過去編:『《裁君》ジャッジメント』なる者
ジャッジメントは常々、思っていた。この都市は騒乱が多すぎると。
この機人の性質からすれば、多数の層から成るこの都市は騒がしく、無遠慮で、無意味な乱痴気と混沌に満ちていた。ではどうすればいいのか。――自分がその混沌をすべて潰してしまえばいいのだ、とジャッジメントは結論付けた。
我慢ならなかった、とは少し違う。しようと思えば混沌から目を逸らすことも、もしくは常人の手の届く範囲内でささやかな平和を築くことも出来ただろう。だがジャッジメントは知っていた。自らの砲がどこまでも届くことを。故に、まず地位と権力を手に入れることにした。意思を共にする機人一人を連れ、二人で前第六層主の拠点へと乗り込んだのだ。警備兵たちをなぎ倒し、ジャッジメントたちは前層主のいる謁見広間に踏み入った。
ブラックヴェイルは生来、混沌を好むたちである。怒号も悲鳴も等しく心地よく、破壊の音はそれより尚、胸を打つ。喧嘩は売る相手は喧嘩早い五層の住民のみならず、他層にまで出向いて好き放題に街を荒らし、満足しては五層に帰る。最近の気に入りは六層で、今日も侵入と破壊に気付いてやってきた警備兵たちを機嫌よく屠っていた。だが警備兵たちの様子がいつもと違うように思えた。動きが悪い。練度が低い。妙なことだ。さては指揮官が留守か。そう思いつつも悲鳴は等しく悲鳴、結局は機嫌よく六層の拠点に乗り込んだ。
やがて燃料と金属片が飛び散った廊下を過ぎて、ブラックヴェイルが大広間の扉を蹴り破った時に見たものは、今まで仕掛けた際、何度か目にした第六層主の姿ではなかった。
目に入ったのは見慣れぬ白い機人。撃ちぬかれて倒れているのは《元》第六層主だった。成程、戦でもなく決闘でもなく、立ち上がることも許されぬままに撃ちぬかれたらしかった。尊厳を与えられなかった惨めな死体を足元に、従と控える機人を一人侍らせ、怯える六層の兵たちの視線を浴びながら、白い機人――ジャッジメントは黒い侵入者を見て、言った。
「これより、私が第六層主だ。用を聞こう」
目当ての相手を先んじて打ち取られ、しかしてブラックヴェイルは笑った。
――なんだ、面白い奴が出て来たぞ、と。
(おわり)
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