第二章 学園籠城~潜入

第24話 美ヶ月学園へ潜入




 美ヶ月高校が見えてきた。


 通勤じゃ、バスで乗り継いで40分もあれば着くところなのに、まさか一日以上も掛ってしまうとはな。


 まぁ徒歩だし、感染者オーガを回避して戦いながらで補充も兼ねてだから相当遠回りもしたけどね。


 けどおかげで新しい仲間にも出会えたし、空白の一ヵ月間を埋められるだけの情報を得ることもできた。



「そういえば、有栖さんのお父さんとお母さんは無事なの?」


「え? うん、ウチもミユキくんと一緒でシングルなんだぁ。お母さんと二人暮らしだよ……でも、あれからお母さんと連絡が着かなくて、ひょっとしたらとは思っているけどね」


 有栖は柔らかく、少し寂しそうに答えてくれた。

 僕も似たような家庭環境だから心配する気持ちはわかる。


「僕、竜史郎さんの用事が終わったら、親と妹を探そうと思っているんだ。有栖さんの家にも寄ってみようね」


「うん、ありがとうミユキくん……優しい」


「え?」


「なんでもないよ、うふふ」


 有栖は僕に向けて微笑を浮かべてくれる。

 ずっと憧れていた笑顔。


 こんな近くでしかも自分だけに向けてくれるなんて……。

 学園に行ったら、誰もが驚くだろう。


 特にクラスの連中はだ。


 何せ学園を代表する三大美少女に挙げられていた、姫宮 有栖と陰キャぼっちの僕がこうして仲良く一緒に行動しているのだからな。

 しかも、やたら仲良さげに。


 お互い色々あった分、親交も深まった。


 ただそれだけだけど、僕にとっては大きすぎる進歩だ。

 もしかしたら……そんな妄想も抱きつつある。


 でも期待しすぎちゃいけない。


 これまでだって何かを期待すると必ず裏切られてきたからな。

 調子に乗りすぎて嫌われるのだけは避けなくては……。


「――少年。そろそろ偵察の準備をしてくれ。それと例の件、頼むぞ。嬢さんもな」


「はい」


「わかりました」


 竜史郎さんの指示に、僕と有栖は頷いた。


 例の件と言うのは、他の生徒との『仲介役』である。


 日本じゃあり得ない銃器や刀などで武装した大人が二人に、もう一人はシャベルを担いだ他校の生徒。

 ぱっと見から当然、警戒され構えられ兼ねない。

 だから同じ学園生徒である僕と有栖で間に入る必要があるというわけだ。


 正直、一ヵ月間も姿をくらましていた陰キャぼっちの僕が仲介に入っても他の生徒が覚えているか微妙だったけど、常に注目を浴びていた有栖が一緒なら問題ないだろう。


「そういや、リュウさんって美ヶ月学園になんの用があんの?」


 一番後ろで歩いている、彩花が聞いてきた。


「シノブには話してなかったな。『西園寺 唯織いおり』っという少女に会うためだ。色々と聞きたいことがある。場合によっては連れ出すかもしれん」


「連れ出す? 拉致ってやつぅ?」


「…………場合によってだ」


 竜史郎さんは言葉を濁す。

 隣で歩く香那恵さんは無表情だ。


 なんか犯罪臭がしてきたぞ。


「僕は竜史郎さんのこと信じていますけど……生徒会長に手荒なことはしないでくださいね」


「サンキュ、少年。だが迂闊に大人を信じない方がいい……その気持ちは俺と香那恵の限定にしておけよ。俺達は少年を見捨てたり裏切るような真似はしない」


「はい、ありがとうございます!」


 やっぱりいい人だな、竜史郎さんは……頼りになるし信頼もできる。


「礼は不要だ……何せ、少年は貴重なサンプル……ぐはっ! い、いや、なんでもない」


 あれ? 今、何て言った、この人?

 サンプルって言ったよね?

 それで、香那恵さんに肘打ちされたんだよね?

 何、僕のことそんな目で見てんの?

 感染しないから? 人間に戻せるから?


 マジかよ~、最低じゃん。

 もう前言撤回だわ~。


「ふふふ、竜史郎さんって面白いね、ミユキくん」


 有栖は僕達のやり取りを見て楽しそうに微笑んでいる。


 うん、そこは認めるけどね。

 それに、こんな緊迫した状況下でお互い笑っていられるのも不思議な感覚かもな。

 きっと彼がいなきゃ、今頃不安で発狂していても可笑しくないだろう。




 それからも何度か感染者オーガに遭遇する。


 極力は戦わないよう回避したり、進行方向で邪魔そうな奴は、銃器を使わずに斃した。


 彩花が加わったことで、より近接戦闘が強化されているのが大きい。

 しかも有栖同様に『黄鬼』から人間に戻ったことで身体強化もされたようで、刀使いの香那恵さん以上の無双状態だ。


 その有栖も二丁拳銃は使わず、新体操で培った身軽さと脚力を武器に飛び跳ねたり蹴り技で斃している。


 みんな凄すぎて、僕の出る幕はない。

 てか、完全に実況解説者の驚き役に徹していた。




 ようやく美ヶ月学園の正門まで辿り着く。


 高々と設置された正門は頑丈な門扉で施錠されており、そう簡単に出入りできない状態だ。

 周囲に人喰鬼オーガの姿がないことを確認すると、僕は家電量販店で調達した『VRゴーグル』を装着する。


 そして、予め準備した『ドローン』を飛ばした。


僕はコントローラーで操作しつつ、ノートパソコンでドローンに搭載された高性能カメラの映像を流している。


「まずは校内を一周させてくれ。感染者オーガのおおよその数と外に出入りできる箇所はないか把握したい」


「わかりました。ゆっくりと旋回してみます」


 竜史郎さんの指示で、僕は巧みに操作していく。


「凄いなぁ、ミユキくん、操縦上手だね」


 有栖が褒めてくれている……凄く嬉しい。


「本当、こういうことが出来る男の子って尊敬しちゃうわぁ」


 香那恵さんの癒される口調と言葉に、ついテンションが上がってしまう。

 思わず得意げに小技を披露しながら操作してみた。


「へ~え。人間、一つくらい得意なところってあるんっすね~、センパイ」


 彩花はニヤつき声でディスってきた。

 こいつムカつく……可愛いから許すけど。


 校庭から裏校舎に至るまで、カメラ映像に大勢の感染者オーガが確認されている。


 やはり生徒の姿が多い。時折、用務員から教師っぽい姿もあった。

 屯しつつも、お互いぶつからないよう、各々の習性に乗っ取って徘徊している。


 それに校地の正門、通用門、車両門、裏門など全て門扉で施錠しており、完全に隔離されているのがわかった。


 したがって外からの立ち入りが困難な分、逆に学園から出て行くことも難しいようだ。


「なるほど、予想以上の数だな……斃すのを諦め放置に徹しているってところか。少年、次は内部だ。玄関から潜入し、今みたいに旋回してくれ」


「はい」


 竜史郎さんの指示に従い、僕はドローンを操作する。


 難なく玄関から入れたが、机や椅子が幾つも積み重なってワイヤーで固定されていた。

 人喰鬼オーガ避けで設備されたバリケードのだろう。


 所々、生徒達の知恵と創意工夫の対応策が見られる。


 ドローンを精密に操作し、バリケードの隙間を括り抜けた。


 一階は窓ガラスが割られ、各教室の扉に長板で釘を打たれて固定されている。


 教室内に元生徒と思われる青鬼と化した感染者オーガ達が徘徊していた。


「どんな手段を使ったのかわからないが、人喰鬼オーガを誘導する術に長けているようだ。リーダー格となる人物の洞察力と判断力、それに指令能力が優秀な証だな」


 竜史郎さんは内部映像を見ながら感心している。


 リーダー格となる人物――生徒会長の『西園寺 唯織』先輩か。


 見た目も凛とした美少女で学園きっての才女と称えられている。

 おまけに凄い巨乳……いや今のは不要な情報だ。

 僕は話したことはないけど、見た感じも毅然とした強く厳格そうな先輩の印象がある。


「昨日見た、アッツが配信した動画と状況がほぼ同じだね~。だとしたら、廊下にも感染者オーガがいるかもよ?」


 彩花の言葉に、クラスメイトの『中田 敦盛』を思い出した。


 あいつ噛まれまくっていたようだから、ボロ雑巾にされて死んでいるか感染して『黄鬼』になっているか。

 肉体の損傷が激しいと、いくら人間に戻れたとしてもそのまま死んでしまうに違いない。


 どの道、僕があいつに何かしてやることもできないだろう。


 特に怨みもなければ好きでもないし。



 その時だ。


〔きゃあああああああああっ!〕


 搭載されたマイクを通して、女子生徒の悲鳴が聞こえた。






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