第40話 変わっていく価値観
~城田 琴葉side
ようやく地下ボイラー室での掃討戦が終わった。
結局、私は
重要な場所なだけに仕方ない。
素人の私が誤ってボイラー機器を壊してしまったら一大事だからね。
それにしても、久遠さん率いるチームと言うべきだろうか?
とにかく、この人達は凄すぎる。
銃火器を装備しているとはいえ、
的確な指示と判断力、それに高い戦闘技術を持つ黒づくめのイケメンである、久遠 竜史郎さん。
今のところ私の一推しだ。
久遠さんの妹である、久遠 香那恵さんも優しそうな美人でスタイル抜群のお姉さん。
初めは趣味のコスプレかと思ったけど、本物看護師さんであり同時に剣術の達人である。
とても鮮やかな剣捌きだった。
また聖林工業高校の制服を着た、篠生 彩花ちゃんも凄い。
てか、この子が一番人間離れしているような気がする。
不良達を簡単に投げ飛ばすわ、槍のようなシャベルで
普段は人懐っこい感じのイケてる可愛い子なので、仲良くなりLINEを交換してしまった。
そして、二年の姫宮 有栖先輩……。
嘗て新体操部のエースだったけど、彩花ちゃんに引けを取らない戦いぶりだった。
前は虫も殺せなさそうな人だったのに、容赦なく
しかも、あんな凄そうな二丁拳銃を見事に使いこなして……。
それに気のせいかな?
戦闘中、瞳が赤く光っていたように見えなかった?
まぁ、いいわ。
私は以前から姫宮先輩が好きじゃなかった。
理由は他の女子と一緒、ただの嫉妬よ。
女子から見ても、これほど完璧な女子はいない。
容姿端麗、成績優秀、おまけに性格も良くて女子力も高い。
非の打ち所がない完璧な美少女。
私もモデルをしているだけに姫宮先輩と同じ、学園三大美少女って呼ばれているけど、彼女には遠く及ばないと思っている。
特にこの学園で籠城している時、その差は明確だった。
私も初めは周囲から優遇されていた。
特に男子からね。だから自意識過剰なところがあったのも否めない。
だけどすぐメッキが剥がれ落ちる。
人間、窮地に立たされると美少女云々言っている場合じゃないみたい。
私をチヤホヤ持ち上げていた男子達も平等だと言い出し、危険な調達係も任されるようになったわ。
あくまで当番制だけどね。
それでも屈辱だった……。
まるで、お姫様から平民に引きずり降ろされた気分よ。
だけど、姫宮先輩は違う。
彼女だけは、ずっと学園三大美少女の『姫宮 有栖』のままだった。
無論、性格の良い姫宮先輩も調達係を自ら率先してやっていたわ。
けど、本当に危険なところとかは、よく二年の男子生徒が代わってやっていたのを知っている。
学年カースト二位で、一年生の女子にも人気の高かった『渡辺 悠斗』先輩がね。
――羨ましい。同時に嫉妬した。
あの『笠間 潤輝』先輩と付き合っている癖に。
私がずっと憧れていた大好きだった先輩……。
その笠間先輩が可笑しくなった時は悲しかった。
本当は私が傍にいたかった。
でも常に彼女である姫宮先輩が傍にいた。
学園一のベストカップル……。
しまいには、駆け落ちするかのように学園を抜け出した二人。
羨ましい……どうして姫宮先輩なんだろう。
ずっとその事ばかりを考えていた。
一時は腐りかけ、いっそ『反生徒会派』にでも行こうかと血迷った思考すら過った。
そうならなかったのは、引き止めてくれる存在がいたからだ。
――西園寺 唯織生徒会長。
この人のおかげだ。
私と同じく、学園三大美少女と呼ばれる才女。
常に毅然と振舞う姿から周囲の人望を集めていた。
幼馴染みで生徒会の書記だった笠間先輩さえ、彼女と揉めることがなければ、きっとその地位は揺るぐことなく『反生徒会派』など生まれなかったかもしれない。
けど今でも西園寺会長はその姿勢を崩すことなく、自ら率先して調達係をやることもある。
自分の甘えなど一切ない人……誰にも媚びずに自分の信念を貫いていく。
心から尊敬できる先輩……。
だから絶対について行くことに決めた。
その姿勢は今も変わらない。
でも、トリガーハッピーだっけ?
銃を握ると人格が変わってしまうなんて知らなかった。
まぁ人間、誰にも欠点はあるものね。
姫宮先輩以外は――。
だから尚更、不思議だった。
――夜崎 弥之って先輩のことが。
姫宮先輩が学園に戻って来た時、私は笠間先輩も戻って来たと期待した。
前のような爽やかな優等生として――。
けど違った。
戻って来たのは、夜崎先輩だった。
当時は名前も知らない、顔も知らない、興味すら沸かない……なんか陰キャっぽい先輩だ。
だから、あまり関わらないようにした。
無視とまではいかないけど距離を置く、だって興味ないから。
けど、違和感を抱くことはあった――。
あの姫宮先輩が、夜崎先輩にずっと傍で寄り添っていることだ。
しかも姫宮先輩……完全に恋する乙女の瞳で、夜崎先輩を見ている。
あんな表情、笠間先輩ですら見せたことないんじゃない?
それに、彩花ちゃんや大人である筈の香那恵さんも、夜崎先輩を異性として気に掛けているし……。
イケメンな久遠さんも彼には一目置いているようだし……。
何で? よくわからない……いや段々わかってきのかもしれない。
――夜崎先輩は優しくて勇敢なところがある。
狙撃も凄く上手だったけど、まさか自分の身を挺して西園寺会長を守るとは意外だった。
きっと自分のことじゃなくて、他人のことに力を発揮するタイプなのだろう。
人を敬える包容力といい、少なくてもこの学園の男子達に見られない人柄なのは確かだ。
今回行動を共にして、それがよくわかった。
しかも
それにウイルスに感染して『黄鬼』になった西園寺会長に、あえて腕を差し出して噛ませるなんて……何を考えているんだろう?
でも西園寺会長は人間に戻っている……。
一体、何が起こっているの?
――こうなればと、夜崎先輩に聞いてみた。
今まで疑問に思っていた気持ちをぶつける形で。
これまで興味を沸かなかった人――。
だけど今は誰よりも、この先輩のことが気になる。
「えっと……僕もよくわからないんだけどね。だから説明のしようがないというか……」
夜崎先輩は瞳を泳がせている。
よくわからないで、あんな無茶を?
嘘でしょ?
彼が戸惑っている中、久遠さんが間に入ってきた。
「俺が説明しよう。キミの言う通り、少年の身体は
「そうだったんですか……でも、どうして私にそんな重要な話を?」
「ここまで親切に説明したのは、この場にキミがいるからだよ、シロタさん」
「すみません。仰っている意味がわかりませんけど?」
「今回の地下室の討伐作戦、西園寺さんとキミ以外は誰も挙手しなかったろ? それ以外の者を非難するつもりはないが、俺の中で最も勇敢に思え信頼できるのは、この二人だけだと思った……それが理由だ」
久遠さんの言葉に、ぎゅっと胸が絞られていく。
初めて外見以外で人に認めてもらった嬉しさからだろうか。
腐らずに生きて良かったと心から思った。
こんな人、親や教師も含めて周囲にはいなかった。
本物のイケメンは心までイケメンなんだ。
「……わかりました。夜崎先輩のこと決して誰にも言いません」
「ありがとう、シロタさんならそう言ってくれると思ったよ。それと、SNSとTwitterで呟くのも禁止だからな。それとLINEも駄目だからな……後はなんだっけ?」
それから久遠さんに色々と細かく禁止事項の指示をされてしまう。
見かけによらず慎重というか神経質な性格のようだ。
だけど、やっぱり不思議だと思う。
夜崎先輩……って。
そんな状況にもかかわらず、自分の身を犠牲にしてまで久遠さん達と一緒に戦っている。
私にはとても真似できない。
先輩のこと、知れば知るほど凄い人だと思う。
「――夜崎先輩」
「なんだい、城田さん?」
「
「え?」
夜崎先輩はきょとんと首を傾げて見せる。
割と可愛いかも……。
少しだけ、姫宮先輩の気持ちがわかってきた。
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