第50話 反逆の狼煙
~渡辺 悠斗side
それから、凛々子と仁奈で山戸の食事の世話を行う。
山戸も抵抗する気配もなく、女達の支援を受け入れていた。
俺は鉄パイプを握り締めながら、呆然とその単調な作業を見入っている。
――ある考えを過らせながら。
食事が終わり、女達が後片付けをしている。
「凛々子、俺がこいつの口にガムテープをするから先に戻ってくれ」
「わかったわ。何かあったら大声で叫ぶのよ」
「あいよ。啓吾は残ってくれ」
「わかったよ、ハルちゃん」
「……悠斗くん、それじゃね」
凛々子と結衣はトイレから出て行った。
足音が消えるまで、俺は黙ってその場で立ち尽くす。
「ハルちゃん。こいつの口、塞がねーの? 俺がやるか?」
「……待て、啓吾。もう少しこいつに話がある」
俺は鉄パイプを翳し、山戸に近づく。
「――なぁ、手櫛に実力さえ認められりゃ、俺を仲間として受け入れてくれるのか?」
耳元でそう呟いた。
「ハ、ハルちゃん! 何言ってんだよ!? まさか寝返る気か!?」
「少し黙ってろ、啓吾! 答えろよ、山戸」
俺の問いに、山戸は顔を挙げるとニヤッと口角を吊り上がらせる。
「……ああ、問題ねぇよ。共に西園寺と『生徒会派』をぶっ潰す目的ならな。成り上がれるかは実力次第だ」
「そうか……わかった。じゃあ、テメェを逃がして俺は寝返るぞ。俺も『反生徒会派』に加入する」
「ちょい、ハルちゃん! マジかよ! 凛々子ちゃんはどうすんだよぉ!?」
俺の言動に、啓吾は猛反発してくる。
知ってるぜ、こいつは以前から凛々子に気があるってことはな。
だから、わざと啓吾の前で凛々子とイチャコラして見せつけてやるんだ。
その方が興奮するからな。
だが今は、こいつを揉めている場合じゃない。
こんな何も取柄のない野郎でも味方につける必要がある。
俺一人じゃ難しいからな。
「勿論、声は掛けるさ。あいつだって、この状況に満足してねぇ筈だ。それに俺は勢いやノープランで言っているんじゃねぇ。ちゃんと『手土産』を持った上で寝返るんだ。それなら、手櫛だって嫌でも認めてくれるだろうぜ」
「手土産だって?」
「耳貸せ、啓吾――」
俺は山戸から離れる。
奴に聞かれないよう、ずっと考えていた『作戦』を伝えた。
啓吾は理解を示し頷く。
「な、なるほど……流石、ハルちゃんだ。やっぱ、凄かったんだな……でも、そんなに頭の回転が早いのに、あの時どうして『
「あの状況で、俺らだけで勝てるわけねーだろ? まぁ、その気になれば体制を整えて『取引き交渉』を持ちかけるとか手段はあったけどよ……ここの環境じゃ、そこまで本気にはなれねーよ」
「本気になれない?」
「考えてみろよ。こんな場所で活躍したって、俺に何が得られる? 見返りで西園寺の乳でも揉ませてエッチさせてくれるのか? んなわけねーだろ? 大方、周囲のバカ共から期待ばかり寄せられ、ジュンのようにイカれちまうのがオチだ。俺は労働分の対価や報酬を貰えねーと本気を出さないタイプだ。周囲の評価なんて後から勝手について来るもんだ。スポーツ選手や芸能人の好感度と一緒だよ。連中だって結局は自分のために頑張っているだけだろ?」
「な、なるほど……ハルちゃんらしいな」
「山戸達を見ている限り、手櫛はそういうタイプじゃねぇ。労働にはそれなりの見返りを用意してくれる筈だ。そのための手土産ってわけさ。逆に俺の期待を裏切るような奴なら、寝返ったフリしてぶっ殺して、俺がその地位を奪ってやる! その為に、『アレ』が必要なんだ!」
「アレね……確かに、手櫛はクレー用の散弾銃を持っている。それと格闘技もやっているよな?」
「真正面から挑むわけねーだろ。やるなら暗殺だ」
「いいね……やっとハルちゃんらしくなってきたよ!」
啓吾は掌を返したようにテンションを上げて来る。
お調子者だが、下手な奴と組むよりはマシか……。
こうして俺達は一端、山戸から離れて凛々子達と合流する。
誰もいないのを見計らい、別の教室で先程の内容を説明した。
凛々子は黙って聞き、形の良い唇が動く。
「私も、ここのやり方に不満もなくはないわ。正しいばかりで周囲は出来る人間に依存するだけ……誰かが助けに来るわけでもないし、前の世界に戻れる保証もありはしない。だったら今のやり方に添って生きて行くしかないわね。その為には確固たる地位が必要なのもわかるわ」
「だろ? 凛々子ならそう言ってくれると思ったぜ」
「でも、手櫛のセフレになるのは嫌よ。私は悠斗のモノだからね」
「当たり前だ。それも手櫛との交渉条件にする」
「なら付いて行くわ。悠斗のことが大好で堪らない彼女としてね……(笠間と駆け落ちした、姫宮と同じ理由ってわけ。きっと、弥之なら許してくれるわ)」
やっぱ、凛々子は可愛い。いい女だ。
安心しろ、お前は俺が絶対に守るからな。
「……うっぷ」
一緒に聞いていた、凛々子の親友であり、元セフレの結衣が吐き気を催している。
「どうした、結衣? 具合でも悪いのか?」
「……なんでもない。私も悠斗くんについて行くからね(お腹の赤ちゃんのためにも……悠斗くんが、この子のパパなんだから)」
「ああ、サンキュ。ちゃんとお前も交渉要件に入れてやるからな」
落ち着いたら、またセフレに戻してやってもいいかもな。
どうせ法律なんて関係ねーし。
力さえあれば、女が何人いようと許される世界だ。
そうだ、俺には力がある! それを証明してやるぞ!
早速、俺達は行動に移すことにした。
まずは『銃』を手に入れること――。
無論、久遠兄妹や姫宮達からは危険すぎて奪えない。
夜崎も素手で無理矢理は難しい。
だが『奴』なら奪える!
一年の城田 琴葉。
あいつ、竜史郎から『
何故なら明日、学園内の
いちいち生徒会室のロッカーにライフルを戻すのも、竜史郎が仕掛けた『
だから、やるのは今夜――つまり今しかない。
城田は普段からライフルを持ち歩いてなく、女子達が寝泊りする教室のロッカーに保管していることまでわかっている。
流石の竜史郎も女子が寝泊りする教室に手榴弾の
しかも、あそこは教師を含めた男子禁制の場所でもあった。
凛々子が城田を呼び出し、離れた別室で他愛のない相談事をしている。
その隙に結衣が『
俺はスマホの動画サイトで、そのライフルの特徴と使い方を頭に叩き込む。
サイトの運営側が機能してないようで、ずっと放置されていた。
ほとんどのネットニュースや動画は更新されていないようだが、回線は一応生きている。
過去の動画も視聴するだけなら問題なかった。
試し撃ちは出来ないが、今はいいだろう。
そして再び凛々子を使い、あの男を教室に呼び出した。
――夜崎 弥之だ。
狙撃用ライフルは持っていないが、腰元と足首のホルスターに『
「……凛々子、僕に折り入って話って何?」
「ごめんね、弥之……」
「――動くなよ、夜崎」
カーテンに隠れていた俺は姿を現し、奴の背中に銃口を当てた。
「その声……渡辺くん!?」
「装備している拳銃を取り出し床に置け! 言うことを聞かねーと、凛々子ごと撃ち殺す!」
無論、これはハッタリ。
夜崎は自分のことには投げ遣りだが、他人のことには真剣に向き合う姿勢があるらしい。
俺は狂った彼氏を演じ、こいつを脅迫すると同時に幼馴染である凛々子を人質に取る形とした。
実はそうするよう提案してきたのは、凛々子だけどな。
こいつも案外、あくどい小悪魔な女だぜ……。
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