第51話 反生徒会派の根城




 ~渡辺 悠斗side



「わ、わかったよ! 銃を置くから、凛々子を撃つのだけはやめてくれ!」


 狙い通り、夜崎は腰元と足首のホルスターから二丁の『自動拳銃ハンドガン』を取り出し、そっと床に置いた。


「凛々子、床の銃を拾え!」


 俺が指示すると、凛々子は涙ぐみ「う、うん……ごめんねぇ、弥之」っと、無理矢理従わされている素振りを見せながら拳銃を拾った。


 おいおい、夜崎を脅す作戦を真先に提案したのはお前だよな?

 めちゃ女優ばりに演技力高けぇというか、あざとさを飛び越えて意外と女狐だな……この女。



「――ハルちゃん、山戸を連れてきたぜ。やっぱ足が負傷しているようだが、歩いたり梯子の昇り降りは問題ねーぜ」


 啓吾は解放した山戸を連れて教室に入ってきた。


 山戸の顔はまだ腫れ上がっている。

 おまけに肋骨も何本か折られて応急処置で固定されているとか。

 まぁ、連れて行く分には問題ないだろう。


「啓吾、何かトラップみたいなの仕掛けられてなかったか?」


「ああ、大丈夫だ。ハルちゃんが心配していた監視カメラや盗聴器みたいなもんもねーよ」


「そうか……竜史郎って奴はとにかく用心深く抜け目ねぇ。実は……って想定もあったけどな。考えてみりゃ、奴らの大切な夜崎がこうもあっさり釣れた時点でそりゃねーか」


 きっと竜史郎の中で、まだ俺達はノーマークだ。

 大方、ただのガキ共がここまでやるとは踏んでなかったんだろうぜ。

 落ち目なりに鳴りを潜めていた甲斐もあったってところか。


 俺は勝ったと確信した。


「よし、予定通りだ! とっとと、ここからずらかるぜ! 夜崎、テメェは人質だからな! 大人しくついて来いよ! じゃなかったら、凛々子を撃ち殺すぞ!」


「わ、わかったよ……クソッ。渡辺くん、どうしてこんな真似を……?」


 夜崎は悔しそうに顔を歪ませ、俺が反旗を翻した理由を知りたがっている。


 だが俺は何も答えなかった。


 言ったところで、常に投げ遣りで無気力な陰キャぼっち野郎のこいつにわかるわけがねぇ。


 一つ言えることは、人間ってのは『欲望』こそが最大の原動力ってことだ。




 俺達は三階から一階へと降りる。


 感染者オーガ達はいないようだ。


 まぁ、たとえ現れても、今の俺には自動小銃ライフルと拳銃がある。

 寧ろ試し撃ちができるだろう。

 

 くくく……銃を持った途端、いきなり無敵になった気分だぜ。

 これまで、ひっそりと過ごしてきた自分がバカだった、そう思えてしまう。


「ハルちゃん……俺、銃なんて撃ったことねーよ。どうすりゃいいんだ? ハワイ行きてーよ。どっかに親父いねーのかなぁ?」


 啓吾は夜崎から奪った『自動拳銃ソーコム』を握りしめながら、意味不明なことを聞いてくる。

 初めて持つ拳銃の存在に、びびっちまっているようだ。


「ハワイに行ったからって必ず拳銃が撃てるわけじゃねぇし、必ず親父が撃ち方を教えてくれるわけねーよ。夜崎、テメェの銃だろ? 啓吾に扱い方を教えてやれよ」


 俺は『自動拳銃SIG MCXライフル』の銃口を夜崎に向けながら指示する。


「わかったよ……平塚くん、いいかい?」


「お、おう。夜崎、悪りぃな、サンキュ……」


 夜崎から指導を受ける啓吾。

 人質と加害者同士のとてもシュールな絵面だが仕方ない。

 

 そもそも日本に住む高校生が本物の銃を触る機会なんてあるわけがねぇんだからな。

 こんな世界にさえならなきゃよぉ。




 山戸の案内で体育館に辿り着いた。


 確かこの屋上に『反生徒会派』の根城があるんだよな?


 屋上へ行く階段は、教室へ行く階段と同様に人喰鬼オーガ達が侵入しないよう壊されている。


「おい、山戸。ここから、どうやって上に行く? お前らがよく使う、風導管ダクトを使うのか?」


「……あれは上から下に降りる時しか使えねーよ。昇るのには急すぎて一苦労だ。とても負傷中の俺じゃ体力的にも難しい」


 俺の問いに、山戸は答えながら壁をリズム良く叩いた。


 広々とした体育館内。


 静まり返っているのもあり、やたらと音が響き渡る。


 すると天井から懐中電灯と思われる光が照らされた。

 舐め回すように、眩い光輝が俺達に浴びせられる。


「――ケンちゃんだ!? ケンちゃんが戻ってきたぞ! 信じらんねーっ、ケンちゃん無事か~!」


 屋上の方から、山戸の仲間と思われる男子生徒の声が響いた。

 

「負傷しちまったが、この通りだ! リフトを降ろしてくれ!」


 山戸が指示すると、天井から何かがゆっくりと降りてくる。


 人が四~五人くらい乗れるような四角くて大きな板だ。

 ピラミッドを象るように四隅にロープが固定されおり、ロープは頂点の中心に集まる形で一ヵ所に結ばれている。

 そこから天井にかけ、より長いロープが通されているようだ。


「何だ、こりゃ?」


「屋上に昇るためのリフトだ。天井に滑車があり、屋上のグランドから引っ張ってくれる仕組みだ」


「人力で引っ張るのかよ? 危ねぇじゃねぇのか?」


「まさか。敷地内にあったバイクや車のエンジン抜き取って幾つか繋ぎ合わせた物を動力源にしているんだ。俺らそういうのだけは得意だからな」


 ヤンキーならではってか?

 ただの暴力バカってわけじゃないようだ。


 こういった何かしら特化した部分があれば、手櫛は認めてくれるようだ。


 随分と面白れぇじゃねーか。

 ますますやる気が出て来たぜ。


 流石に、一気に全員乗るのは不安があるので、二人ずつ乗って上がることにする。


 初めは俺と夜崎、次に凛々子と結衣、最後に啓吾と山戸の順番だ。

 山戸を最後にしたのは、俺達を裏切らせないため。

 

 さっきまで泣き喚いていた負け犬も、仲間の顔を見た途端に強気に出てくる可能性がある。

 そん時は銃殺してやりゃ済む話だが、手櫛を取り込む上で奴らと問題を起こすのは厄介だからな。


 多少面倒でも知恵を絞る必要がある。

 これも俺にとって成り上がるための試験ってわけだ。



 久しぶりに来た、体育館の屋上グランド。


 夜陰で薄暗いが、月明かりに晒されているため、全体が一望できる。


 屋根全体がガラス覆われた天井、運動場のコートとプールサイドに分かれていた。

 

 運動場の方には複数のテントが設置されており、日除け用のビニールシートが天井一面で覆われている。

 ガラス屋根も開閉式なため、通気性は良さそうだ。


 ――途端、俺達に照明が当てられる。

 

 光の向こうが側で、一人の男が中心に立ち、複数の生徒と思われる男女が待ち構えていた。


「やぁ、山戸君。よくぞ戻ってきたねぇ? キミは確か……ああ元、教え子の渡辺君に平塚君じゃないかねぇ、久しぶりだね~?」


 中心の男から聞き覚えのある声。


 間違いなく、元担任教師の『手櫛てぐし 柚馬ゆうま』だ。


 だが今じゃ、『反生徒会派』のリーダーであり、本性を剥きだしたサイコパス野郎。


 校長や教頭を含む教師達のほとんどを殺し、気に入らない生徒達を『粛清』し続ける男。


 俺のダチだった、『中田 敦盛あつもり』もこいつの指示で人喰鬼オーガの餌にされ殺されちまった。

 

 本来なら、このライフルで撃ち殺した方がいい野郎なのかもしれねぇ……。

 

 ――だが、それはまだ先の話。


 まずは利用させてもらうぜ!


「手櫛先生、久しぶりっす~! 手土産を持って亡命してきたんっけど~、俺らを受け入れてもらっていいっすか~?」


「手土産ね……山戸君のことかい? 別にいらないよ、それ?」


「なっ!?」


 言ったのは俺じゃない。

 山戸本人だ。


「無能はいらないと言っている。機械関係や整備のことなら、他の生徒も問題ないからね。そいつに残されている取柄は唯一、『暴力』しか残っていない。だが、その有様だ……壊れた道具に要はない」


「て、手櫛先生、そんな……」


 山戸は失望し落胆してしまう。

 ショックで立てなくなり、両膝を地面につけた。

 せっかく逃げて戻って来られたのに散々な扱いだな。


 まぁ、そう言うと思ったぜ。


「手土産は他にありますよ」


「ほう、そこにいる女子二人かい?」


 手櫛に指を指され、凛々子と結衣はびくっと肩を震わせる。


「この二人は俺の女っす。先生でも手を出したら駄目っすからね――まずはこのライフルと拳銃、どっちも本物っすよ」


「何だって!? 渡辺君、キミ……どうしてそんなモノを?」


 思った通り食いついてきた。


 ――尋問した時、山戸は『生徒会派』が銃を所持していることを知らなかった。


 竜史郎達も外部から来た『モデルガンを持った連中』程度にしか思っていない。

 偶然にも、不良達の前では発砲したことはなかったらしい。


 当然、リーダーである手櫛の耳にだって入ってないってわけだ。


「――こいつ経由で手に入れました。そのための人質であり、手土産っすよ」


 俺は夜崎を前に出させ、証明に前に晒させた。


「ぐっ、眩しい!」


 夜崎は目を凝らしている。


 手櫛は奴の姿を見て「おや?」っと首を傾げる。

 ようやく気づいたようだ。


「……いや、誰だね、キミ? ウチの学園の生徒にいたっけ?」


 え?


 嘘だろ、手櫛?


 お前の元教え子だったろ!?


 まさか、こいつ!


 すっかり、夜崎のこと忘れてるぅぅぅ!!!?






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