第31話 元彼の因果と交渉要件
「どうした? ここを出るのに何か不都合があるのか?」
竜史郎さんも生徒会側の様子が可笑しいことに気付き聞いた。
副会長の富樫先輩が挙手する。
「僕達も他の生徒を交え、先生と何度も話し合いました。その結果、しばらくこの学園に籠城を続けていた方が安全ではないかという結論で一致しているのです」
「安全ね。確かに即興にしては、よく
投げかける竜史郎さんの言葉に、大熊先生と
「全て
「異変が起きてから、手櫛はすっかり豹変しました。きっとこれまで隠していた本性が露わになったのでしょう。彼は以前から趣味で所持していたクレー射撃用の『散弾銃』を用いて、学園長を含む教師達の大半を撃ち殺しました。また捕らえては、
マジかよ……。
あの担任だった手櫛が、そこまでやらかしていたってのか?
確かに裏表はあると思ったけど……全くもってシャレになっていない。
「大熊先生と御島先生も同じです。縛られたまま校庭で放置されている所を私達がなんとか救い出し、こうして仲間になって頂いております。やはり大人の力は必要ですから」
西園寺先輩の説明に、命を救われた二人の教師は頷いている。
しかし、どうしてここまで最悪な展開になっているのだろう。
「――全ては『笠間 潤輝』のせいですよ!」
副会長の富樫先輩が言い切った。
その名を出た途端、有栖の肩がビクッと跳ねる。
「本来、我ら生徒会が率先して生徒達をまとめ上げなければならない時に、奴が最初に輪を乱し、このような事態に発展させたのです!」
「それは言い過ぎだぞ、富樫副会長」
「生徒会長。何故、奴を庇うんです? 幼馴染みだからですか? 弟分として可愛がっていたからでしょうか? その甘さがこのような事態を招いたのではありませんか?」
富樫先輩は急にエンジンが掛かったかのように、西園寺先輩を責め立てている。
「確かに私がジュン……いや笠間を甘やかしすぎたことは認めよう。だが全ての元凶を彼だけに擦り付けるのは筋が違うのではないかという意見だ。現に笠間がどんなに腐って行こうと、キミを始めとする他の生徒達は自分を見失っていないじゃないか? 寧ろ離れて行ったのは、手櫛や山戸など問題集団ばかりだ」
つまり笠間がブチギレなくても、いずれ反旗は起こされていたかもしれないということだ。
「はっきり言いましょう。僕はこれまで笠間を一切信用しておりませんでした。生徒会の書記としてだけではなく人間性そのものです。確かに彼は優秀な男だ。しかし思考は至って幼稚。少し躓いたり嫌なことを幼馴染みである生徒会長に甘えすがりつき、なぁなぁにしてしまう態度……見ていて、ただ不快な存在でした。正直、貴女の傍には相応しくない男です」
あれ? 富樫先輩って……まさか西園寺先輩のことが好き?
僕の『ぼっち眼』には、そう見えるんだけど。
だが西園寺先輩は動じない。
「……論点がズレているぞ、富樫副会長。どちらにせよ、私はもう笠間を幼馴染みとも弟的存在とも思っていない。いや元々、周囲が思うような関係でもない。父が笠間病院の跡取りである彼と仲良くするよう言い聞かされていたから、そうしたまでのこと。今更だがな……」
西園寺製薬と笠間病院は癒着している関係だったらしいからな。
その延長線上で大人達が自分の子供に命じた関係なのだろう。
政略っぽい、ガチで嫌な感じだ。
「……それを聞いて安心しました。ああ、そいえば姫宮さんは笠間と付き合っていたね? 彼はどうしているんだい? 一緒に離反したのに、どうして一緒じゃないんだい?」
「そ、それは……」
富樫先輩の問いに、有栖は答えにくそうだ。
彼は後輩の城田と違って二人が離反したこと自体は咎めている節はない。
あくまで自然体で聞いている。
きっと離反するのも個人の意向だし、この状況では仕方のないことだと割り切っているようだ。
ただ単に、気に入らない笠間がひょっこり戻って来ないか不安で聞いているってところか。
「姫宮さんは、もう笠間くんとは関係ないと言っていました。その理由で、僕達と合流して、こうして戻って来たんです」
僕が代わりに答える。別に嘘はついていないからな。
「ミユキくん……ありがとう」
有栖は瞳を潤ませ嬉しそうに見つめてくれる。
彼女からの感謝の言葉がとても誇らしく思えた。
「ちょっと~! すっかり話し脱線してんじゃないのぅ! 特に副会長の人、アンタが原因だからね!」
いきなり彩花がヒステリックに声を荒げ、富樫先輩を非難する。
何故か、香那恵さんまで無言で頷いていた。
しかも二人とも目が怖わっ。
「す、すみません……はい」
他校の一年生と一般人ナースの圧力に屈服する、富樫先輩。
竜史郎さんは軽く咳払いをした。
「それじゃ話を戻そうか。キミ達が籠城を決めたのは別にいい……確かに、俺達が見て来た町や住宅街より、ここの方が安全と言えるだろう。であれば尚更、『西園寺 唯織』は不要だろ? 指揮が必要なら、富樫くんと言ったな。キミがやればいいじゃないか? 現に彼女に何かあった際は、キミが引き継ぐって話だろ?」
「よくご存じですね。大方の城田さんから事情は聞いているようだ。でしたら現状も理解して頂きたい。『反生徒会派』の非情な攻撃行為、そして『食糧不足』の問題、最後の学園内に蔓延る
西園寺先輩は癖である両腕を組み説明している。
密かに大きすぎる両胸を強調させながら。
「シロダさんから、食料不足について打開策はあると聞いているが?」
「え、ええ……地下室の貯蔵庫には防災用の備蓄品があり、非常食や保存水、医療品から生活用品に至る物資があります。それらは全校生徒と教職員用の三日分の量であり、現在生き残っている生徒達の分を考えても、一年くらいは大丈夫だと思われます」
ってことは、全校生徒分480名と教職員28名の約三日分の物資が地下室で貯蔵されているってことか。
その背景から手櫛は生徒の数を減らそうと『粛清』と称して狩っていたのか?
「現在、地下は『反生徒会派』が追いやった
大熊先生は熱血漢の体育教師らしく拳を握りしめ、ドンとテーブルを叩いている。
御島先生も無言だが同じ心境のようだ。
手櫛は知らないで
どちらにせよ、マジでクソ野郎だな。
反して、竜史郎さんはニヤッと口角を吊り上げる。
「なるほどね……理解したぜ。なら話が早いじゃないか?」
「話が早いですか?」
西園寺先輩が首を傾げる。
「ああ、そうだ。俺達が地下室の
なるほど、それは名案だ。
流石、竜史郎さん……って待てよ、「俺達が」だって?
まさかその中に、僕も含まれているのか?
……………。
ええええっ!!!?
──────────────────
お読み頂きありがとうございます!
「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、
どうか『★★★』と『フォロー』のご評価をお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます