第13話 強襲と強奪




 僕達は再び、美ヶ月学園を目指して進行する。


 途中、青鬼と化した感染者オーガが現れた。

 数は昨夜と違い、二~三体と疎らだが、こちらに気付くなり襲いかかって来る。


「昼間だと、奴らは活発に行動できないらしい」


 竜史郎さんは冷静に考察しながら、自動拳銃ハンドガンで襲ってくる『青鬼』達の頭を撃ち抜く。


「じゃあ、兄さん。尚更のこと進まないと、こんなの相手にしていたら、すぐに夜になってしまうわ」


 香那恵さんは言いながら、後方から襲ってくる『青鬼』の首を鮮やかな剣さばきで刎ね飛ばした。


 音と臭いに敏感な感染者オーガ――。


 夜とは違い、出現する数は多くないにせよ、立往生しているとこうして次々と現れてしまう。

 特に住宅街だと、主婦や老人そして子供が多いようだ。


 竜史郎さんは几帳面なのか、あるいは戦闘狂なのか。


 遭遇する度に逃げずに戦ってしまうため、本来なら電車やバスで30分もあれば着く距離でも中々進まない。


 温厚な香那恵さんも不満を漏らしていた。


「確かにお遊びがすぎたのは認めよう。感染者オーガのためにも殺してやるのも慈善事業だと思ったんだがな……それに不測の事態も起きたようだ。一端、進路方向を変えよう」


「竜史郎さん、不測の事態って何ですか?」


「おっと、少年。2メートルだと言ったろ! まだ2時間しか経過してないぞ!」


 感染疑いのある僕が近づこうとすると、彼は容赦なく銃口を向けて来る。

 イラっとするが仕方ない。


 姫宮さ……いや、有栖は僕の背後に隠れて身体を縮ませて震えている。

 きっと二人の感染者オーガへの容赦ない戦いぶりと、駆逐される凄惨グロテスクな光景に怯えてしまっているに違いない。


「有栖さん、大丈夫?」


「う、うん……ミユキくん、ありがと」


 有栖は恐怖を押し込んで健気に微笑んでいる。


 か、かわいい……なんてかわいいんだ。

 思わずそう思ってしまう。

 それに僕を頼ってくれて超嬉しい。


 ――必ず有栖を守る!


 僕は笠間とは違うぞ。

 命懸けで守ってみせるんだ。


 ちなみに彼女を呼び捨てするのは、まだ心の声だけだけどね。

 

「少年、正直に言うと……弾薬が尽きかけている。現にライフルは弾切れだ。このまま美ヶ月学園へ進むのは危険だと判断した」


 しれっと説明して、人喰鬼オーガを相手に自動拳銃ハンドガンをぶっ放す、竜史郎さん。


 なんだって!?

 だから、ずっと『M16』を肩に下げたままだったのか!?


 つーか、マイペースに戦っている場合じゃないよね!

 残弾くらい計算して戦えっての!

 プロの傭兵じゃなかったのかよ!?


 竜史郎さんは最後の手榴弾を投げ、『青鬼』達を吹き飛ばす。

 その爆発音に引き寄せられ、別の感染者オーガが来る前に、急いでその場から立ち去った。




 とあるビルの事務所前にて。


「やれやれ……ここまで来れば安心だな」


 竜史郎さんは何気にスキャット風船帽を被り直して言っている。


「でも、もう弾がないんですよね?」


「少年! まだ二時間と三十分だ! 近づくなって言ったろ!」


 やたら機敏な動きで銃口を向けてくる。

 

「だけど、そのFN ブローニングも弾切れなんですよね?」


弾倉マガジンに一発だけ残っている」


 その貴重な一発を僕に向けてどうするんだよ……。

 無計画な消耗戦で弾切れ起こしている癖に妙なところで神経質だから質が悪い。


「竜史郎さんでしたっけ? いちいちミユキくんに拳銃を向けるのやめてもらえますか!?」


 有栖が怒り口調で抗議してくれる。

 庇ってくれて凄ぇ嬉しい。


「すまんな嬢さん……俺も大人げなかった。これから弾薬の補給を行うぞ」


「弾薬の補給? どこに銃弾の弾が置いてあるんです? こんな遊殻市ゆから市の街中で?」


 そもそも日本に弾が保管してある場所なんて限られているし……。

 

「そのために、この事務所に来たんだ。ここなら必要なモノが揃っている筈だ」


 竜史郎さんは巧みな手捌きで、ライフルの先端に『M7(銃剣)』を装備させている。


「この事務所って?」


 一見して、高々と建っている普通の三階建てのビル。

 二階の窓ガラスいっぱいに立派な家紋と『鶴ケ井つるがい産業』っと書かれている。


 僕が目を凝らし眺めている中、竜史郎さんはニヤッとほくそ笑む。


「――日本のマフィア、いや暴力団の事務所だ」


「暴力団の事務所? ここが……えっ!?」


「以前から鶴ケ井組は対立する組織と近々起こる抗争中に備え準備していたらしい。海外から大量の銃器を仕入れていたと情報を得ている」


「情報? どこから?」


「傭兵時代の戦友ってところだな。俺を日本に密航させ、この装備を日本に運んでくれたのも、全てそいつの手引きだ」


 なるほど、竜史郎さんにも仲間というか協力者がいるんだな。

 でなきゃ、ここまで一人で戦えるわけがないか。


「でも兄さん、建物の中に誰かいるんじゃないの?」


「情報では組員の何名かが感染者オーガとなり騒然となったらしい。既に始末されたと思うが、おそらくまだ何人かの組員は立て籠っているだろう」


「じゃあ、諦めましょうよ……下手したら暴力団とも戦う羽目になっちゃうじゃないですか?」


 僕はびびり制止を呼び掛けるも、竜史郎さんは首を横に振った。


「まともに銃も使えない素人だろ? 問題ない。だが万一の保険のため、香那恵も来てくれ。少年と嬢ちゃんはここで待機だ。人喰鬼オーガに遭遇したら、建物の中に入って来い。但し、2メートル以内は近づくなよ」


 暴力団の事務所に乗り込むことより、僕の感染疑いを恐れる竜史郎さん。


 それから間もなく、二人は堂々と事務所の中に入って行った。


 僕と有栖は事務所の入り口前で、ただ立ち尽くしている。

 二人っきりでドキドキするけど、お互い世間話をする余裕はとてもなかった。



 間もなくして。



「何だ、テメェ! どこの組のモンだ!?」


「こんな時にカチコミか!?」


「けど、あのネェちゃん、ナースのコスプレって可笑しくね!?」


 建物内から男達の声が響く。

 きっと立て籠っている暴力団だ。


 竜史郎さんの声で「素人ども、お前達の武器を全てよこせ」とストレートに言っている。

 当然、暴力団達は「うるせぇ! アホか、こいつ!」と罵声を浴びせていた。


 そして、



 ――パン! パン!



 外からでも聞こえてくる、割れるような銃の発砲音。


 僕はその音より、それに気づき近づいて来る人喰鬼オーガはいないか、寧ろそっちの方に気を配った。

 幸いこの近くに奴らはいないようだ。


 直ぐに「うぎゃあ!」という男達の悲鳴が聞こえる。


 しばらくして、香那恵さんが手招きして「二人とも来ていーよー」っと癒し系の声で呼び掛けてきた。


 僕と有栖は恐る恐る事務所へと入って行く。

 きっと普通の学生は来ちゃいけない場所だと考えながら……。


 一室に入ると、ボコボコになった10人の暴力団の男達が全員正座させられ、両目と口がガムテープで固定されている。

 各自、両手を後ろに組まされ親指同士が結束バンドで縛られていた。


 まるで過激派組織テロリストのような手際の良さだ。

 相手は暴力団なのに、何だか可哀想に思えてくる。



 竜史郎さんは顔を腫らした一人の暴力団を開放し、「40秒で持って来い」と指示していた。


 暴力団は「ひぃっ!」と怯えた声で喉を鳴らし、急いでボストンバックを三つ持って来る。


「――少年に嬢さん。今こいつらを尋問したところ、この建物の地下室に弾薬と銃器が隠されているようだ。一緒に運ぶのを手伝ってくれ」


 僕と有栖はドン引きしつつ「はい」と頷く。

 

 竜史郎さんはとても話やすくいい人なんだけど、こういった相手には一切容赦がないんだと思った。


 敵に回すと、人喰鬼オーガ以上におっかない人なのかもしれない……。






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