第2話 白コートの紳士




「ううん、悠斗。そんなことないよ。行こ」


 凛々子は渡辺の腕に抱きつき、急かすように引っ張る。


「わかった……ん? 何だ、夜崎か。オメェいたの?」


 渡辺はニヤっと笑い、さも僕の存在に気づいたかのように振舞う。

 そして、ぐっと凛々子の肩に腕を回し抱き寄せる。

 

 まるで僕に見せつけるかのように……。


「そういや、凛々子。お前、中学までこいつと付き合ってたんだっけ?」


「ち、違うよ! ただの幼馴染みだって! なんで私がこんな陰キャと……」


「そうだったな、悪りぃ。んじゃ、みんなでカラオケでもいってパリピるか?」


 渡辺は凛々子と密着したまま去っていく。

 

 その後ろ金魚の糞のように、平塚ともう一人の取り巻きである、中田なかた敦盛あつもりついて行く。


 さらに凛々子の友達である、泉谷いずみや結衣ゆいって子もいる。

 肉付きがよく少しぽちゃっとした感じのJKギャルだ。



 にしても渡辺の奴。


 以前から何かと突っかかってくる。

 笠間と同じカースト上位の陽キャ野郎だから、陰キャぼっちの僕なんてかかわる価値すらない筈なのに……。


 凛々子の件だってそうだ。


 確かに中学まで、彼女と交流はあった。

 他人から誤解されるような仲が良かった時期だってあるさ。


 だけど実際に付き合ったことはないし、あくまでも幼馴染みの延長だ。


 現に高校に入ってから、やり取りすることがなくなったし、渡辺と付き合い始めた時だって丁度そんな頃だった筈。


 元彼ならともかく、ただの幼馴染み相手に焼餅ちか?

 どちらにしても器の小さいリア充様だ。


 幸いなのは親友でカースト一位の笠間は僕なんか相手にすらしてないこともあり、二番ポジの渡辺から直接何かを仕掛けてくることはない。


 リア充がぼっちいじめなんてカッコ悪いからな。

 下手にかかわるだけ自分の評価を下げるようなもんだ。


 だから、ああして自分のリア充ぶりを見せつけて優越感に浸りたいのだろう。


 そりゃ羨ましいと言えば羨ましいけど、地団駄を踏むほどじゃない。


 まぁ、憧れの姫宮さんとの仲を見せつけられるのなら別だけど……。



 だけど、凛々子は変わってしまったな。

 前はあんな派手でお洒落じゃない、ごく普通の優しい女の子だったのに高校に入ってから僕を蔑むようになってしまった。


 特に渡辺と付き合うようになって、リア充グループに入ってからだと思う。

 昔っから知る僕には、無理して背伸びしているように見えてしまうが。


 けど、まぁ、あれだ。


「……どうでもいい」


 そう割り切ることにした。




 普段通り一人で帰路を歩いていると、同じ学校の三年生達に声を掛けられる。


「おい、テメェちょっとツラ貸せや~」


 僕の肩に腕を回し、馴れ馴れしく声を掛けてきた男。

 強面で短めに刈り上げた金髪に背の高い筋肉質な体格。


 こいつ間違いない……山戸やまと 健侍けんじだ。

 

 三年の不良グループのリーダー格。

 喧嘩っ早く、何度も停学を受けている問題児。


 山戸が声を掛けると、あっという間に10人くらいの不良達に囲まれてしまう。


 僕は返答する間もなく、あれよあれよと空き地へと連れて行かれた。


「なぁ、一年。金貸してくれよ」


「ぼ、僕、二年ですけど……」


「んなのどうでもいいんだよ! コラァ!」



 ガッ!



 山戸は急にキレだし、僕を突き放すといきなり顔を殴ってきた。


 僕は吹き飛ばされ地面に倒れる。

 右頬に痛みの血の味が広がっていく。

 唇も切れてしまったようで微量だが血も出ている。


「ひぐ……」


 頬の痛みと何故殴られたのかわからず、野良犬のように怯えてしまう。


 山戸はしゃがみ込み、そんな僕の顔を覗き込んできた。


「んで、いくら貸してくれるの? それともボコられてぇの?」


「お、お金はあります! だから見逃してください!」


 僕は言いながら財布を取り出して、一万円札5枚を抜いて見せる。


 情けないけど、三年生の不良達に囲まれて成す術もない。

 実は僕は……ってイキリたいけど無理なことは無理だ。


「……え? お前、金あんの?」


「話、ちげーじゃん」


「でもラッキーじゃね? ケンちゃん、もらっちまおうぜ」


 山戸達の反応に違和感を覚える。

 何故か呆気に取られているように見えた。


 まるで金なんて持ってないだろうっと見据えた上でのカツアゲっぽい。


 それに不良の誰かが「話が違う」って言っているぞ?


「――キミ達、みっともない真似はやめたまえ。今時、流行らないぞ」


 取り囲む三年生の背後から、男性の声が聞こえる。


「誰だ、テメェ!?」


 山戸は立ち上がり振り返る。


 僕はその隙間から、声を掛けた男性の姿を見入った。


 すらりとした高い身長で大人の男。20代後半くらいのアラサーに見えた。

 銀縁の四角いフレームの眼鏡を掛けており、白色のコートを羽織っている。

 長めの黒髪が真ん中から綺麗に分けられ、切れ長の双眸を覗かせていた。

 如何にも頭が良さそうな理系風の男性だ。


「通りすがりのお節介さ。キミ達が囲んで彼を連れて行く姿を見てしまったからね……警察には通報している。大人しく立ち去ることを進めるよ」


 男は爽やか微笑みながら、スマホをチラつかせている。


「クソッ! 行くぞ、お前ら!」


 山戸は舌打ちし、あっさり身を引いて不良達を連れて去っていく。

 思いの外、潔い引き際の良さに些か呆気なさを感じてしまう。


 きっと男の余裕な態度と手際の良さに危機を感じたのだろう。

 大人らしい見事な回避術だ。


 その男はゆっくりとした足取りで近づいてくる。


「キミ、大丈夫かい?」


「はい、助かりました……」


 僕は立ち上がり制服に付着した土埃を払う。


「ん? 唇が切れているね。少し待ちたまえ」


 男は白コートのポケットからハンカチを取り出し、僕の唇に押し当てた。


「痛ッ」


「すまない。それくらいなら処置するほどでもないだろう。気になるなら流水で濯ぎたまえ。そのハンカチはあげるから」


「はい、ありがとうございます……あのぅ、お名前は?」


「ただのお節介だ。名乗るほどの者じゃない。警察には私から解決したと連絡しておくよ」


 男は言うと、背を向け颯爽と去って行った。


 いや、カッコよくね?

 同じ大人でも担任の手櫛とは雲泥の差なんですけど!

 

 しかも胡散臭い笠間や渡辺なんかよりも、余程爽やかなアラサーのお兄さんだ!


 きっと本物のリア充に違いない。

 本物は性格がいいって聞いたことがある。


 僕もいつか、ああいう大人になりたい。


 でも陰キャぼっちじゃ無理か……。


 感動して自虐しつつ、僕は自分が住んでいる家へと戻る。

 



 昭和感が漂う古そうなニ階建てのアパート。

 その二階の一番奥にある部屋が僕の家だ。


「ただいま……」


「おぃ、玄関先で体を消毒してね! それから手を洗ってうがいもだよ!」


 帰って来た早々、居間から妹の大声が聞こえる。


 妹の名は、美玖みく

 12歳で小学生だ。


「わかったよ」


 僕は言われた通り、玄関に置いてある消毒液を身体中に吹きかけて居間へと入る。


 美玖はかじりつくようにテレビを見ていた。


〔――で、原因不明のウイルスが流行しており、海外でも同じ症状を持つ患者が増えている模様です。日本政府では海外からの入国を制限するか議論されており――〕


「また『あの国』からなのかな……せっかく終息して、お外で遊べるようになったのに」


 洗面所へ行く途中、テレビの報道に対して呟く妹の声が過った。





──────────────────

次第に主人公の取り巻く日常が壊れていきます。



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