陰キャぼっち、終末世界で救世主となる

沙坐麻騎

第一章 救世主誕生

第1話 リア充達への呪詛




 あ~あ。



 いっそ世界なんて滅んでしまえばいいのに……。



 僕は机の上に突っ伏して寝たふりをしながら、今日もそんなことを考えていた。


 朝っぱらから、わいわいと楽しそうに賑わう教室は糞やかましい以外何者でもない。

 正直イラっとする。


 特に仲のいい友達がいるわけでもないし、ましてや彼女がいるわけでもない。


 中学から高二の今まで、ずっと影の薄い『陰キャぼっち』。


 それがこの僕、夜崎よざき 弥之みゆきである。


 とにかく学校生活が面倒だ。

 本当なら来たくない。

 家でネトゲしていた方がどんなに楽しいか……。

 

 だけど。


 こんな僕でも唯一のオアシスがある。



「――夜崎くん、おはよーっ」


 隣から優しい声で挨拶をしてくれる女子の声。

 僕は顔を上げ、静かな動作で隣の席へと座る彼女に瞳を向けた。


 濡羽ぬれば色の光沢を宿した長いストレートヘアが似合う正真正銘の美少女。

 乳白色の滑らかな肌に整った鼻梁に長い睫毛に縁どられた大きな黒瞳、艶やかで形のよい桃色の唇といい、自然体なのに繊細で可憐な美しさを誇っている。 

 容姿端麗で均等の取れた抜群のスタイル、お淑やかな雰囲気。


 クラスメイトの姫宮ひめみや 有栖ありすさんだ。


 我ら『美ヵ月学園高等学校』が誇る、学園三大美少女の一人である。

 

 成績も優秀で新体操部のエース。

 まさに才色兼備とは彼女のためにあると思う。


 それに姫宮さんは見た目だけでなく、心も優しい。

 こんな陰キャぼっちの僕に「おはよう」から「さよなら」まで必ず声を掛けてくれるんだ。


 隣の席で本当に良かった。

 たとえ別の席だとしても、遠くで彼女を眺めているだけでも学校へ来る甲斐があるってもんだ。


「お、おはよう、姫宮さん……」


 緊張のあまり、か細い声で挨拶をしてしまう。

 唯一の交流タイムだってのに……。


 中学の頃、初めて会った時から、ずっと密かに姫宮さんに憧れていた。

 僕にとっては高嶺の花。


 そんな姫宮さんに近づく男子生徒がいる。


「有栖。今日、生徒会で遅くなるから部活終わったら先に帰ってくれ」


「わかったよ、ジュンくん」


 この男は、笠間かざま 潤輝じゅんき

 一年から付き合っている姫宮さんの彼氏だ。


 同じクラスで学年カーストの上位、いや間違いなく一番だと思う。


 如何にも爽やか風のイケメン、バスケ部のエースなだけあり身長も高い。

 成績も常に上位に入っており、部活と兼務する生徒会では書記を任されている。

 おまけに父親は医師で総合病院を経営する理事長であり裕福な家庭だとか。

 

 まさに神に愛された『究極のリア充』だ。


 そんな男と姫宮さんのカップルは学園内でも『ベストカップル』と言われ、周囲からもてはやされ注目を浴びている。


 うん。

 お似合いだと思うよ、傍から見てもね。


 でも僕は笠間が好きじゃない。


 別に何かされたことは一度もない。

 つーか歯牙にすらかけられたこともない。


 僕が嫌う理由はもう一つあるんだ。



 不意に、ガラッと教室の扉が開けられる。


「失礼」


 三年生の女子が入って来た。


 真っすぐで凛とした清潔感の溢れる雰囲気を持つ、綺麗系の美少女。

 眼鏡の奥に力強い切れ長の双眸に細く筋の通った高めの鼻梁、薄く形のよい唇。

 長い前髪をタイトに六四分け、結ばれたポニーテルは背中の方でさらさらと流れている。

 何より一際目立つのは、聳え立つような大きな二つの胸部だろう。


 彼女は、西園寺さいおんじ 唯織いおり


 才女と呼ばれ、この学園の生徒会長であり、姫宮さんと並ぶ学園三大美少女の一人だ。

 ちなみに家は相当な金持ちであり財閥令嬢だとか。


 いつも両腕を組むのが癖のようで他者を寄せ付けない威厳オーラを放ちつつ、その発育のよい巨乳ぶりを強調させている。

 当然、本人にはそんなことは言えない。


 西園寺先輩が歩く度、クラスメイトの連中はその威圧感に退き道を開けている。

 まるで女王様みたいな生徒会長だ。


 彼女はこちらへと近づいてくるも目的は当然ながら僕じゃない。


 案の定、この男に用があるみたいだ。


「――ジュン。放課後、生徒会室で資料作りがある。部活が終わったら来てほしい」


「わかったよ、イオネエ」


 笠間がニコやかに言うと、西園寺先輩は表情を崩さず「うむ、失礼した」を言って教室から出て行った。

 二人は幼馴染みらしく、この学園で唯一彼女を親しげに『イオネエ』と呼べる間柄らしい。

 これがもう一つの理由でもある。 


 それから笠間はしれっと自分の席で屯している他のリア充グループの輪に入り談笑している。

 きっと奴にとって、僕のような存在は虫やゴミ程度にしか思ってないんだろう。


 いや笠間だけじゃない。

 きっとクラスの連中誰もがそう思っている。


 ただ姫宮さんだけはそうでないと信じたい……けど、ろくに話もできないんじゃ無理か。


「笠間くん、超カッコイイよね~!」


「あの近寄りがたい生徒会長とも仲良く話せるんだから凄いよね……王子と呼ばれるだけあるよぉ」


「ほんと勉強も運動もトップだし、あの爽やかなイケメン。将来性も抜群だし、姫宮さんが羨ましいな~」


 後ろの女子どもがキャキャ騒いでいる。


 うっせぇよ、たく……。



 ようやく、担任の手櫛てぐし 柚馬ゆうまが教室に入って来た。

 30歳の英語教師、一見して細面で紳士そうな容姿である。

 その見た目から生徒(特に女子生徒)から人気が高いらしい。


 普通の生徒に対しては穏やかな人格者っぽいが……。


「皆さん、おはよう。今日、欠席者はいませんね」


「先生! 夜崎くんが居ませーん!」


「バカ、啓吾! 夜崎そこにいるっつーの!」


 男子生徒がツッコミを入れるとドッと笑いが起こる。


 先に言い出したのはリア充グループの取り巻きこと、平塚ひらつか 啓吾けいご


 そしてツッコミを入れたのは、渡辺わたなべ 悠斗はるとだ。


 特に渡辺は笠間の親友ポジであり、短い茶髪で精悍な顔立ちをしたイケメン。

少しワルっぽいが勉強や運動ができる。

 だが笠間よりは見劣りし、二番ポジは否めない。


 僕はリア充グループの中で笠間よりも、この渡辺 悠斗が一番大っ嫌いだ。

 きっと、こいつが取り巻きの平塚に僕を出汁にボケるよう言わせたんだと思う。


 決して被害妄想じゃないぞ。


 渡辺には、僕を陥れたい理由・ ・があるんだ。



「こら。キミ達、静かにしなさい。それじゃ出席と取ります――」


 おい、手櫛先生。

 あんたも「冗談でも言っていいことと悪い事があるぞ」って注意くらいしろよ!

 何、スルーしてんだよ!


 僕……地味にこの先生も嫌いなんだ。



 リア充どもめ、マジで死なねぇかな……。


 僕はひたすら呪詛を唱えていた。






 放課後。


「それじゃ夜崎くん、また明日ね」


 姫宮さんはにっこりと微笑み、女子友達と教室を出た。


 やっぱり彼女は優しくていい子だと思う。

 糞面倒だった学校も彼女のおかげで気分よく帰れそうだ。


 そう思いながら外靴に履き替え、校門を出た途端。



「あっ……弥之」


 隣のクラス、木嶋きじま凛々子りりこに会ってしまった。

 

 茶髪の毛先がカールを巻き、華奢な小顔で可愛らしい感じ。

 校則違反ぎりぎりのメイクにラフな形で制服を着こなす、俗に言うJKギャル。


 こう見ても、僕の幼馴染みである。


 いや、だったと言うべきか。


 幼稚園から一緒で仲が良かった。

 特に凛々子は僕に依存的で「将来はお嫁さんになる」とまで言ってくれていたんだ。


 それが高校に入った頃から疎遠になり今に至っている。


 きっと華やかなリア充の彼女にとって、だだの陰キャぼっちの僕が疎ましくなったのだろう。


 それと――


「おお、凛々子。待たせたな~」


 渡辺がやってくる。

 こいつは凛々子の彼氏なんだ。


 そうだ。


 渡辺が一方的に僕を嫌う理由が、ここにあると思っている。







──────────────────

次第に主人公の取り巻く日常が壊れていきます。



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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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