第37話 ハッピーな生徒会長




 人間を襲い喰らう獰猛な『鬼』と化した感染者オーガ


 嘗ては人間であったことに変わりない。


 成れの果てとはいえ、初めて撃ち殺してしまった。

 しかも同じ学園の生徒達だ――。


 あれだけ引き金トリガーを引くのを躊躇したにも関わらず思いの外、罪悪感は芽生えない。


 理由は仕方ないと心のどこかで割り切っていたことが一つ。


 そして、竜史郎さんが褒めてくれたことだ。


 今まで誰かに認めてもらったことなんて一度もなかっただけに……。

 不思議な感情が芽生えている。

 ましてや、嘗てのを撃った上だから余計だろうか?


 でも嬉しい……高揚感で気持ちが満たされる感覚。

 少しは彼に近づけただろうか?



 僕はそう思いながら、ちょっぴり誇らしくカッコつけて――集中を解いた。


「少年。耳は、鼓膜は大丈夫か?」


 狙撃用M24ライフルを下ろす僕に、竜史郎さんが声を掛けてくる。


「はい、集中していたので大丈夫です」


「そうか。俺は狙撃以外、使用しないようにしているが、今後は耳栓か消音タイプのヘッドホンを使用するのもいいだろう。集中力も高まるしな」


「はい、そうしてみます」


 何だろ?

 次第にこの人が先生に見えてきたぞ。


 担任だった手櫛が本性を露わにクズとなっているだけに……いや比較するだけ竜史郎さんに失礼だ。


「凄かったよ、ミユキくん」


「う、うん、ありがとう。まだ有栖さんには及ばないけど、少しでもみんなに貢献できると嬉しいな……」


「センパイなら大丈夫っすよ~。ムッツリなところがあるから、案外狙撃手スナイパーとか向いてんじゃないの~? こそこそ撃っている感じでウケるぅ」


「彩花くん……褒め言葉なのかディスっているのか? 返答次第じゃ、今後お前がその標的となるであろう」


 イジってくる後輩にムカついたので、厨ニっぽく言ってやった。


 だが彩花は動じることなく、寧ろ向日葵のような笑みを浮かべて小顔を近づけてくる。


「褒めているんだよ~ん。でもいいよ、センパイならね……」


「じょ、冗談だよ。撃つわけないだろ……ありがとう」


 普段は小憎たらしい癖に、いきなり可愛くなるからガチで卑怯だと思う。

 だから、つい負けてしまう。ほぼ完敗なほどに。

 なんて小悪魔な金髪ギャルだ……。


「夜崎先輩、意外とやるんですね……少し見直しちゃった」


 初めて城田からも称賛される。


「ありがとう。でも僕からすれば、城田さん達の方が凄いと思うよ。西園寺生徒会長を信頼して、ここまで戦って生き延びてきたんだからね」


「……は、はぁ」


 急に頬を染めながら瞳を逸らして身体をもじもじされる、一年後輩の城田 琴葉。

 何だ、まさか照れているのか?


「いいな、夜崎君……いいなぁ、キミは……」


 西園寺先輩はぶつぶつ呟きながら、恍惚の表情を浮かべながら口元を歪ませている。

 何故か息が荒い。

 つーか、益々様子が可笑しくなっている。


「西園寺生徒会長……僕の何が良いんでしょうか?」


「すまない、別に変な意味じゃない……銃を撃つ許可をもらってという意味だ。中々の衝撃音で痺れてきたぞ。私も早く、これを――」


 彼女は言いながら、『短機関銃ウージー』を翳して見せてくる。

 あれ? まさか……この人って……『あっち系』の人なのか?


「お喋りは後にするぜ。先を急ぐぞ」


 竜史郎さんが場を仕切り、先へ進ことにした。




 一階から地下まで階段がなく、スロープから降りて行く形となっている。

 緊急時などで物資を出し入れするのに利便性が配慮されているらしい。


 僕のような一般生徒が入るのは初めて来た場所だ。




 スロープを降りて、分厚いドアの前に来た。


 ドアの奥側で、異様な呻き声が沢山聞こえてくる。


「声と物音から相当な数だな。少年、あの天井の小窓から、ドローンを飛ばして偵察してみてくれ」


 竜史郎さんは腰のホルスターから『自動拳銃FN・B・P』を抜き、長い円柱状の筒こと消音器サイレンサーを装着させる。

 そのまま天井付近にある、吹き抜け用の小窓を目掛けて撃った。



 プシュ――



 小窓ガラスがパリンと割れ、破片が床に落ちる。


「わかりました」


 僕はアタッシュケースから、ドローンとノートパソコンを取り出しセッテングして飛ばした。



 小窓から漏れる僅かな陽が差した薄暗い広々とした空間。


 青鬼と化した感染者オーガ達が徘徊している。

 制服を着た生徒や教師に用務員、それに購買部のおばちゃんもいた。


「マジかよ……あのおばちゃん。いつも愛想よく、僕なんかでも優しく声を掛けてくれたのに……」


 ほぼ他人のような生徒や教師ならともかく、親しくしてくれた人が人喰鬼オーガになっているのは辛い。

 また撃てと言われても、冷静に撃てる自信がない……。


「物資らしいものはないな……壁側に色々な機材が置いてあるところを見るとボイラー室か?」


 竜史郎さんはノートパソコンの映像を見ながら判断する。

 西園寺先輩は頷いた。


「そです。さらに奥側に開閉式の扉があり、そこが貯蔵庫となっています」


「うむ……ざっと見て50体か。予想以上に数が多く、おまけに遮蔽物もある。下手な発砲は控えるべきだな」


「え!?」


 何故か、西園寺先輩は声を荒げる。

 彼女の反応に、その場にいる全員が首を傾げた。


「当然だろ? 機器に当たったら一大事だ。もう籠城ができなくなるぞ。特に威力の高いライフル弾は貫通する恐れがあり禁止だ」


「では、『短機関銃ウージー』は問題ありませんね! 9mmパラベラム弾ですから!」


「……まぁな。だが連射性が高すぎる。零れ弾が機材に当たる可能性も――」


「いえ、大丈夫です! 何せ、ハワイで父に教えてもらいましたから!」


 また『ハワ親』推しだ。


 普段は冷静沈着な才女である西園寺先輩にしてはゴリゴリに推してくる。

 つーか、眼鏡越しで目が血走っている。

 やっぱ、この人『あっち系』だろうか?


 その過剰な態度に、あの竜史郎さんですら引いている。


「……好きにしろ。だが責任は取らんぞ」


 呆れ口調で言い作戦会議ブリーフィングを始める。


 近接戦闘を得意とする香那恵さんと彩花が先陣を切り、竜史郎さんと有栖で自動拳銃ハンドガンで応戦する。溢れた敵を西園寺先輩が担当することになった。


 僕は出入口付近で狙撃用M24ライフルを構え待機し、状況によっては発砲も構わないとしている。


 城田は『自動小拳銃SIG MCX』しか装備していないので、ここで待機とし万一は仲間の救援に向かうとした。



「行くぞ――GO!」


 竜史郎さんがドアを蹴り破り、香那恵さんと彩花が駆け出した。


 以前の家電量販店での戦いを見る限り、この二人の相性は抜群だ。


 香那恵さんは華麗な剣技で人喰鬼オーガ斬首し、彩花が脅威的な力でシャベルで頭部を破壊し粉砕する。


 そんな二人の背中を守る形で、竜史郎さんが自動拳銃ハンドガンで応戦した。


 一番、良い動きを見せていたのは有栖だ。

 圧倒する脚力と身のこなしで、遮蔽物を飛び越えて二丁拳銃ダブルハンドガン人喰鬼オーガ達の頭上から撃ち抜き宙を舞っている。


 まるで演舞ダンスを踊っているかのようだ。


「……あの姫宮先輩、やっぱり凄い。それほどまでに、この人を?」


 狙撃用ライフルを構える僕の後ろで、城田が呟く。

 有栖の戦いぶりに魅了されているのはわかるが、『この人』って誰だ?


 まぁ、いい。今は集中だ。


 その前方で、


「――私は待っていた! この時をハハハーッ!」


 西園寺先輩は喜悦を発しながら、短機関銃ウージーを発砲する。


「これだ、これぇ! くぅ~痺れるぅぅぅ!!!」


 一見、不用意な乱射に見えたが、みんなが討ち漏らした人喰鬼オーガの頭部目掛けて効率よく至近距離で撃ち抜いている。


 つーか、やたら銃の扱いが上手い。


 けど、やっぱりそうだ……間違いない。


 美ヶ月学園生徒会長であり、全国でも成績トップクラスで学園三大美少女にも挙げられるほどの完璧な才女……。


 そんな、西園寺 唯織いおりは――重度のトリガーハッピーだったんだ!






──────────────────


お読み頂きありがとうございます!


「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、

どうか『★★★』と『フォロー』のご評価をお願いいたします。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る