第39話 陰キャぼっちへの疑問
ええい!
迷っている余裕はないぞ!
「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
僕は喉が裂け勢いで気鋭の声を発し、あえて狙撃せず無我夢中で駆け出して行く。
西園寺先輩と変種
ブン!
何とか引き離すことに成功するも、西園寺先輩の様子が可笑しい。
「うぐっ……」
蹲って左胸を抑えていた。
よく見ると、白いブラウス越しで豊満なふくらみ部分から血が滲み染まっている。
「まさか生徒会長、噛まれている!?」
そう悟った瞬間、すぐさま楠田が大口を開けて襲い掛かってきた。
「この野郎ッ!」
僕は右腕を突き出し、あえて前腕部を晒した。
「うがぁぁあぁぁ!」
楠田は咆哮を上げ、僕の腕に噛みつく。
一瞬、鋭い激痛が襲った。
しかし、すぐ異変が起こる――。
「ぐぎぁあぁあぁぁぁがぁぁぁぁぁぁ!!!」
今度は悲鳴のような絶叫を上げ、楠田は陸に打ち上げた海老のように飛び跳ねて暴れている。
とても苦しそうに悶絶しているようだ。
僕は
きっと笠間病院で謎の『白コートのアラサー男』に昏睡状態にされてからだと思う。
逆に僕を噛んだ
だが、それは初期症状である『黄鬼』の場合である。
楠田は全身が青色の皮膚をした『青鬼』だ。
僕はまだ一度も『青鬼』に噛まれたことはない。
果たして、どうなるのか――?
楠田は床に足を滑らせ、バタッと床に倒れて起き上がれなく藻掻いている。
「あぐぅわぁぁぁ……ぐぱぁっ!」
身体を痙攣させ、唸るような呻き声と共に口から大量の血液を吐いた。
楠田はそのまま、ぴくりとも動かなくなる。
赤い瞳孔から光が消え失せ、真っ黒な眼球から周りの皮膚にかけて亀裂が入った。
どうやら完全に活動を停止したように見える。
「――『青鬼』は死ぬのか……」
僕は前腕の噛まれた部分を押えてそう悟った。
「あぐっ、ぁぁぁああ……」
今度は背後から響かせてくる異様な声。
西園寺先輩がウイルスに感染してしまったようだ。
身体を震わせて蹲っていた。
肌の黄色がより一層濃くなり、枝分かれした血管が太く浮き出されている。
「西園寺生徒会長……」
僕は近づき、しゃがみ込む。
彼女と同じ目線で向き合った。
「……ヨ、ザキク……ハナれて、コロしてクレ」
まだ人間としての意識はあるようだ。
何とか繋ぎ止めながら、僕に逃げるか殺すように呼び掛け訴えている。
少し変わったところはあるも、本当に意志の強い先輩だと思う。
「どちらも嫌です。このまま生徒会長を見捨てるわけにはいきません」
「うぐぅぅう、あぐぁぁあぁ!」
ついに西園寺先輩は『黄鬼』となり、僕に襲い掛かって来る。
僕は逃げずに気持ちを落ち着かせ、今度は左腕を突き出した。
ガブッ
「ぐっ!」
前腕部に激痛が走るも、僕は歯を食いしばり堪える。
全ては、西園寺先輩を救うために――。
すると、彼女は僕の腕から口を離し、先程の楠田同様に絶叫しながら藻掻き苦しみ出す。
喉元を押え、身体を痙攣させて何度か嘔吐を繰り返し――やがて収まった。
そして、
「はぁ……はぁ、はぁ、も、戻っているのか、私は?」
西園寺先輩は無事に人間の姿へと回帰する。
「大丈夫ですか、西園寺生徒会長?」
「ああ……夜崎君。キミが私に何かしたのか?」
「ええ、まぁ……今は秘密です。竜史郎さんの許可が下りたら後で教えます」
「そうか……しかし、キミは何故逃げなかった? 私などのために、わざわざそんな傷を負ってまで……昨日も、私を庇うため自害するような真似までして……どうしてキミはそこまで?」
「助けたかったんです、貴女を……理由は他の生徒と同じ、僕も西園寺生徒会長を尊敬していますから」
「……そうか。初めてだな、生徒会長になって良かったと思えたのは……それと夜崎君。私のことは
「はい、唯織先輩。僕も
「わかった、弥之君。改めてよろしく頼む」
唯織先輩はふらりと立ち上がり、僕に向けて手を差し出した。
僕はぎゅっと、その手を握り締めて立ち上がる。
繊細な指と温かく柔らかい感触と同時に、噛まれた部分から痛みが生じてしまう。
しばらくの間、まともに両腕が使えないと危惧しつつ、名誉の負傷だと割り切ることにした。
「少年、西園寺 唯織は大丈夫か? 残りの
戦いを終えた、竜史郎さん達が近づいてくる。
全員が返り血を浴びており、グロっぽい絵面だが無傷のようだ。
血液感染はないんだよな……。
「はい。唯織先輩は噛まれましたけど、こうして人間に戻っています。ですが僕の腕を噛んだ変種の『青鬼』は……」
僕はすぐ近くで倒れている楠田にチラっと視線を向けた。
竜史郎さん、近づきナイフを取り出して刃先で軽く突っついている。
「ふむ。死んでいるな……『
「弥之くん。腕の傷、看てあげるからね。西園寺さんも胸の傷を消毒しなきゃ……」
香那恵さんは息を切らしながら、刀を鞘に納めた。
いくら居合術の達人だろうと、身体が強化された有栖と彩花と違い普通の人間である。
前の家電量販店で戦った時もそうだったけど、複数や長期戦では近接戦闘に差が出てしまうようだ。
逆に、よく似たような戦闘スタイルを持つ彩花の動きについて来ていると思う。
そんな香那恵さんは僕に近づくと、さらに何かに気づいたようで形の良い眉をぴくっと痙攣させた。
動きが止まり、癒し系の美人顔で黙ってじぃ~っと見つめている。
「……香那恵さん?」
「センパイ~、噛まれちゃったって大丈夫っすか~……って、ねえ! センパイ、何やってんの!?」
彩花の大声で、僕は唯織先輩の手をずっと握りしめていたことに気づいた。
「これは……すみません、唯織先輩」
「いや、私も気付かなかった……こちらこそ、すまない」
お互い少し意識しながら手を離した。
心地良さもあってか、すっかり忘れていたわ。
何せ、唯織先輩も嫌がる素振りがなかったからな……ついって感じ。
「……いいなぁ、西園寺会長。私なんて、ミユキくんと一度も手を……」
有栖は可愛らしく唇を尖らせ、不満そうに何かを呟いている。
香那恵さんに応急処置を受けている僕をチラ見しながら。
「掌も噛まれてなぁい、弥之くん?」
「はい、大丈夫です」
とても優しい手つきで香那恵さんは、僕の手を優しく触りながら調べてくれる。
地味に気持ちいい……つい前腕部の痛みを忘れてしまうほどだ。
「他は? 痛みとかない?」
「ええ、負傷は両腕だけなので……はい」
処置が終わった途端、やたら身を案じて触ってくる香那恵さん。
なんかずっと前から、僕のこと気に入ってくれているようだけど理由がわからない。
竜史郎さんは思い当たる節があるようだけど教えてくれないし……。
まぁ、恋愛感情抜きに、こんな美人のお姉さんに好かれるのは嬉しいんだけどね。
「あのぅ、看護師さん。私の胸にある噛み傷……歯を突き立てられただけにせよ、このまま痕が残らないか心配なのだが、どう処置すればいい?」
「唯織さん。それだけ胸が大きいから、少しくらい削れても大丈夫よ」
因縁相手の娘だからだろうか?
普段の『白衣の天使』じゃあり得ない、やたら粗末な対応だ。
けど、やっぱり香那恵さんは優しい。
切なそうな仕草で僕から離れると、唯織先輩の処置に当たってくれる。
プロ意識ってやつだな。
「……あのぅ。夜崎先輩、聞いていいですか?」
ずっと入り口で待機していた、一年の『城田 琴葉』が安全を確認しながらボイラー室に入って来る
「なんだい?」
「夜崎先輩、
当然の疑問か……。
僕に恩義のある唯織先輩は強く言及してこないけど、ギャラリーとして見ていた城田はそうじゃない。
寧ろこれが普通の反応だ。
さて、どう答えようか?
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