第32話 終末世界デビュー




「要するに私達に加勢してくれると?」


 西園寺先輩は首を傾げる。


「その通りだ。まず明日から地下室内を清掃する。殲滅後の物資の搬送はそちらでやれよ」


「わかしました。しかし地下室以外にも感染者オーガはおります。そして『反生徒会派』の連中も黙っていないでしょう……」


「邪魔する者は全て始末する。その反対派の連中だって既に生徒を何人か殺しているんだろ? 籠城する上で捕虜にしても食料が減るだけ、メリットはない筈だ」


 竜史郎さんなら本当にやるからな。

 何も知らないでイキっている連中が哀れに思える。

 自業自得だし、そういう事態にしたのは寧ろ『反生徒会派』だ。


 あっ、だけど不良グループのリーダー格である『山戸やまと 健侍けんじ』だけは捕らえてほしいな。

 奴には聞きたいことがある。


「久遠さん……」


「竜史郎でいい」


「では竜史郎さん、その銃を使われるのですか?」


 西園寺先輩は聞きながら、頬を染め上目遣いで身体をもじもじさせている。

 何だろう、急にしおらしくなったぞ。


「そのつもりだが、何か?」


「はい、でしたら是非に私も同行させて頂けませんか?」


「西園寺 唯織いおり……キミがか?」


「唯織で結構です。どうせ明日は私が『調達班』になる日、それに学園の問題を貴方達だけに押し付けるのも筋が違うかと……」


「……わかった。なら銃器を貸してやろう、ボストンバックに色々入っているから好きなモノを選ぶがいい。使い方は後で教えよう」


「はい! ありがとうございます!」


 妙に素直になり、とても嬉しそうな西園寺先輩。

 どうやら銃器に興味があるようだ。


「物資調達後、校内の感染者オーガを一掃する。最後に『反生徒会派』との決着ってところかな?」


「そうですね」


「んで、俺達はそこまでやるんだ。イオリ、キミも約束を守ってくれよ。破ったら学園ごと爆破するからな」


 竜史郎さんならガチでやりそうだから冗談に聞こえない。


「わかりました。約束しましょう」


 こうして交渉は無事に成立し、明日から行動を開始することになった。


 やっぱり竜史郎さんは不思議な大人だと思う。

 本当なら、あのまま銃で言う事を聞かせればいいのにそうはしなかった。


 僕も無茶して間に入ったとはいえ、きちんと想いを汲んでくれる。

 貴重なサンプルとか言いかけたけど、これまでの行動や言動からそれだけじゃないと思う。


 紛争地で傭兵していた割には紳士的な人。


 僕には彼が常に矜持プライドと誇りを持ち、頑な信念を持っているような気がしてならない。

 対人関係が苦手な僕でさえも、竜史郎さんには思ったことを話せ、彼も誠意を持って答えてくれる。

 一回り歳が離れているにもかかわらず……。


 やっぱり不思議な人だ。




 それから、一年の後輩である『城田 琴葉』の案内で美術室へと案内された。

 大体の生徒達は普段そこで過ごしているらしい。


 ちなみに生き残った『生徒会派』の生徒数は僅か50人程度だとか……。


 いくら安全対策を施しても、元担任の『手櫛てぐし 柚馬ゆうま』率いる『反生徒会派』のせいで日に日に減ってしまっているようだ。


「まだ美術室には他の生徒がいますが、夜には別の教室に移動させますので、今晩はゆっくり休んでくださいね」


 城田は接遇よく微笑を浮かべている。

 すっかりVIP扱いだ。


 その中に陰キャぼっちの僕も含まれているのだから不思議ものだ。

 同じクラスの奴らが見たらなんて思うだろうな。

 しかも、傍には有栖も一緒なのだから余計だろう。



 城田が美術室の扉を開けると、複数の生徒達が各々の時間を過ごしている。


 友人同士喋っている者もいれば、一人でスマホをイジっていたり身体を休めている者、何かのゲームをして遊んでいる者など。

 ぱっと見はクラスの何気ない日常のような雰囲気。


 だが学年がバラバラであり、人数も半分くらいと思いの外少ない。


「役割分担は交代制なので各々の配置についていています。それ以外の者は他の教室で過ごしたり、比較的自由に活動しているんですよ」


 城田は説明してくれる。

 オフの時間は出来るだけストレスを溜め込まないように配慮されているらしい。



「……弥之? あんた生きてたの?」


 窓際から僕の名を呼ぶ、女子生徒の声が聞こえた。

 長い茶髪にカールを巻いたJKギャルがいる。


 ――幼馴染の『木嶋きじま 凛々子りりこ』だ。


 傍には彼氏であり、学年カースト二位であった『渡辺わたなべ 悠斗はると』もいた。

 短髪にちょい悪っぽいイケメンだ。


 そして取り巻きの『平塚ひらつか 啓吾けいご』、リア充グループに入っているだけあり、身形はそこそこ整っている方だが三下感は否めない。


 さらに、凛々子と同じクラスで友達のぽっちゃり系のJK『泉谷いずみや 結衣ゆい』もいた。


 みんな無事だったのか……ここは喜んでやるべきか。


「まぁね……この人に助けられて、ね」


 僕は答えながら、竜史郎さんに指を指す。


「うわっ、イケメンの大人……」


「……カッコイイ」


 凛々子と泉谷はJKギャルらしい反応を見せる。


 竜史郎さんは軽く会釈だけして、香那恵さんと壁際の方にまで行き座り込んだ。


「……姫宮、戻って来てくれたのか?」


 渡辺は有栖を見て声をかけてきた。


「う、うん……逃げ出してごめんなさい」


「いや、お前が悪いわけじゃないだろ? 大方、ジュンにそそのかされて……」


「それでも逃げたのに変わりないから。でもミユキくんのおかげで、私はこうして無事に生きていられるの」


「ミユキくん?」


 渡辺は首を傾げ、隣に立つ僕の方を凝視してきた。

 別に、こいつと関わるつもりはないので無視する。


「ねぇ、センパイ~! 向こうで、リュウさん達と話しょーよぉ!」


 彩花は僕の腕に抱きつき誘ってくる。


「うぉ、この子、めちゃ可愛い~! それに聖林工業の制服だぁ!」


 平塚が異様にテンションを上げて叫んでいる。

 どうやら彩花のような金髪ギャルが好みのようだ。

 僕も可愛い女子だと思うけどね。


 彩花は平塚を無視し、「ねえ~い~しょ~!」と僕の腕を揺さぶっている。

 まるで凛々子達に仲の良さを見せつけ、「センパイは、あたしの彼氏だからね~」と言わんばかりの甘えぶりだ。


「ちょ……彩花ちゃん! そんなに密着……いえ、そんなに強引に誘ったら、ミユキくんだって迷惑でしょ!?」


 有栖が怒り口調で注意を呼び掛けるも、彩花は「にしし~♪」を真っ白な前歯を見せて笑っている。

 完全にイジられパターンだ。


「わ、わかったよぉ。行くから、引っ張らないでくれよ……それじゃ行こ、有栖さん」


「うん、ミユキくん」


 有栖は綺麗な微笑を浮かべ可愛らしく頷く。

 その光景を凛々子だけじゃなく、渡辺達もただ呆然と見入っている。


 僕達は構わず背を向け数歩進むも、あることを思い出し足を止めた。


「――あっ、そうだ。渡辺くんに聞きたいことがあったんだ」


「……聞きたいことだと、夜崎?」


「そう、同じクラスだった『中田 敦盛あつもり』くんのことなんだけど、僕らもあの動画配信サイトを見たんだ。それで誰かが関与しているんじゃないかと思ってね。渡辺くんと平塚くんは仲が良かったろ? 何か知っているかなって思ってね」


「……ああ、あれな。手櫛と上戸達の仕業だ。あいつ、敦盛が調達当番なのを見越して拉致したんだ。奴がそこそこ有名なユーチューバーだと知った上でな。んで、俺ら『生徒会派』に恐怖を与えさせるために敦盛を脅し掛けて、ああいう悪趣味な動画を撮らしたんだろうぜ」


 そうか……手櫛の奴、教え子に対してそこまでするのか?


 マジでゲスだな。


 ――許せない。


 ぐっと僕は握る拳に力が入る。


「渡辺くんありがとう、教えてくれて……中田くん、残念だったね」


「あ、ああ……まぁな。なぁ、夜崎」


「ん?」


「お前……本当に俺らと同じクラスだった、夜崎 弥之なのか?」


「そうだよ、じゃ」


 僕は渡辺達から離れ、竜史郎さんの所へ向かった。






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