第27話 怒りの金髪ギャル




「んだぁ、金髪ネエちゃん!? その制服……聖林工業だな! なんで他所モンが、ここにいるんだよ!?」


 不良グループの一人が、前に出て来た彩花に向けて言ってきた。


感染者グールに人間を襲わせるような連中に問われても答える気にならないね~。しかも同じ学校でしょ? クズ通り過ぎて、カスなんっすけど~!」


 彩花は軽いギャル口調だが普段より語尾は強い。

 連中がやっていることに怒っているようだ。

 不登校だったと言うわりには、竜史郎さんと同様に仲間意識が強いような気がする。


「ゲスだと? ケェッ、勧善懲悪ってか? こんな時代に何言ってんだ、オメェ? もう法も秩序なんてどこにもねぇだろうが、ああ!? 強い奴が生きて弱い奴が死ぬ! 今じゃシンプルな世界なんだよ! それこそ、バケモノ達がいい例じゃねぇか、ああ!?」


「それとも何か? ネエちゃんは俺達と遊びたいってか? 胸は寂しそうだが、顔は結構イケてんなぁ! いいぜ、こっち来て一緒に楽しいことしょーぜぇ、アハハハハッ!」


「マジで~、行く行く~♪」


 小馬鹿にして嘲笑う不良達、だが何故か彩花はノリノリになっている。


 ったく、何考えてんだ、この金髪ギャルは……っと思った。


 その直後――!



 ギュン!



 彩花は空を斬るように、不良グループ達に向かって猛ダッシュする。




 ガッ!



 彩花は不良達に向けて駆け出して行く。

 猛スピードで近づいた途端、なんと拳で一人の男の顔面を殴ったのだ。


「ぶほぉぉぉっ」


 不良男は宙を舞い、廊下の床を滑って行く。

 突き当たりの壁に激突して動かなくなった。


「なぁ!?」


「テメェ!?」


「悪いけど、まったくタイプじゃないんだよねぇ――テメェら!」


 彩花の口調が変わり激昂した。

 こんな彼女は初めて見る。


「うっせーっ! クソ女が!」


 他の不良が手にしているバールで、彩花は殴ろうとするも、あっさりと受け止められた。


「何だと――……って、痛でぇぇぇ!?」


 手首を握りしめる指に力が入りっているのか、不良は強面の顔を歪ませ悶絶している。


 カッーンっと不良男はバールを床に落とした。


「降参するの、ねぇ? したら今だけ許してあげる?」


「だ、誰がするか、クソ女が……ナメんじゃねぇぞ、コラァ!」


「あっ、そう――」


 彩花は手首から手を離し、今度は不良男の顔面を鷲掴みして軽々と片手で持ち上げた。


「う、嘘だろ!?」


「マジかよ! なんなんだ、この女!?」


 リーダーの山戸を含む他の不良達は大口を開けて、その光景を唖然と見ているしか術を持たない。

 あまりにも衝撃的な事態に、仲間も助けに入れないでいる。


 僕も正直、驚愕している。


 身体強化がされているとはいえ、あんな小柄で華奢なのに、一体どこにそんな力があるのだろう。

 最早、超人の域としか言いようがない。


 ……一応、僕達の味方でいいんですよね、彩花さん?


「じゃあね~、カスゥ」


 彩花は軽い口調で言うと、不良男をブン投げ、突き当たりの壁に激突させた。

 男は気を失い、拳で殴られ吹き飛ばされたもう一人の男と重なる形でぐったりしている。


「アンタらはどうすんの? あたしと遊ぶ? それとも、あの生ゴミ達を回収して逃げる?」


「ク、クソォッ! お前ら、退くぞ!」


 山戸は舌打ちし、他の不良達に指示してその場を去っていく。

 気を失っている男達は両肩を抱えられて運ばれて行った。


「ざまぁ!」


 彩花は不良達に捨て台詞を吐きながら、ビシッと中指を突き立てている。

 意外と武闘派な金髪ギャルであると判明した。

 まぁ、人喰鬼オーガと戦うために、シャベルを槍のように改造するくらいだからな。


「シノブ、実に見事な撃退方だったぜ。俺なら逃がさず全員キルしているがな」


 駄目じゃん、竜史郎さん!

 彩花に任せて正解だったわ。


 その彩花は首を傾げ、こっち側を振り向いた。


 赤く染まった瞳孔は元の状態に戻っている。

 やはり興奮したり戦闘時にだけ変化するようだ。


「あんがと、リュウさん。でも、あたしの身体……ガチだね。同じ境遇の姫先輩といい……やっぱり、センパイを噛んだのが影響だろうね……」


「彩花……」


 僕は何て言っていいのだろうか……。

 切なそうな表情を浮かべる彼女に、どう言葉掛けして良いかわからない。


 きっと彩花も自身の変化に戸惑っているのだろう。

 僕だって、自分の身体がどうなっているのかわからない。


 このまま普通に生きられるのか、そうでないのか……。

 あんまり考えないようにしていたけど、やっぱり不安が過ってしまう。


 その為にも、竜史郎さんと香那恵さんについて行く必要があるんだ。

 

 僕の身体に何かしたとされる『白コートのアラサー男』を探し出し、真実を追求するためにも――。


「……だからね、センパイ」


 彩花が不安そうに瞳を潤ませ声を掛けてくる。

 そのか弱そうな表情に、僕はキュンと胸が絞られた。


「なんだい、彩花?」


「責任とってよね」


「はぁ?」


「だって、あたしの身体こんな風にしたの、センパイだからね」


 やめろ! その言い方!

 他の人が聞いたら、もろ誤解されるだろ!


 あっ、ほら!

 城田が白い目で、僕を睨んでいるじゃないか!


 ちょっとやめてくんない、そんな軽蔑した眼差しで凝視するの!

 まったくもって、そういう意味じゃないからね!


「彩花ちゃんだけ、ずるいよ! 私だって……私だって……」


 有栖は何故か興奮して、「う~う~」と唸っている。

 喉元か発したい言葉が上手く出せないようだ。

 だけど、「ずるい」ってどういう意味だろう?


「つまりヒメ先輩も優位だと思って油断していると、あたしが奪っちゃうって感じ~、にしし♪」


 彩花も時折、意味ありげなことを有栖に言ってくる。

 よくわからないけど、煽られる度に有栖の様子がさっきのように乱れてしまうんだ。


 キャラ崩壊的な……。


 彼女、僕の憧れの女子なんだから、変な方向に導くのやめてほしいんだけど。


「んん! なんか聞き捨てならないことばっかりね。お姉さんは放置かな? 今度、三人でゆっくりお話ししましょう、ね?」


 香那恵さんは咳払いをしながら、二人の間に入ってくる。

 優しい笑顔だけど、やっぱり目が笑っていない。

 しかし話ってなんだろう? 禁断の女子トークでもするのかな?


「俺としてはどうでもいいがな……しかし、少年のことに関しては色々と気になることもある。これを機会に無理のない範囲で実験してみるのもいいかもしれん」


「竜史郎さん、実験ですか?」


「ああ、後で話す。香那恵も看護師として協力してくれ」


「わかったわ、兄さん」


 何を実験するっていうんだ、竜史郎さんは?


「……あのぅ、また助けてくれてありがとうございます」


 城田は、彩花に頭を下げて礼を言っている。

 僕には態度が悪いが礼儀はわきまえているようだ。


「あたしはいいよ~、ああいう連中は虫唾が走っただけだからね~。あと、あたしらタメだから敬語不要ね、よろしこ~」


「う、うん……ありがと」


「そう言えば、シロタさん。聞くのを忘れていたが、さっきの連中は何者なんだ? 確か『生徒会派』とそれに反対する派閥に分かれていると聞いている」


 竜史郎さんは聞いてきた。


「は、はい……言葉の通り反対派のグループです。手櫛てぐし先生が指揮する……」


「手櫛だって? 手櫛って……あの英語教師の『手櫛でぐし 柚馬ゆうま』かい? 僕達のクラスの担任なんだけど……」


 僕の問いに、城田は「へ~え、そうなんですか」と一言だけ言葉を発して終わった。


 やっぱり、こいつ嫌い!

 何よ、ちょっと可愛いからって腹立つわ!


「そっか……ミユキくん、手櫛先生のこと知らなかったんだよね?」


「え? 有栖さん、どういう意味?」


「手櫛先生、反対派のリーダーなんだぁ。今の三年生達も、きっと先生の指示で動いていると思う」


 なんだって!? 嘘だろ!?





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