第33話 リア充達の思惑①




~木嶋 凛々子side



「わたしね、大人になったら弥之のお嫁さんになりたいの」


 幼稚園の頃、私はあいつにそう言った。


 ――夜崎 弥之。


 私の幼馴染。


 どうして好きになったのか覚えていない。


 ただ優しいな。一緒にいて安心だな。

 そんな気持ちはあったと思う。


 あと、やたらオモチャとかゲームとか持っていたから、そこに惹かれた部分もあったかもしれない。


 一緒にいれば嫌でも情は沸くものだ。

 特に弥之のような無害なタイプはね。


 中学校までは仲は良かったし、御洒落に目覚めて人付き合いが多くなっても、それなりに二人で遊んでもいたわ。


 今彼である『渡辺 悠斗』と付き合うまではね。


 けど私の本当の狙いは悠斗じゃない。


 ――笠間 潤輝だった。


 成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗、おまけにお金持ち。

 こんな完璧な男は見たことはない。


 悠斗も悪くない。ポテンシャルは同等だと思う。

 けど家がとにかく貧乏だ。


 好意を寄せる女子からお金を借りまくって、ワンチャン狙う男子から多額のお金を貰い知り合った女子を紹介する。

 まるで風俗営業のような真似をしていた。


 けど、そんなことが長続きする筈がない。

 頭がいい悠斗は見切りをつけて大事になる前に辞めたけどね。


 だけど、すぐお金が無くなったようで、今度は私にせびってきた。

 ある意味、チャンスだと思い、弥之を利用して工面してあげる。


 そして高校に入ってから悠斗と付き合うことに成功した。


 けど、私が言うチャンスとはカースト二位である悠斗の恋人になることだけじゃない。


 カースト一位の『笠間 潤輝』と近づくための手段ツールとしてだ。


 悠斗はライバル視しながらも、笠間くんと仲が良い。

 それを見越した上で彼に接近できればと思った。


 ――男は将来性だ。


 私が尊敬する美ヶ月学園の三年生、『渕田ふちだ 仁奈にな』先輩の口癖だ。

 シンデレラや白雪姫のように素敵な王子様と結ばれて幸せになる。


 それが私の夢だ。


 悠斗もお金はないけど将来性は十分にある。

 だけど、笠間くんほど完成されていない。

 いや、プライドが邪魔して遠のく一方だ。


 せめて踏み台になればと思いつつ、笠間くんに近づくチャンスを狙っていたけど……。

 あの女が、いつも私の邪魔をする。


 ――姫宮 有栖。


 中学から美少女オーラ全開で色々な男子の羨望を集め、私が狙った先輩男子の心を悉く魅了してきた女。


 しかも、本人は誰とも付き合うことなく学業や部活に専念する優等生。

 その余裕ぶった態度が逆に私を苛立たせる。


 おまけに高校に入ってから、ずっと狙っていた笠間くんを奪った。

 何が学園のベストカップルだ。

 ガチでムカつく女……マジでウザい。


 けど不思議だ。


 笠間くんが可笑しくなり、彼を見限って学園に戻ってきたのはわかる。


 あの状態の笠間くんは完全に周囲から浮いて終わっていた。

 もう将来性云々など言っている場合じゃない。

 それこそ自分の親が経営する病院に入院したらって感じ。

 あんなのなら、まだ悠斗の方がマシだ。


 姫宮ざまぁと思い、腹を抱えて笑ったくらいだ。


 だけど、どうして弥之と一緒に行動してんの?


 しかも、聖林工業の金髪ギャルと取り合っている感じにさえ見える。


 あの姫宮 有栖が?


 弥之なんかを?


 嘘でしょ!? 


 そういえば、弥之……なんか雰囲気が変わっている。

 妙に落ち着いているというか。


 堂々としているというか――。


 いつも、おどおど弱腰で、クラスの陰キャぼっちとして周囲からスルーされていた弥之が?


 姿をくらましてからの一ヶ月間、あいつに何があったの?


 弥之が連れてきた、あの黒ずくめのイケメンといい、場違いなナース姿の美人といい……。


 この非常事態で、これまでのカーストが……価値観ヒエラルキーが変わったのは事実だ。


 今じゃお金なんて、ほとんど役に立たないと思う。

 力がモノをいう時代が来ている。


 てっきりお金のない悠斗なら、笠間と違い順応できると思ったけど……。


 駄目ね。


 姫宮と再会して鼻の下が伸びているもの。


 私は知っている。


 悠斗は姫宮に密かな想いを抱いていたことを――。

 だから高校に入り、あの女が笠間と付き合うようになってから荒れ気味だった。


 ひょっとしたらワンチャンがあると思ったでしょうね。


 けど、姫宮は何故か弥之にべったりと懐いている。

 今カノとして嫉妬するどころか、滑稽すぎて笑えてしまうわ……。


 まぁいい……。


 どの道、次の王子様おとこを見つければ関係を終わらせようと思っていたからね。


 でも、弥之はどうかな?


 意外と今の世界に順応し、寧ろ馴染みつつあるように見える。


 どれほどの期待値なのか。


 せいぜい見極めさせてもらうわ――。






 ~渡辺 悠斗side



「なぁ、姫宮……ちょっと話があるんだけど……」


「ごめんね、渡辺くん。ミユキくんを探しているから」


 そう言いながら、姫宮は駆け足で美術室から出て行く。


 おいおい、夜崎の奴は竜史郎って大人の男と連れションに行っているだけだろ?

 何、あんな陰キャに依存してんだよぉ……。


 学園三大美少女とまで称えられた『姫宮 有栖」がよぉ……。


 俺は以前から彼女に憧れていた。


 清楚で慎ましい美少女。

 誰にでも優しくて、ガチの天使。

 それに、あの黄金比の完璧なスタイル。

 当然、彼女を好きになる男達は多い。


 俺に金さえありゃ貢ぐ女達をほっといて、とっくの前に告白していた筈なんだ。


 けど高校に入ってから、ジュンこと『笠間 潤輝』に奪われちまう。


 クソッ! また奴か!?


 俺はいつもあいつには勝てない。


 常に二番手だった。


 成績からスポーツに至るまで何もかもだ。

 何故、俺は奴に勝てないのか理由を考える。


 いつも過るのは、『家柄』だった。


 笠間の親は医師で病院を経営するほどの金持ち。


 俺の家は幼い頃に母親が蒸発して、父親だけの二人暮らし。

 おまけに親父は博打好きのしょーもない男だ。


 だからいつも金がない。


 何も贅沢なんてしたことはねぇ。

 自分の力だけで這い上がってきたんだ。


 しかし、ジュンは違う。


 聞けば一流の女子大生の家庭教師はいるわ、元プロバスケ選手のコーチ指導が入っているらしい。


 そりゃ、こいつに勝てる奴はいねーわ。

 嫉妬を通り越して呆れてしまった。


 だから親友を装うことにしたんだ。


 せめて女性経験だけは負けないよう、色々な女子と遊びまくった。


 だがいくら、俺が豆鉄砲を撃とうと、すぐジュンに重戦車砲並みの強烈な一発を食らって逆転されてしまう。


 姫宮 有栖を取られてしまうことでな。


 だが、どうだろう――。


 学園で籠城するようになってから、ジュンはイカレてしまった。

 もう誰からも相手にされない。


 学園の生徒全員が奴を奇異な目で見始めるようになる。

 黄金のメッキが剥がれ落ちた薄汚い鉛の王子様って目でな。


 難攻不落の牙城が崩れ去った瞬間だ。


 ざまぁ――ざまぁみろだ!


 ようやく俺の時代が来た! 俺はずっとこれを待っていたんだ!


 しかし、やっぱり奴は勝ち組だ。


 姫宮が健気にジュンを庇い続けた。


 そうだよ、これだよ……これが姫宮なんだ。


 いくら醜態を晒そうと、姫宮の心を掴んでいる限り、ジュンには勝てない。

 おかけに二人で駆け落ちしてしまう始末だ。


 だが奇跡は起こる――彼女は学園に戻って来てくれた。


 おまけにジュンの姿はない。


 理由はわからないが、まぁあれだけイカれてしまえば見限るのも当然だろう。


 嬉しかった……いや、ガチで。

 やっぱ時代は俺に向いていたと興奮した。


 だけど可笑しなことが起こる。


 何故か、夜崎 弥之と一緒だったことだ。

 しかも、やたら姫宮の方が親密でべったりしている?


 何だ、これ? どういう状況なんだ?


 夜崎ってあれだよな?


 凛々子の幼馴染で、クラスでも目立たない浮いた陰キャぼっちだった筈だ。

 下手にイジメると、俺の品位が下がるから相手にすらしなかったカスじゃなかったのか?


 しかも姫宮だけじゃない。


 聖林工業の金髪ギャル、それに美人で色っぽいナース姿のネエちゃんまで、奴を意識して取り合っているじゃねぇか?


 おいおい、なんだこれ? 何が起きてんだ?


 それに、こいつ……しばらく見ないうちに雰囲気変えやがって……。


 まるで高校デビュー、いや「終末世界デビュー」したかのようにイキってやがる!


 いつも、おどおどしてばかりの奴がよぉ。


 ――気に入らねぇ。





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