第54話 幼馴染の気持ち




~木嶋 凛々子side



 手櫛先生……いや、手櫛でいいわ、あんなの。


 奴に受け入れられ、私達はもてなしを受けた。


 悠斗の活躍が認められたのか、いきなり幹部クラスの地位が与えられたみたい。

 これまで威張っていた上級生と不良達が、私にさえ敬語を使ってこびへつらってくる。

 

 いい気分ね、悪くないわ。

 これも悠斗のおかげね、ありがとう。

 一応、お礼だけは言っておくわ。

 

 流石、カースト二位は伊達じゃなかったようね。

 一度、エンジンが掛かれば才能を発揮するタイプのようだ。

 

 その爆発力というのかしら?

 図太さだけなら、カースト一位だった『笠間 潤輝』よりも上だと思う。


 本当、彼女として鼻が高いわ。


 ……っと、普通なら「悠斗くん~、凄~い、わたし見直しちゃった」って、バカ姫宮みたいな口調で褒めるんでしょうけど……。


 私は違う。



 ――だったら最初っから、それやっとけっての! この糞野郎がぁ!!!



 私、知ってるんだから!


 悠斗が急にやる気になったのは、『姫宮 有栖』に振られたからよ!

 あの女が悠斗じゃなく弥之を選んだから、あの男はブチギレて行動を起こしただけだわ!


 まさか、私が西園寺に呼ばれていた隙に姫宮に告っていたとはね……糞男が!


 何故、知っているのかって?


 悠斗の取り巻きである平塚がチクったからよ!


 あいつ、以前から私に気があるらしくてね。

 奴の友達を装いつつ、よく情報を提供してくれるわ。

 

 にしても悠斗の奴、ムカつくわ~!


 結局、姫宮で復活を遂げたっぽくなっているじゃない!

 

 そんなのが理由で認めてたまるか!

 テメェ、いい加減にしろよって感じ!



「……凛々子。手櫛先生から『夜宴』に誘われているんだけどよ~。参加していいかぁ?」


 与えられたテントの中。


 悠斗はもじもじしながら、今カノである私に許可を求めてくる。


 夜宴と称しているも、内容はヤリサーみたいな感じで男女が入り乱れって感じ。

 しかも、興奮を高めるための媚薬とかお香なんかも使うらしい。

 まるで魔宴サバトね。悪魔とでも合体するのかしら?


「いいんじゃない? 悠斗、一生懸命に頑張ったんだし、今くらい羽目を外したって……私と結衣も守ってくれたしね」


 私はニコッと笑い、健気な彼女を演じる。

 あまりやり過ぎると、今度はこの猿が私を求めてくるので加減が必要だ。


「ああ、手櫛も俺を認めて要求を受け入れてくれたからな。お前らには指一本触れさせはしねーよ! じゃあな! 啓吾を待たせているんだ!」


 悠斗は嬉しそうに満面の笑みを浮かべ駆け足で去っていく。

 目的は不特定多数の女達とエッチするために。


 言っとくけどオメェ、それ今カノに見せていい表情じゃねぇからな!


 まぁ、どうでもいいわ。


 今はまだ使える男だから、しばらくこの関係を続けてあげる。

 けど、いくら活躍しようと、もうあんたのような猿に興味ないんだからね。


 そう、今の私には――



「……リリちゃん、悠斗くんは?」


 トイレに行っていた、親友の結衣が戻ってくる。


「夜宴に行ったわ、平塚とね。ところで結衣、あんた大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ……吐いたら大分気分が良くなったから」


 言いながら、結衣は横になる。

 

 まさか、この子……できちゃった?

 一体、誰と?

 私が知る限り、結衣は誰とも付き合っていない。


 いや一人だけ思い当たる男がいるとしたら……悠斗。


 あの下半身猿しかいない。


 ……まぁ、いいわ。

 あんな男、欲しけりゃくれてやればいい。


 結衣じゃ手を余すだけだけど……。


「リリちゃんは行かなくても良いの? 前は手櫛先生のことカッコイイと言ってたじゃない?」


「行くわけないじゃない。今の手櫛見たでしょ? 完全にイッちゃってるわ……絶対にヤバイって。前もって、悠斗に頼んで正解よ。まぁ同じ大人の男でも、竜史郎って人に誘われたらどうなるかわからないけどね……」


 あの黒づくめの人はガチでイケメンだ。

 おまけに雰囲気もある。

 けど、JKには興味ないって感じ。


 きっといくらアプローチしても靡くことはないだろう。

 私は負け戦をしない主義だ。


「……悠斗くん、戻ってくるかなぁ」


「満足したら戻ってくるんじゃない? 一応、結衣だって悠斗に守られた形になっているんだから信じてあげなさいよ」


「うん……そうだね」


 こいつ、絶対に孕んでいるわ……悠斗の子。


 だって、顔つきが夫の帰りを待つ良妻って感じだもの。

 あるいは幸せを待つ、ママの顔かな。

 けど、その待っている夫は、ただ他の女とヤリサーしに行っているだけなんだけどね。


 相変わらず、おバカな子。


 ――勝手にするといいわ。


 私はテントから出ようと、出入口のチャックを開ける。


「リリちゃん、どこに行くの?」


「弥之のところよ。一応、幼馴染だからね。様子くらい見に行ってあげないと」


 結衣にそう告げて、テントから出た。



 フフフフ……。


 途端に微笑を浮かべる。


 そうよ、弥之。


 弥之よ。


 私の幼馴染であり、絶対に私を見捨てない男。


 今回の件で、よりはっきりしたわ。

 弥之は身を挺してでも私を守ってくれる。

 

 相手が銃を持った相手でも構わずにね。


 悠斗のようなヤリチン糞猿とは違う。

 奴は今でこそイキっているけど、少し自分が不利になると簡単に私を裏切ると思うわ。

 笠間を捨てた、姫宮と一緒よ。

 そんな奴は信じないし当てにできない。


 だから私は決めたの。

 

 今の時代と終末世界に見合った『将来性』のある『王子様おとこ』を探すってね。


 ――それが、夜崎 弥之ってわけ。


 待っていてね、弥之。今から私が慰めてあげる。


 なんなら、そのまま二人で逃げても良い。『生徒会派』に合流しても良いわね。

 何故なら私は「狂った悠斗に脅されて無理矢理従わされている」って設定だから。


 既に布石も踏んでいるし、弥之もそう証言して庇ってくれるでしょう。


 私と弥之の関係を見せつけ、姫宮だけでなく他にちょっかいをかけている女達へのアピールしてやるわ。

 誰の所有物か、はっきりさせるためのね。


 あの女達の悔しがる顔が目に浮かぶわ……フフフフフ。



 しばらく進むと、夜宴中の男女が交わる嬌声が聞こえてくる。

 別になんとも思わず、頭の悪い豚か猿が交尾している程度だと思い無視した。


 ふと、ある女がフラフラと歩いているところを目撃する。


 何故か上半身だけ露出した裸の女だ。

 どうやら、弥之が閉じ込められているテントに入って行くようだ。


 あれは……渕田 仁奈にな先輩?


 確か夜宴に参加していたんじゃないの?


 一体、何しにテントへ? 


 ――いや、わかっている!


 あのビッチ、弥之を誘惑するつもりだ!

 現に上半身は真っ裸、ガチで奪う気満々じゃない!


 クソったれ!

 その男は私の幼馴染、私の所有物なんだからぁぁぁ!


 私は上着のポケットから『小型拳銃コンパクトガン』を取り出した。

 護身用に悠斗に持たされた拳銃だ。


 場合によっては、これで渕田をぶっ殺す!

 

 少し前までは生き方に尊敬リスペクトし、私にメイクとか色々教えてくれて可愛がってもくれたけど……。


 だけど、弥之だけは渡さない!

 障害になる者は全て排除してやる!


 そこに先輩と後輩は関係ないわ!


 渕田先輩だって、きっとそうするでしょ?



 私はテントに近づきつつ、拳銃を構えた。

 撃ち方は、悠斗と同様にスマホの動画を見て覚えたわ。

 それに、この『小型拳銃コンパクトガン』は、私のような女子でも容易に撃てるのが特徴よ。


 すると、弥之が叫ぶ声が聞こえた。



「――やめろぉぉぉ! 僕には好きな子がいるんだ!」



 え? 弥之……今なんて言ったの?


 好きな子?


 つまりそれって……。



 ――幼馴染である私のこと?



 嘘……ガチで……やばい。


 超嬉しんだけどぉ!


 ビッチ渕田の誘惑にも負けないで、私に操を立ててくれるなんて……。


 ずっと、そうしてひた向きに、私のこと思ってくれていたのね。


 くすん……プッ、ププププ……フフフフフ。


 ――勝ったわ。


 どう? 『姫宮 有栖』、私の勝ちよ!


 何が学園三大美少女よ!

 お前のようなビチグソ如きじゃ、私達の絆にひび一つ入らないっての!


 私の勝ちよ! 私は姫宮に勝ったのよぉぉぉっ!


 フフフ……ガチで戻るのが楽しみ。


 姫宮に見せつけるように、弥之とイチャついてやる。



 でも……ありがとね、弥之。


 今までずっと気づいてあげなくてごめんね。


 大丈夫だよ、弥之は私が守るからね――!






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