第6話 農業顧問
「はい、当面はそうさせてもらおうと思っております」
「だったら話は早い。我がシェアステラ王国にメルビル、君を農業顧問として招聘したい」
「農業顧問、ですか?」
メルビルはウィリアム王子の意図がイマイチわからずに、小さく小首をかしげた。
「あー、俺はまどろっこしいのは苦手だから単刀直入に言うけどさ。メルビル、改良コンニャクをシェアステラ王国で栽培する気はないかな?」
「それって――」
突然の提案にメルビルは小さく息をのんだ。
「シェアステラ王国は君の作った改良コンニャクを高く評価している。この国がその権利を手放してくれるというのなら、正直渡りに船だ。ぜひ秘匿されている改良コンニャクを効率的に栽培するノウハウを、シェアステラ王国に教えて欲しい」
「……」
「もちろん相応の身分を用意しよう。子爵位くらいなら俺の権限でも与えられるから、シェアステラ王国にオーバーハウゼン子爵家を新しく創設しよう。もろもろかかる経費や手続きは全部こっちが持つ。君に負担はかけない」
「まさに特別待遇ですね。そんな勝手をしてよろしいのですか?」
爵位をくれる上に、面倒なことは全てやってくれるというあまりの大盤振る舞いに、メルビルが驚いたように尋ねた。
「改良コンニャクを国内で効率的に生産できるようになりすれば、すぐに元は取れるからな。別に大したことじゃないさ。それで、どうだ? 悪い話じゃないと思うんだが」
「そうですね……」
メルビルはしばし黙考した。
シェアステラ王国は広大な領土と、高い経済力を誇る地域大国だ。
周辺国家との仲も良好で、軍事的に大国にもかかわらず侵略の野心を見せたことは一度もなく、ウィリアム王子をはじめ王家の評判もすこぶるいい。
周囲の国々を引っ張る理想的なリーダー国家として、広く知られている。
そんなシェアステラ王国が、王子の権限で貴族の身分を与えてくれた上に、資金面で全面バックアップして改良コンニャクを栽培してくれるというのだから、メルビルとしては乗らない手はありはしなかった。
だから今考えていたのは、状況を改めて整理するという以外に意味はなかった。
「どうだろうか? 実を言うと、うちでも改良コンニャクの種芋を入手したんだが、イマイチ上手く生育しなくてな。開発したメルビルの力を是が非でも借りたいんだよ。ああもちろん、他に希望があれば考慮するぞ? なんでも遠慮なく言ってくれ」
だから再びのウィリアム王子の問いかけに、
「いいえウィリアム王子、要望などはわずかもございませんわ。この度は素晴らしい申し出をいただきありがとうとざいました。メルビル=オーバーハウゼン、ご提案を謹んでお受けしたします」
メルビルは満面の笑みとともに、美しいカーテシーで答えたのだった。
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