第52話 反逆者達の共同体
嘗ての担任教師、
異変が起きる前から嫌な教師だと思っていたけど、これほど最低野郎とは思わなかった。
いくら一ヵ月ほど姿をくらませていたとはいえ、嘗ての教え子の顔を忘れるか普通!?
そういえば、渡辺達が僕を揶揄っていた時も、ずっとスルーしてやがったな。
つまり、その時から手櫛にとって僕はその程度の生徒だったんだ。
めちゃ、ムカつくわ……。
おかげで、渡辺は「夜崎、お前……どんだけ陰キャぼっちなんだよ」って冷たい目で見て来るし、平塚なんてもろ噴き出して笑っている。
凛々子と泉谷さんは微妙な表情をしていた。
「よ、夜崎 弥之っすよ~! 俺らと同じクラスの! こいつが銃を学園に持ってきたんです!」
渡辺は必死で説明している。
なんとしてでも僕を『貴重な手土産』扱いにしたいらしい。
でないと担任教師にさえ忘れられた、ただの陰キャぼっちだからな。
人質どころか、存在価値すら怪しいものだ。
「ん? あ~あ、思い出した。夜崎君ね……その夜崎君が銃を? 彼の家は暴力団組織だったとは聞いてないがね……」
もし僕が暴力団の組長の息子だったら、手櫛の扱いも違っていたんだろうな。
まったく関係ないけど、そう思えてしまった。
「正確には夜崎が連れて来た仲間達です。そいつら全員、ヤバい武装していて、何故か夜崎を仲間として慕っています。なんでも生徒会長の西園寺にも気に入られているらしいっすよ。だから、夜崎を人質にすることで、そいつらと『生徒会派』から他の銃や食料を奪えるんじゃないっすか!?」
「なるほど……銃のことはわかったよ。だか『生徒会派』から食料は奪えないんじゃないか? 離反する際に私達がほとんど奪ってしまったからね。もう明日にはそこを尽くだろう」
手櫛が言った直後、渡辺はニヤリと微笑む。
「先生、知らないっすか? 今、『生徒会派』はめちゃ潤ってますよ~。地下室の貯蔵庫から非常食と物資を調達したんでね。全生徒と教師を含めた三日分……今のあの人数なら余裕で一年は持つらしいっす」
「なんだって!? 地下室といえば、ボイラー室か……あそこは確か」
「そっ、三年が嫌がらせで放った
「山戸ぉぉぉ! 私は聞いてないぞぉぉぉ!!!」
何か細長い鉄パイプを持ち、先端を向けている。
いや、あれは
クレー射撃専用で上下二連のトラップ銃だ。
「ひぃ……!」
銃口を向けられた、山戸は怯えている。
ハッタリじゃなく本当に撃たれると思っているからだ。
「お、俺はただ、手櫛先生の指示通りに動いたまでて……そもそも先生だって、この学園の教師じゃないっすか!? 何故、地下に非常食があること知らないんっすか!?」
「私は非効率的で面倒くさいことは覚えてないようにしているだけだ! 貴様こそ、
教師の癖に知らなかったことを棚に上げて逆ギレする、手櫛。
でも、このままだったら、本当に山戸が撃たれてしまいそうな勢いだ。
仕方ない――。
僕は銃口を向けられている山戸の前に立った。
「……夜崎君、なんのつもりかね?」
「僕の前で人間が死ぬ場面は見たくありません……手櫛先生、どうか落ち着いてください」
「一カ月間、不在だったキミはわからないかもしれんが、私はもう以前のインチキ爽やか教師ではないぞ。この終末世界に順応し、秘められた本能に目覚めた偉大なる覚醒者だ。無能なる者、私の意に反する者は容赦なく『粛清』する。わかったら、そこをどきたまえ!」
手櫛め……すっかり厨二病が入ったアイタタなキャラになってしまった。
自分でインチキ爽やか教師って言ってるし……。
「どきません。撃ちたきゃ撃てばいいじゃないですか?」
「なんだとぉ、夜崎ぃ!」
あからさまにブチギレた憤怒の声。
今の手櫛なら容赦なく
だが、奴は僕を撃つことはない。
そこだけは確信して言えるんだ。
何故なら――!
「やめろぉぉぉ! 手櫛先生! 夜崎は貴重な人質だって言ってんじゃねぇか!? そいつに何かするなら、このライフルであんたを撃ち殺す! 銃も弾もこっちの方が多いんだぜ!! そこ、忘れんなよぉぉぉ!!!」
渡辺が前に出て
――思った通りだ。
ここまで事を大きくした渡辺は、必ず僕を生かす必要がある。
自分が成り上がるための道具として――。
渡辺にとって僕は生かされるべき大切な存在ってわけだ。
それを一時の愚直な激情で失っては、全て水の泡。
結局、行き場を失くして一番困るのは渡辺自身である。
だから僕は期待したんだ……このカースト二位の渡辺
これまでの行動を見ている限り、渡辺は目標が出来た途端の行動力や判断力は凄い。
おまけに先々を読み、頭もキレる奴だと思った。
きっと温室育ちの笠間以上の才能があると思う。
いくら嫌いな奴でも、そこは正しく評価しなければならない。
だから僕は自分の立場を利用したんだ。
貴重な人質として、渡辺が必ず守ってくれると期待してな。
「ぐっ……わかりました。ここで渡辺君と撃ち合っても意味はないですからね、はい」
手櫛は散弾銃を下ろした。
一応は『反生徒会派』のリーダーだからな。
完全にイッちゃっているわけじゃなく冷静な部分もあるようだ。
「じゃあ、先生。俺達を受け入れてくますか? まず、それ眩しいんでやめてくれます?」
「わかった。渡辺君達を受け入れよう」
手櫛が指をパチンと鳴らすと、僕達に向けられた
一瞬だけ視界が暗になるも、天井の照明が付けられ一帯が明るくなる。
「――ようこそ、キミ達。我が『
中央に立っていた男が両手を広げこちらへと近づいてくる。
右手には
しかし、なんちゅう格好してんだ?
筋肉質の上半身を剥き出し、その上に真っ白なガウンを羽織っている。
ズボンは履いてなく、ピチピチしたブリーフの上にやたらと頑丈そうなファールカップこと金的ガードを取り付けていた。
以前は坊ちゃん刈りのセンター分けの爽やか風イケメンだったが、今はやたらチャラく毛先を遊ばせている。
整っていた形相もすっかり変貌し、ニヤ~ッといやらしい微笑を浮かべていた。
「て、手櫛先生……?」
渡辺でさえ、同一人物かと疑っていた。
もう、すっかりキャラが変わっているからな。
辛うじて原形を留めているだけで、もう誰だがわからない。
「そうさ。これが今の世界で覚醒した私の姿だ……ある意味、真の姿と言えよう」
手櫛は意気揚々と言い切る。
僕も密かに『終末世界デビュー』とか他の生徒達に囁かれているけど、こいつはそれ以上にぶっ飛んでしまったようだ。
「先生、その股間のファールカップはどういう意味ですか?」
どうでもいいのに、ついもっこりした部分が気になってしまう、僕。
「これかい、夜崎君? 男のシンボルであり唯一の急所を守るためのものだ。これを装着することで、私は常に最大のパフォーマンスを発揮することができるのだよ」
手櫛はコンコンとファールカップを叩きながら力説する。
確かに急所を守るのは必要だけど、別にそこだけにこだわらなくてもいいと思う。
「と、とりあえずだ。俺らを迎え入れてくれるなら、今後のことについて話がしたい。俺らがどういうポジなのかも含めて……いいっすよね、手櫛先生」
「ああ、勿論だ。渡辺君、キミは大変有能そうだね。期待してるよ、ついて来たまえ。夜崎君、キミも貴重な人質として一緒に来なさい」
手櫛に案内され、僕は渡辺の後について行くことにした。
どの道、こんな階段のない屋上じゃ逃げ道はない。
せめて一階へ続くとされる
それに僕が逃げたら、凛々子が渡辺や手櫛に殺されてしまう。
あんな欲深い子でも、僕にとっては妹のような幼馴染だ。
それに少しだけ、前の凛々子に戻った気もするし……。
やっぱり、僕は甘い奴だろうか?
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