第11話 改良コンニャクに捧げる激動の半年

 数日後、用地候補の第一次選定を終えたとの報告を受けたメルビルとウィリアム王子は、それから毎日精力的に各地の栽培候補地を見て回った。


 20人近い農業技官も同行していて、メルビルは視察の傍ら、彼らに改良コンニャクに関する知識を伝え、質問に答え、実地での技術指導を行っていく。


 時おり休憩中に2人で散策をしたり、就寝前に愛をささやき合ったりすることはあったものの、


「この調査の費用も元は国民が納めてくれた血税だからな。色恋にうつつは抜かしていられないさ」


 王族としてまこと正しく育てられたウィリアム王子はいつもこの調子であり、またメルビルはメルビルで、


「私の持てる改良コンニャクの知識の全てを、あますところなく伝えるないと。それが国外追放された私を拾ってくれたこの国のためにできる、一番の恩返しだから」


 改良コンニャクの栽培をシェアステラ王国に根付かせるために、細部に渡るまで丁寧な技術指導を行い続けたのだった。


 互いに互いを深く思い合いながらも、仕事中に色ボケすることは間違ってもないメルビルとウィリアム王子。


 ノブレス・オブリージュ。

 王族と貴族、ともに高貴なる身分に生まれた者として、全力かつ誠実に己の立場に向き合う2人なのだった。


 そんなこんなで。

 最終的に3カ月かかって最終候補地を選定して、改善可能な場所と問題点を徹底的に洗い出し。

 さらにそこから2か月かけて翌年以降の改良コンニャク栽培計画を立案し。


 さらには圧倒的に数が足りない改良コンニャクの種芋を、四方八方に手を尽くしてなんとかかき集めて確保して。


 (最後はフライブルク王国にいるメルビルの両親=オーバーハウゼン侯爵夫妻が、まだ廃棄されていなかったフライブルク王国内の改良コンニャク芋を、秘密裏に集めて提供してくれた)


 最後に翌年の予算配分と人員確保の確約を取り付けて、ようやく2人に平穏な時間が訪れたのだった。


 こうして今、半年近くに渡って働きづめだった2人には3週間の長期休暇が与えられていた。


 王宮のウィリアム王子の部屋で、ベッドに腰かけながら身体傾けたメルビルが、甘えるようにそっと体重を預ける。


 久しぶりに次の日のことを考えなくてもいいゆったりとした時間を得て、他愛ない会話を楽しく続ける中。


「そもそもどうしてメルビルはコンニャクを改良しようと思ったんだ? いくら商売上手で国を富ませてきたオーバーハウゼン侯爵家とはいえ、その長女が率先して行うようなことでもないよな?」


 ウィリアム王子がふと思いついたようにメルビルに尋ねた。


 ウィリアム王子としては本当に何気ない雑談の延長の質問のつもりだったのだが、


「えっ!? こ、こほん、それはまぁ、その、えっと、色々ありましてですね?」


 しかしメルビルはわざとらしい咳払いをするなど、普段の冷静な淑女の姿からは想像もできない、露骨に焦ったような様子を見せたのだ。

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