫛はイカれて撃とうとしたが、寝返った渡辺がすぐ『夜崎は大事な人質だ!』ってライフルを構えて説得したからな……せっかく手土産として連れてきた『交渉材料』を殺されちゃ、渡辺だって立場ねぇってもんだろ」
渡辺くん……きっと私が告白を拒んだ後に行動したのね。
それでミユキくんをターゲットに……許せない。
「なるほど……やはり目的は『銃器』に確保した『食料と備蓄品』ってところか。しかし恐怖政治とはいえ、そんなキレた奴がリーダーとなると、そう長く少年を預けておくわけにはいかないな……早急に手を打つ必要はあるだろう」
「んじゃ、リュウさん。このままセンパイを救出する?」
「まずは予定通り、俺が少年と接触してそれから判断する。シノブと嬢さんは一階で待機。俺の帰りを待っていてくれ。俺から連絡する場合もあるからな。香那恵とイオリは山戸を連れて三階に戻ってくれ。捕虜じゃなく重症人として扱うこと」
竜史郎さんの指示で、私達は頷き了承する。
「な、何故、俺を助ける? あんたらにとって、俺は敵だろ? このまま放置すればいいじゃねぇか?」
「勘違いするなよ、俺に情など一切ない。一応、少年が助けた命だからな。ここで俺達が見捨てたら後で少年に笑われちまうだろ?」
「……そうか、ありがとう」
山戸の涙を流した。
これまで強面で周囲に幅を利かせていた人とは思えない穏やかな表情。
ミユキくんの行動が、この人を変えたんだと思う。
この荒廃した終末世界……みんな自分のことだけで必死に生きようとしている中で。
本当に凄いなぁ……ミユキくん。
再会できて、好きになって良かった。
でも……もう少し早く気づいていれば――
ぎゅっと胸が絞られる。
ときめきとは違う、きっと後悔の念。
ミユキくんは私に感謝してくれていたけど……。
だけど私は――
「ヒメ先輩。ほらぁ、ボーっと立ってないで行こ~!」
「あ、うん。彩花ちゃん、ごめんね」
彩花ちゃんに手を引っ張られ、私達は分担して行動を開始することになった。
嘗ての食堂へ着いた。
山戸から得た情報だと、調理場の『
竜史郎さんは胸ポケットから携帯用の多機能型ペンチツールを取り出し、器用な手つきで換気扇のフードを取り外している。
「リュウさん、そんな所から侵入して、ガチで大丈夫なの~?」
彩花ちゃんが、その姿を見守りながら聞いている。
「ああ、山戸の話では排気ダクトも奴らにとって立派な移動用手段になるため、無理矢理に人が通れるよう加工し通路として繋げているらしい。目的地までのルートも頭に叩き込んだし、少年が囚われていると思われる場所も聞いている」
「竜史郎さん、どうかご無事で……ミユキくんのことお願いします」
「ああ勿論だ。嬢さん達はここで待機してくれ。俺から連絡する場合もある」
竜史郎さんは言うと、俊敏な動きで上へと昇って行く。
長いライフルを担いでいるのに軽々と、まるで忍者みたいな人だ。
本当はミユキくんが心配なのでついて行きたいけど邪魔になるかもしれないし、言われるがまま待機する。
私もミユキくんと同じ、竜史郎さんを信じることにした。
**********
凛々子に放置された僕は、依然として拘束されたままだ。
手足に粘着テープが何重にも巻きつけられ、芋虫のように横たわっている状態である。
テントの外では、まだ『夜宴』が続いているらしい。
あまりにも狂乱ぶりに興奮どころか、おぞましさすら感じてしまう。
――人間の『負』そのものだ。
凛々子もあの中にいるのかわからない。
しかし、あいつは僕をどうするつもりなのか?
無理矢理でも好きにさせてみせると言っていた。
それができなければ、ぼくを殺して自分も死ぬとまで……。
あの様子だと、きっと返答と態度次第じゃ間違いなく殺される。
次に会ったら上辺だけでも取り繕うべきか。
それとも気持ちを偽らず信念を貫くべきか。
一体、どうすりゃいいんだ?
こんな時、あの人ならどうする?
「――竜史郎さんなら」
「呼んだか少年」
「え?」
僕が顔を上げた瞬間、そこに竜史郎さんがしゃがみ込んでいた。
あまりにも気配が無かったので幻かと思ってしまう。
「本物……ですよね?」
「当然だ。死んでもいないのに幽霊なわけがないだろ」
「どうやってここに? それに入口のチャックが開く音なんてしなかったような……」
「そこはプロのテクニックだ。『
相変わらずヤバイ経歴だな。
誰も教えてくれと頼んではいないけど、今後何かの役に立ちそうだ。
「よく、僕がこのテントにいるってわかりましたね?」
「山戸から少年が監禁されていそうな場所はおおよそ聞いていたからな……それに、このテントの前だけ見張り番が二人もいて目立っていた。まぁ二人共、俺が背後から襲い軽く気を失わせておいたが、他にも何人か見張りが巡回している……直にバレるだろう」
そうなのか? 意外と厳重な体制だったんだな。
きっと『夜宴』で楽しんでいる連中は、手櫛に気に入られた幹部クラスの一握りで、それ以外は奴隷のようにコキ使われているのかもしれない。
山戸といい、あの場にいた連中の雰囲気を見ているとそう思えてしまう。
けど待てよ?
「山戸って……あいつ無事なんですか?」
僕の問いかけに、竜史郎さんは頷いた。
簡潔に一連の出来事を話してくれる。
「……そうですか。山戸がそんな目に……同情する余地のない奴ですけど、あいつら同じ仲間なのに酷過ぎる」
「山戸から少年を認める発言が聞かれていたな……弱りきっている今だけかもしれんが、奴なりに感謝もしていたようだ」
「まぁ、奴に言った通りです……手櫛なんかの気まぐれで、誰かが死ぬのは馬鹿げていますから」
「その通りだが自業自得という言葉もある……少年は優しい、だが同時に甘い。情は仲間にだけ注ぐものであり、敵には不要だ。じゃないと簡単に寝首をかかれる。その有様が物語っているだろ?」
はい、竜史郎さん。
おかげ様で、ぐうの音も出ないです。
全て、自分の甘さが原因で招いたことだけに……。
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