第8話 艦内を案内

 デート内容は艦内の見学。


 これはノアザーク全乗組員の協力によって実現した。スケジュールは各部署の話しあいで細かく決められ、全艦に通達された。急な来訪は仕事の邪魔になるので。


 ユウトが誘ったデートなのに彼自身が決めたことはない。



「格好悪いよな」


「作戦行動中の軍艦ですもん。仕方ないですよ」


「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ」



 記憶のない今のミコト──メイミはユウトにエスコートされ、船楼の屋上から中に戻り、まず最上階の艦橋ブリッジに案内された。


 周囲がガラス張りで見晴らしの良い、艦長が指揮を執る場所。男性2名と女性2名が出迎えてくれた。誰もが青い軍服を着た、20~30代ほどの若者。


 ユウトが敬礼する。



「オオツキ・ミコトさんをお連れしました」


「ご苦労、ダイチ大尉──改めまして、オオツキ・ミコトさん。艦長のクサナギ ツルギ 大佐です。ようこそ艦橋ブリッジへ」


「は、はい!」



 この男性のことは見たことがあった。自分たち被救助者レスキュイーが乗艦した初日に一同へ挨拶してくれた。個人で話すのは初めてだが。


 メイミは頭を下げた。



「お世話になっています、艦長さんっ! オオツキ・ミコトです。さっきユウトさんに【メイミ】って、今のワタシの渾名をつけてもらいましたので、そう呼んでいただけると嬉しいです」


「了解しました。みなにもそう伝えましょう」


「ありがとうございますっ!」



 続いて、陽気な声音の美女が進みでた。



アマオウ カナデ 中佐であります♪ 副長として艦長の補佐をしつつ、通信や管制などを行う船務長も兼任しているであります!」



 次に、野性的な男性が。



「砲雷長のヒノミヤ アズマ 少佐だ! レーザー砲やミサイルや魚雷をブッぱなすのが仕事さ! 艦に近づくネフィリムどもはみんな俺っちがフッ飛ばしてやっから安心しな‼」



 最後に、操舵輪の傍にいる女性が気さくに。



「航海長のミナ ワタル 少佐で~す。航海計画を立て、操艦もします。今は操舵輪から手を離してますが、AI任せの自動航行中なのでダイジョーブです!」



 メイミは1人1人に頭を下げた。


 最後4人に改めて感謝を述べる。



「皆さん、危険を冒してワタシたちを助けてくれて、今もこうして守ってくださって、本当にありがとうございます。これからもどうぞ、よろしくお願いしますっ!」







 艦橋をあとにした2人はエレベーターに乗った。ドアが開くと天井の高い広々とした空間に、メイミにはなんだか分からない巨大な機械が並んでいた。工場のようだ。


 そこは船楼の真下にある機関室。


 縮れ毛の男性が出迎えてくれた。



「ようこそ、メイミさん。機関長のウナバラ トオル 中佐です」


「メイミです! よろしくお願いします、ウナバラ中佐!」


「ここは色々やってまして。まず船底の吸水口から海水を汲んで、電気分解して真水を作っています。普通は節水すべき船内でいくらでも水を使えるのはこのためです」


「そうだったんですか……!」


「また、その水の一部をさらに電気分解して、わずかに含まれる特殊な水〖重水〗を取りだし、そこからさらに〖重水素〗という物質を取りだします」


「えと、普通の水素は原子核が陽子1つなところ、それに中性子1つも加わった二重水素のことですよね!」


「はい、そのとおり」



 エピソード記憶はなくても2年前に高校3年生だった頃までの知識は残っている。記憶を失う前の自分がちゃんと勉強していたようでメイミはほっとした。



「その重水素を核融合させ」


「核融合⁉」


「はい。核融合発電で艦内の全電力を賄っています。そういうわけで、この船は海上にいる限り無尽蔵の電力を得られるのです」


「すごっ、えっ? 核融合炉って、実用化してましたっけ?」


「ああ、いえ。ネフィリムが出現したあとに」


「あっ……そうだったんですね」



 この2年で人類はネフィリムに抗うため一部の技術を飛躍的に向上させたと憲兵長シノブちゃんも言っていたが、これもそうか。メイミは浦島気分になった。







 次の見学先を目指して廊下を艦首方向へと歩いている時、メイミは気になっていたことをユウトに訊ねることにした。



「あの、ユウトさん」


「うん、なんだい?」


「この船の軍人さんて、みんな刀剣を差してますよね。ワタシの感覚だとそれって、その、前時代的なんですけど。これも、この2年で変わったことなんでしょうか」



 今もユウトは刀を腰に差している。


 これまで会った他の軍人も、軍医など戦闘が専門でない人も含めて全員が刀を帯びていた。クサナギ艦長だけは片刃の〖刀〗ではなく両刃の〖剣〗を、だったが。


 ユウトは自分の刀の鞘を握った。


 どことなく、表情が暗いような。



「そのとおり。この船ってか人類統合軍の兵士は全員、常に刀剣を携帯するよう義務づけられている。ネフィリムには銃砲より刀剣が有効だって分かってから、そうなったんだ」


「えっ。じゃあみんな、刀でズバーッ! てネフィリムのこと斬れるんですか⁉」


「斬れないよ」


「あれえっ⁉」


「大半は、ね。チェンソードが──」


「チェンソードって、ワタシたちを培養槽から出してくれた時にユウトさんたちが背負ってた、剣っぽいチェンソー?」


「そう。あれが開発される前はみんな普通の刀剣でネフィリムに斬りかかって、でも斬れなくて、大勢やられた。オレも何度か死にかけたよ」


「~~っ!」


「ネフィリムの死体での試し斬りでは斬れても、動く敵に当ててとなると難易度が別次元で。ただでさえ硬くて斬りづらいのに」


「じゃあ、なんで使えない刀を常備なんて」


「最期の備えに。それで戦うことになったら死ぬのは確定だけど、せめて1匹でも道連れにしろってこと」


「……」



 人類統合軍の敢闘精神を感じた。


 平然と言っているのがまた怖い。



「中にはチェンソードを使わず、ただの刀剣でネフィリムを斬れる猛者もいるけどね。この船ではクサナギ艦長と、ミョウガ憲兵長と、オオゾラ歩兵長だけさ」


「シノブちゃん強い……! オオゾラって人とは、ワタシはまだお会いしてませんよね」


「いや、会ってるよ。ほら、地下街でオレを突きとばして君を安心させた兵士」


「あのイケメン! ……すみません」


「ははは……いいって、事実だしね」



 自分の経歴を知らされた時、ユウトが夫だと分かって『あのイケメンのほうなら良かったのに』と思ったことは黙っていよう。メイミは固く誓った。

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