第10話 愛ゆえに
「ちなみになんですけど、正式なお付き合い――結婚を前提としたお付き合いをご希望ということでしょうか?」
「もちろんだ。父上と母上には夕食会の後にそれとなく伝えておいた。感触は悪くなかった――というかむしろ背中を押されたように思う」
「あはは……、食事会の時もお二人はそのような感じでしたものね。ですがフライブルク王国を国外追放された私と交際だなんて、問題になりはしませんか?」
「今のメルビルはシェアステラ王国の貴族の一員だろ? 何の問題もないよ」
「確かにそうですね」
「じゃあ――」
「ですが少しだけ猶予を頂けないでしょうか。ウィリアム王子の人となりをもっと知りたいのです」
「分かった。それは必要なステップだよな。そういうことなら交際を前提で、まずは俺のことをよく知ってもらうとするよ」
「ではそういうことで――あっ!?」
そこまで言いかけてメルビルがふらりとバランスを崩した。
夕食会の時に話が弾んだこともあって、メルビルはついついお酒を飲み過ぎてしまったのだが、今になって酔いが強く回ってきてしまったのだ。
完全に足がもつれたメルビルの身体が、その意に反してどんどんと倒れていく。
「メルビルっ!」
ウィリアム王子がとっさに手を差し伸べたものの、既にメルビルは完全にバランスを崩してしまっており。
2人はそのままもつれ合うようにして、側にあったベッドに倒れ込んでしまった。
不慮の事故によって抱き合うようにベッド横たわってしまったメルビルとウィリアム王子。
互いの息をはっきりと感じられる距離で身体が重なり合い、二人の心臓が激しく鼓動を伝え合う。
「ご、ごめん。そういうつもりじゃないんだ。すぐにどくから」
ウィリアム王子は誠実かつ清廉潔白なシェアステラ王族の一員として、紳士然としてすぐに離れようとしたんだけれど、
「――」
そこでそっとメルビルが目を閉じた。
その意図するところを悟ったウィリアム王子が、一瞬ビクッと身体をこわばらせる。
ウィリアム王子はまだ女というものを知らぬ未熟なチェリーボーイだったから、それもまた無理のないことだった。
初めては心から愛せる女性とするのだと、ウィリアム王子はそのピュアな心に決めていたからだ。
ちなみにメルビルの方も男性経験はない。
一国の王太子と婚約ともなれば、その子供は未来の王となる。
であれば、生まれてくる子供が他の男の子種ではないと確実に証明するためにも、結婚して王宮で日々を過ごすようになるまでは、絶対的に清らかな身体でいることが求められていたからだ。
それはさておき。
メルビルは酔った勢い半分、成り行き半分。
もちろん好意があるのは大前提として、さっきはもっと知ってからと言ったものの、この噂通りの正直者の王子なら、まぁそういうこともいいのかなと思ってしまったのだった。
ウィリアム王子は身体をしばらく身体を硬直させた後、意を決したようにそっとその唇にキスをして――。
その夜、2人は愛の女神の名のもとにめでたく結ばれたのだった。
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