第7話 視察

 それから10日後。

 メルビルはシェアステラ王国の王都にいた。


 王宮の一画にある貴賓室を、特別に長期滞在用の私室として用意してもらっている。

 全てはウィリアム王子の取り計らいだった。


 1泊して旅の疲れを癒したメルビルは、翌日からウィリアム王子と農業大臣、数名の農業技官に連れられて農地を見学した。


「今はこのあたりで大規模に改良コンニャクを栽培してるんだ。だがイマイチ大きくならなくてな。ダメになるのも多くて困っている」


 目の前には一面に広がるコンニャク畑。

 しかしメルビルは見た瞬間にいくつもの問題点に気が付いてしまった。


「すぐ近くに大きな川が流れていますね。そのせいで地面が過湿気味だと思います。もう少し乾燥した場所に農地を移しましょう」


「コンニャクは乾燥に弱いと聞いて、川に近い方が水やりに便利だと思ったんだが、地面に湿度がありすぎるのもいけなかったのか」


「改良コンニャクは生育条件が全て良好に整った時に初めて、高い生産性を発揮するんです。そのためには万難を排する必要があります。ここの地面はあまりに湿度が高すぎます。これだけで生産数、サイズともに4割は落ちているはずです」


「そういうことだったのか。農業大臣、今のメルビルの話を聞いていたな? 可及的速やかに新たな農業用地を選定し直すんだ」


「はっ、かしこまりました」


「お待ちくださいウィリアム王子。先ほども言いましたが湿度と同じくらい、コンニャクは乾燥にも弱いんです。とにもかくにもバランスが大事なのです」


「わかった、大事なのは水のバランスだな。他に気付いたことはあるか?」


「吹き抜ける風も気になりますね。改良コンニャクに限らずコンニャクは弱い作物なので、わずかに葉が傷ついただけで病気になって枯れてしまいます。なるべく風が弱い地域を選定してください」


「ふむ、さらに条件が増えたか……これはもう実地で見てもらった方が早そうだな。よし、ではいくつか候補地を用意させるから、実際にメルビルに見て決めてもらうとしよう。農業大臣、これまでのメルビルの意見を参考にして、改良コンニャク栽培に適した候補地を複数リストアップしてくれ」


「はっ、すぐに取り掛かります」


「他に何か気付いたことはないか?」


「2年目、3年目のコンニャクはもう少し角度をつけて、垂直ではなく45度くらいで植えたほうがいいですね。芋の頭頂部にくぼみがあって、そこに水がたまると腐ってダメになってしまうので」


「植え付ける角度が大事なのだな。了解した。他にはあるか?」


「ここからパッと見た感じでは、言えるのはこれくらいでしょうか。肥料の配合や投入するタイミングについても、できれば確認させていただきたいところですね。それと冬場の種芋の管理方法なども知りたいです」


「農業大臣、肥料や種芋の管理方法、およびその他もろもろを後で資料にまとめて提出してくれ。全てのデータだ」


「はっ、ただちに用意いたします」


「他にはないか? この際だから気付いたこと、気になったことは全部教えて欲しい」


 メルビルは改良コンニャクに関する細かいノウハウを、全て余すところなくウィリアム王子と農業大臣に伝えていった。


 そして最後にまとめるように伝えた。


「これは全ての工程において言えることなのですが、コンニャクはなにせ病気に弱い作物なのです。ですので何をするにも細心の注意を払っていただければと思います」


「今日の説明を聞いてよくよくわかったよ。種芋だけ手に入れてもちっとも生産力が上がらないわけだ。小麦を作るのとはわけが違う」


 ウィリアム王子が感心するように言って、今日の視察はお開きとなった。

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