第25話 三人目の学園美少女




 悲鳴が聞こえたと思われる場所にドローンを飛ばしてみる。


 すると廊下で一人の女子生徒が、複数の人喰鬼オーガに追われていた。


 少女は弓道部なのか弓矢を持っていたが、数が多いのと近距離なこともあり使用できないようだ。


 幸いなのは少女は足が早く、直線状の廊下でも千鳥足の人喰鬼オーガにそう簡単に追いつかれることはない。


 だがしかし――。


「まずいな……このままじゃ挟み撃ちに会うぞ。それに見ろ、教室に隔離された人喰鬼オーガが興奮して扉が破られそうになっている。きっと飢えで死にそうになり足掻いているのだろう」


 竜史郎さんの見解に、僕は疑問が過る。


「飢えで死ぬ? 人喰鬼オーガって、もう死んでいるんじゃないんですか?」


「本来、奴らがどういう状態かは俺も知らん。だが何日間、人間や他の生き物を食べないと死ぬのは間違いない。俺も紛争地で何体か生け捕りにして実験しているからな。だから、この学園のリーダーは教室に奴らを閉じ込めたり、バリケードを固めて出入りできないようにしていたのだろう。だから感心して褒めていたんだぜ、少年」


 なるほど……だとしたら、やっぱり凄い人なんだな西園寺先輩って。


「兄さん、そんな悠長なこと言っている場合? あの子、このまま見捨てるつもりなの?」


「まさか……だがここからでは距離があるし、この門を越えたりバリケードもある……今から駆け付けても間に合うかどうかだな」


「よくわかんないけどぉ、あたしと姫先輩なら速攻じゃね?」


 珍しく彩花が提案してきた。


「うん、そうだね。今の私達ならこれくらいなら飛び越えられるかな」


 有栖まで自信満々に言ってくる。


 これまでの戦いで、彼女達は自分の身体が通常の人間より大幅に向上されていることを実感しているようだ。

 あるいは本能で感じとっているのか。


 普段お淑やかで控えめの性格な有栖だが、戦闘時は豹変したかのように無情で戦っている。

 特に僕に近づく人喰鬼オーガ達には容赦のない制裁を与えていた。

 言葉通り、僕を守ってくれるわけだが……男として複雑な気持ちもある。


「――わかった、二人に任せよう。俺と香那恵も後を追う。少年はここで、二人のナビゲートをしてやれ。後、人喰鬼オーガ対策でゴーグルを外してPC画面で操作すること。万一、遭遇したらロープを伝ってこっちに来い。邪魔な装備は捨てろよ」


「は、はい、わかりました」


 竜史郎さんの的確な助言に、僕だけじゃなく全員が賛同し行動に移した。


 まずは、有栖と彩花が門を飛び越える。

 三メートルはある高さを助走もなく軽々と。


 その際、二人は雰囲気を変え、特に双眸の瞳孔部分が赤く染まっていたような気がする。

 彼女達は戦闘モードに入ると、必ずこの状態になるようだ。


 僕はドローンを戻し、彼女達を先導する。


 途中で進路方向に徘徊する感染者オーガに遭遇するも、俊足の二人について行けず、いとも簡単に振り切られる。

 あるいは降りかかる火の粉のように、あっさりと駆逐していった。


〔センパイ、どっち?〕


「右に曲がった所に彼女はいる! 急いでくれ!」


〔〔了解!〕〕


 有栖と彩花はドローンを追い抜き、指定した丁字路の角を曲がる。


 ドォォォンと銃声が鳴り響き、何かを斬って破壊する生々しい音がマイク越しから聞こえた。



 壁にぶつからないよう、ドローンを減速させコーナーに入った。

 すると、既に決着がついている様子だ。


 彩花はシャベルで人喰鬼オーガ達の頭部を斬って砕き、有栖は回転式拳銃コルト・パイソン自動拳銃ベレッタの二丁拳銃で頭部を中心に撃ち抜いていた。


 凄い……っていうか、ヤバい。


 普段のまるで異なるギャップに、流石の僕でさえ戦慄を覚えてしまう。


 あっという間に、人喰鬼オーガ達は殲滅された。


 悲鳴を上げた少女は壁に背を当て、血の海と化した一帯の中心でしゃがみ込み身体を小刻みに震わせている。


 どこも噛まれていないだろうか?

 それに、あの制服の色……よく見ると一年生のようだ。


〔……あなた、大丈夫?〕


〔ねぇ、どっか噛まれてない~?〕


 有栖と彩花は周囲を警戒しながら声を掛けている。


 ドンドンと叩きつける音が響く。

 きっと教室に閉じ込められた人喰鬼オーガ達が暴れているようだ。


 そこから早く離れた方が良さそうだ。


〔嫌ぁ、殺さないで……〕


 少女は俯き、顔を上げようとしない。

 どうやら、有栖と彩花を人喰鬼オーガと間違えているようだ。

 元はそうだから、当たらずと雖も遠からずだけど……。


〔失礼だね~、ウチら違うっつーの。大体、こんなイケてるわけないじゃん〕


 自分で言い出す、金髪ギャルの彩花。


〔怖がらないで、私達は人間だよ。顔上げてもらっていい?〕


 有栖は穏やかな口調で諭すと、少女はゆっくりと顔を上げる。


〔……ひっ、姫宮先輩?〕


 ん? この子、有栖を知っているのか?


〔えっと……あなたは確か……弓道部の一年、城田さん?〕


 有栖も彼女を知っている様子だ。

 きっと籠っている時にでも知り合ったのだろう。


 待てよ、この子……やたら可愛くね?


 ショートヘアでサイドにヘヤピンを着けている。

 小顔で大きな瞳に整った容貌は、まるでアイドル並みだ。


 苗字は城田で弓道部……あっ、城田ってまさか!?


「ひょっとして、キミは城田しろた 琴葉ことはか!?」


 思わずマイク越しで叫んでしまった。

 そう、僕はこの子を知っている。


〔そ、そうですけど、誰?〕


 城田は空中停止してホバリングをしているドローンに向けて不思議そうに首を傾げている。


 無論、彼女が僕を知らなくて当然だ。


 何せ、この子は学園三大美少女の一人とされる最強の一年生だからだ。

 確か雑誌のJKモデルとして事務所に所属するなど話題の美少女。

 そんな有名な子が、ろくに話をしたこともない陰キャぼっちの僕を知るわけがない。


〔ちょい、センパイ~! この子とどういう関係ぃ!? 知人、友達ぃ~? いつからよ~?〕


 彩花がドローンを睨みつけ、やたら食いついてくる。


「ただ僕が知っているだけだよ……」


〔城田さん、モデルもやっているから学園でも有名なんだよ〕


 心優しい有栖はフォローしてくれる。

 ちなみに二人の『赤く染まった瞳』は元の状態に戻っていた。


〔……姫宮先輩だって有名じゃないですか〕


 城田は不満気に呟いている。

 あくまでカメラ越しの雰囲気だが、有栖に苦手意識を持っているように見えた。



〔やれやれ……ようやく追いついたな。もう片付けたのか? ったく、自信を失くすぞ〕


 竜史郎さんが合流してきた。

 二人の無双ぶりに不満を漏らしている。

僕からすれば、あんたの方が相当ヤバいけどな。


〔誰、この人? 手櫛てぐしなんかより、ずっとカッコイイ……〕


 城田は竜史郎さんを見て頬を染めている。


 悔しいけど、まったくその通りだと思う。


 担任の手櫛なんて、見た目だけだからな。

 竜史郎さんは変人だけと中身もカッコイイんだ。


〔――少年。香那恵を迎えに行かせている。こっちに合流して来い〕


「はい、わかりました」


 指示を受けた直後、門の手前まで香那恵さんが迎えに来てくれた。


 僕はドローンの操作を停止し、PCをボストンバックに入れる。

 壁にぶら下がっているロープを使って門の壁を越えた。


 香那恵さんと合流し、そのままみんながいる場所へと向かった。


 途中、竜史郎さんからイヤホンのマイクから「バリケード直しておけよ」と言われ、指示通りに行う。

 人使いが荒い気もするが、戦闘で役に立てない分、仕方ないと割り切った。


 こうして息を切らし、ようやくみんなと合流することができた。


 が、


「なぁ~んだ。姫宮先輩がいるから、てっきり笠間先輩が戻って来たかと思ったけど……誰ですか、その人?」


 城田は残念そうに溜息を吐きながら、僕に向けて指を差した。


 はぁ!? 何よ、こいつ!?


 超ムカつくんだけど!







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