第8話 歓迎食事会

 第一回目の視察を終えた数日後、メルビルのためにささやかな歓迎会が催された。


 歓迎会というよりかは、ウィリアム王子とシェアステラ国王夫妻の3人、それとメルビルという少数メンバーによる夕食会である。


 つまり規模こそささやかだったものの、メンバーはささやかどころか超豪華だったので、メルビルは入念にメイクをし、後れ毛一本まで見落とすことなく髪をセットし、わずかの失礼もないようにとギリギリまでドレスにしわがないかを確認してから、歓迎会に臨んだ。


 ちなみにウィリアム王子の兄である第一王子は不在だった。

 兄弟が不仲というわけではない。


「兄さんは今、将来の即位を見据えて周辺諸国を歴訪中でね。せっかくの機会なのに、会わせられなくて申し訳ない」


「お心遣いありがとうございます。ですがこのような夕食会を私のために開いていただいただけで、むしろ光栄の極みに存じますわ」


「ほほぅ、メルビル殿はとても礼儀正しくて気立てが良い女性じゃのぅ」

「農業改革とウィリアムのことをよろしく頼むわね、メルビルさん。基本的に悪い子じゃないから」


「は、母上!? 急になにを言っておられるのです!」


「なにあなた、こんな素敵なメルビルさんに不満でもあるって言うの? もしそうなら、ちょっとそこに正座しなさい。お説教してあげるから」


「いえ、全然ちっともそういうわけじゃないんだが……」


「そうだぞウィリアム、母さんの言うとおりだ。お前はワシに似てところどころ抜けておるから、妻をめとるならメルビルさんのような聡明な女性にするといい」


「父さんまで何を言ってるんだよ、もう酔ってるのか? ええっと、ごめんなメルビル。なんか変な話になっちゃって」


「ふふっ、仲が良さそうでいいじゃないですか。私も話しやすくて楽しいですわ」


「そ、そうか? そう思ってくれるならいいんだけど」


 国王夫妻との夕食会ということで、食事の前までは緊張を隠せなかったメルビルだったが、しかし国王夫妻がウィリアム王子に似て朗らかな良い人たちだとわかってからは、緊張感もほぐれて内心ほっこりしていた。


 その後お風呂に入ったメルビルは、宿泊のためにあてがわれていた貴賓室に戻ってきた。


 そこにウィリアム王子が尋ねてくる。


「明日からの予定を確認に来たんだが、しばらくは改良コンニャクの栽培候補地を回っていきたいと思う。どこが栽培に適しているか。適していないなら問題点はなにか。問題点を改善すれば栽培に適した農地になるのか。そういったことをその都度、評価をしていって欲しいんだ」


「委細承りましたわ」


 こうして明日以降の打ち合わせはつつがなく終了したのだが――、


「と、ところでメルビル」


「はい、なんでしょうか?」


 話はもう終わったというのに、ウィリアム王子がさらに話を続けようとしたことに、メルビルは何か伝え忘れでもあっただろうかと小さく首を傾げた。

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