第15話 交わる力

『フォノン・メーザー‼』



 海中ではなおもフラッド各機が超大型個体バハムートへとビームを放っていた。バハムート以外のネフィリムたちは大半が盾となってその攻撃を防ぎ、残りの個体はフラッドを襲う。


 攻撃の手を緩められず回避や防御が疎かになったフラッドたちは次々とやられ、100機いた数を半減させていた。そして今また1機へと大型種1匹が迫る──



 ギャリィッ‼



 フラッドの頭部に喰いつこうとした口吻が、その寸前に上から差しこまれたチェンソードの回転刃に阻まれた。


 刃はそのまま大型種の頭部を斬りさき……脳に達し、その命を絶った。そのチェンソードを振るったフラッドは、ユウト機。



「無事か!」


『お陰で!』



 合流したユウト機、エイト機、他3機のノアザーク所属のフラッドが護衛につくことで、バハムートを攻撃する各機の損害は減った。だが、たった5機では焼け石に水。







 海中の味方がジリ貧でも、海上にいる艦にできることはない。ノアザーク艦長クサナギ大佐は別に発生した問題に対処した。


 オオツキ・ミコトが行方不明──


 副長に艦内放送するよう命令する。



「メイミさんを探しだし、飛行機に乗せたら発進──」


「その必要はありません。今すぐ発進させてください」



 それは副長の声ではなかった。


 艦橋の入口を振りむくと──



「軍医長」



 医療区画にいるべきコグレ少佐がいた。しかも傍にはミョウガ憲兵長と、彼女が護衛するオオツキ・ミコト──メイミが。


 彼女も他の被救助者レスキュイーと一緒に飛行機に乗せるよう憲兵長に命じたはずが格納庫に現れなかったのは、軍医長がこちらへ連れてきているからだったのか。



「どういうことだ」


「メイミさんはネフィリムの言葉が分かります。その力で戦いに協力するよう、わたしが頼み、承諾を得ました」


「気でもふれたでありますか!」


「分かるワケねーだろ!」


「マモルなにしてんの⁉」


「静まれ」


「「「っ」」」



 副長、砲雷長、航海長の3人を黙らせ、艦長はメイミを見た。メイミは緊張した様子ながらも、強い光を宿した瞳で真っすぐに見返してきた。



「やらせてください」


「……分かりました」


「ありがとうございます!」


「「「艦長⁉」」」


「副長、飛行機を発進させろ。それとソナーからネフィリムの声の周波数だけ拾って、メイミさんに聞かせて差しあげろ」


「りょ、了解!」



 副長が言われた仕事を始める一方、納得いかない顔で見てくる砲雷長と航海長を安心させるよう、艦長は不敵に笑ってみせた。



「信じられないか?」


「「はい……」」


「ネフィリム研究の第一人者であるコグレ博士の言だ。いい加減なことではあるまい。責任は、わたしが取る」


「「……ハッ‼」」



 顔から迷いの消えた2人からメイミに視線を戻すと、ヘッドフォンをかぶり耳をすませていた。すると、自信なさげな声で訊ねてくる。



「群れが、凄く大きいのを、かばってます?」



 彼女には海中の状況をなにも伝えていない。なのにネフィリムの声だけで、それを把握した。半信半疑だったが、本当に言葉が分かるのか。艦長は頷いた。



「そのとおりです」


「やっぱり。かばってる子たち『母様が死んだら自分も死んじゃうから守るしかない』って」


「なんですと……?」







 海中のフラッド各機に作戦が通達された。とにかくバハムートを斃せと。これまでもバハムートを最優先にしてはいたが、そうすれば他の個体も全て死ぬとの情報があるとないとでは大違い。



『行くぞ‼』


「『『『『了解‼』』』」



 ノアザーク所属のフラッド5機の編隊が、海底のバハムートに向かって潜っていく。他の機体の護衛を放棄したのでまた犠牲が出るだろうが、それを承知で。



『頼んだぞ、エイト・オオゾラ!』


『我らには無理だが、貴官なら!』



 他の各機はフォノン・メーザー砲を継続してバハムートに放ち、群れが母親をかばうように誘導した。


 それらが全滅したらバハムートの超フォノン・メーザー砲が再開されるので、やりすぎないよう勢いを絞りながら。


 エイトとユウトたち5機は盾となっている群れへと突入した。そして寄ってくる個体は斬りふせながらも、なるべく構わず、あいだをすり抜け──突破!



(こいつがバハムート‼)



 ユウトは眼前に迫った巨体に震えが走った。形は他の海棲種と変わらないが、大きすぎて距離感が狂う。


 全長300m、これでは刀剣は通じない。首を断つのも脳に届かせるのも不可能。可能性があるのは零距離からのメーザー攻撃のみ。そのために、あと少し接近せねば!



『エイト! ユウト! 左右に散れ‼』


『ここはウチらに任しとき!』


『お前らばっか目立たせねぇぜ!』


「『⁉ ──了解‼』」



 逡巡している暇はなかった。ユウト機とエイト機が他3機から離れて左右に分かれ、迂回コースを取る。3機はバハムートへ直行しながら両手を突きだした。



『『『フォノン・メーザー‼』』』



 6条のビームがバハムートの顔面に突き刺さる。効いた様子はないが気は引いた。怒りの波動が海中を伝播してくるようだ。



「バハムートが撃ってくるぞ‼」



 ユウトがそう気づいたのは3機の後方の盾役のネフィリムたちが散開したからだった。しかし警告も虚しく、子を巻きこむ心配のなくなったバハムートが超フォノン・メーザー砲を発射した。



 轟‼



 特大の音波砲は3機を、さらに射線上にいた他のフラッド数十機をも呑みこみ粉々にした。その隙に接近したユウト機とエイト機が、バハムートの左右の側頭部に両手をつく!


 3人は初めから囮になる気だった。


 その犠牲を決して無駄にはしない。



「『フォノン! フォトン! メーザーッ‼』」



 両機の両手の掌底から、フォノンとフォトン両方のメーザー砲が放たれる。それは一発で砲身を過熱させ駄目にする奥の手。


 通常は水中で使えないフォトン・メーザーも、零距離なら。海水を挟まず直接に叩きこまれたマイクロ波が、音子ビームと共にバハムートの頭の中を突きすすむ。


 それでも、その力はバハムートの強靭な細胞にとっては痛痒にならぬほど微弱だった。これでは脳細胞を破壊できない──



 ビクン‼



 バハムートが痙攣した。2方向から放たれたビームはその交点で破壊力を増し、そこの脳細胞を爆発させ、周囲もろともズタズタにしたのだ。


 戦場の全てのネフィリム海棲種が、活動を停止した。

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