第14話 収穫と出会い




「香那恵、お前はここで待機だ。そいつらを見張ってくれ。用事が終われば全員解放する」


「わかったわ、兄さん」


「それじゃ、少年に嬢さん、行こうか?」


 竜史郎さんを先頭に僕と有栖はボストンバッグを持って部屋を出る。

 階段を下りて地下室へと向かった。

 

 広々とした一室。


 倉庫目的で使用されているようだ。

 工具や雑貨など沢山あるも目的の銃火器は見当たらない。


「まさか、あのヤクザ達に嘘つかれたんじゃないですか?」


「いや、日本の法律上、バレやすい場所に保管しないだろう。目的のブツはさらにこの下だ」


 竜史郎さんはしゃがみ込み、埃塗れで目立たなかった地下室床の収納庫入口ハッチを開けた。


「!?」


 開けた途端、竜史郎さんは表情を強張らせる。


「どうしました?」


「少年、そこの工具箱から懐中電灯を持って来てくれ」


 僕は指示され、言われた通りに対応する。

 竜史郎さんは懐中電灯を受け取ると、床下の収納庫を照らした。


「――人喰鬼オーガがいる。ざっと見て五~六人の男だ。青い皮膚をしていることから『青鬼ブルー』か……」


「え!? 早くハッチを閉めないと!」


「いや、大丈夫だ。梯子はしごは設置されているが、大抵の感染者オーガは登れない。それを理解して、暴力団達はここに閉じ込めたのだろう」


 言われてみればそうか。

 いつも、ふらふらと酔っぱらったみたいに千鳥足で歩いているからな。

 移動も遅いし、きっと歩行が苦手なのだろう。


「この人達は一体何者だったのでしょうか?」


 有栖が聞いた。


「きっと暴力団の仲間だな。上手く地下室まで誘き寄せて突き落としたんだろう。特に青鬼ブルーは知能が低く、ただ標的を盲目に向かっていく習性がある。まともに障害物が避けられないんだ。したがって床のハッチを開けたまま目の前に血液をチラつかせて誘導させれば、青鬼ブルー用の『落とし穴』の完成ってわけだ」


 なるほど、そういう対処法もあるのか。


 血と人肉を求めて襲い掛かる人喰鬼オーガでも習性さえ理解し対処すれば、たとえ武器がなくても上手くやり過ごすことができるようだ。


 暴力団達も銃器こそ所持しているも、仲間達の成れの果てだから情も湧き始末できず、こうして誘導して地下室に閉じ込めたに違いない。


「しかし、どうします? このままじゃ僕達も降りられないですよ?」


「考えはあるさ――」


 竜史郎さんは言いながら懐からナイフを取り出し、自分の指先を薄く切りつける。

 何を思ったのか指先を入り口に翳し、血液を数滴ほど落とした。


「ぅうがぁあぁぁぁあぁぁ!!!」


 人喰鬼オーガ達は血の臭いに反応し、激しい咆哮を上げて入り口まで群がってきた。


 何体か梯子はしごに手を掛けるも昇ろうとはしない。

 ひたすら上に向けて腕を伸ばしてくるだけで、感染者オーガ同士が協力して肩車や土台を作ってよじ登ってくることもない。

 逆に数センチ程度だか、互いに間隔を空けているようにも見えた。


人喰鬼オーガは社会性がなく単独行動が大半らしい。だが目標の人間に対して同時に襲う傾向はある。その際は腕を伸ばして自分の所へ引きずり込もうとするも、互いの身体がぶつからないよう一定の距離を開けるようだ」


「つまり感染者オーガ同士が協力し合って何かを仕掛けるってことはないんですね?」


「その通りだ、少年。後は――」


 竜史郎さんはライフルM16の先端について装着した『銃剣M7』で、人喰鬼オーガの眼窩に目掛けて突き刺した。


「こうして頭上から攻撃すればいい。見ろ、連中は学習能力が無いから、同胞が殺られても我先へと群がってくる……まるで餌を求めてくる『雛鳥』だな」


 言いながら、竜史郎さんは餌をあげる飼育員のような手慣れた作業で、人喰鬼オーガ達の顔面を目掛けて剣撃を与えて脳を破壊している。

 

 淡々とこなしていく行為に残酷さは感じられなかった。

 案外、僕も見慣れて麻痺してきたのかもしれない。



「……よし、鎮圧に成功だな。下に降りるぞ、少年に嬢さん」


 竜史郎さんに促され、僕と有栖は梯子を使って下に降りた。

 できるだけ、人喰鬼オーガ達の亡骸を見ないように意識する。


 蛍光灯の灯りをつけると、そこは日本とは思えない違法な光景が広がっていた。


 自動拳銃ハンドガン回転式拳銃リボルバー短機関銃マシンガン散弾銃ショットガン自動小銃ライフル、狙撃ライフル、手榴弾グレネード、等々がびっしりと数多く連なって保管されている。


 弾丸も予備まで全て揃っている。


 まさに武器庫だ。


「こいつは驚いたな……米軍特殊部隊が使用する『SIG MCX自動小銃』まであるぞ。国相手に戦争でもするつもりだったのか? 暴力団だから、トカレフばっかりだと思ったがな」


 竜史郎さんはキャスケットの奥に隠されている瞳を輝かせながら歓喜の声を上げている。


 しかし僕が住む町の一角で、こんなに物騒な大量の武器が隠されているなんて……いくら裏社会とはいえ複雑な気分だ。


「よし、二人とも、とりあえずこれら・ ・ ・を上にあげるぞ。手伝ってくれ」


「え? これらって……竜史郎さん、まさか全部もらう気ですか?」


「そうだ、少年。武器は多いに越したことはないからな。特に日本じゃ銃どころか銃弾の仕入れすら難しい」


「だけど、これだけの数と量……逆に荷物になるんじゃ」


「そこは考えているさ。目的を達成するためには生き残る必要がある。これはその保険だと思ってくれ」


 保険ね。

 言いたいとこはわかるけど……。


 丁度、地下室にアウトドア用のキャリーカートがあったのでボストンバックに入りきらない分の銃火器を詰め込む。


 それから間もなく。


「他にも銃器を隠し持っている暴力団組織や密輸ルートも聞き出した。これで、また弾切れが起きても現地調達しやすいだろう。いざって時は自衛隊の駐屯地や米軍基地にお邪魔する方法もあるが……流石にやめた方がいいかな」


 事務所を出た竜史郎さんはテンションを上げて嬉しそうに呟いている。

 要は無駄な戦いを避ければいいだけだと思う。



 その後は遭遇する感染者オーガを斃しつつ、商店街のミリタリーショップへ向かった。

 入手した弾丸や銃器用のケース類等を調達してより装備を整えるためだ。


 僕と有栖も制服の中からガンベルトとホルスター装着し、新しく渡された拳銃と共に装備させられた。


「有栖さん、銃の使い方わかる?」


「ううん、わからないの。ミユキくんは?」


「ゲームとかで知識はあるよ。撃ち方もわかるから教えるね」


「ありがと……頼もしいね。私もみんなの足手まといにならないように頑張るから」


 有栖はニッコリと微笑む。


 嘗て遠く、また隣の席で眺めるしかできなかった彼女の笑顔が……今、僕だけに向けて、こんな間近で見られる日が来るとは……。


 浮かれている場合じゃないのに、つい感動してしまう。


「兄さん……弥之くん達、あと何分?」


「あと一時間だ」


「そう……」


 香那恵さんは僕達をチラ見しながら時間を気にしている。

 きっと僕達の感染疑いの件だろうけど、何故か視線がやたら怖い。


「二人共、大体の装備は整ったな? 残りの使用しない武器類は本来なら駅などのコインロッカーで保管したいところだが、通りやすい場所は人喰鬼オーガ達で溢れているに違いない……ケースごとビニールにでも包んで見晴らしの良い公園で埋めることにしよう」


 僕達は竜史郎さんの言葉に従い、商店街の公園に足を運ばせた。




 今にも陽が沈みそうな夕方頃。


 辿り着いた公園のあちらこちらに、青鬼と化した人喰鬼オーガ達が数体ほど無造作に倒れているのを発見した。


 全員が頭部を何かで破壊されているか、首を切断されている。



「……どうやら先客がいるらしい」


 竜史郎さんが何かに気づき、大きな遊具に向けてライフルを構える。



 すると、その陰に隠れていた人影が姿を現した。


 金髪で色白の女子高生JK、所謂ギャルだ。

 制服から他校だとすぐにわかった。


 血塗れの剣先シャベルを肩に担ぎ、片手には回転式拳銃が握られている。


 この子、何者なんだ?






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