二戦目は東中、戸惑いの中で
第14話 責任
「シンジ、ちゃんと見張ってるでしょうね。」
「あー、ちゃんと居るよ。」
放課後、学校の廊下に響くアオイの大声に対し、ぶっきらぼうに返事をすると、教室のドアが勢いよく開いた。
「よろしい。っで、アンタは覗いてないでしょうね。」
「誰が覗くか!お前の裸なんか見たかねーよ。それより、なんで俺が廊下で着替えなくちゃいけないんだ。」
野球部の部室に女子更衣室なんてものはない。毎回、空き教室を見つけては、こうして自分は番犬の役目を果たしている。
「はいはい。誰もアンタの裸なんか見たかないから安心していいわよ。プフフッ、自惚れすぎね。」
「お姉ちゃん、シンジさんに失礼だよ。ありがとうございます。お待たせして、すいません。」
ユイナが深々と頭を下げると、「ふんっ」とアオイは鼻を鳴らし、何食わぬ顔で歩き出す。
「さぁ、来週には決勝戦よ。ほら、二人ともボサッとしてないで行くわよ。気合い入れなさい」
昇降口を飛び出し、体育館やプールを横目に駆け抜ける。カラカラに地面の乾いた校庭は、既に様々な部活が利用し、活気に満ち溢れていた。
二回戦は東中。あの強力なスラッガー達を抑え込むにはどうするべきか。決勝までのスタミナ。点を取るには……考える事は盛り沢山だ。勝つためにも、試合までの過ごし方。練習メニューは重要だ。
「守備練習だけか。打撃練習が足らな過ぎる」
「校庭は陸上部と共同なんだ。バカスカ打ちたかったら、バッティングセンターにでも行け!」
意気込みとは裏腹に出鼻を挫かれた。学校の規則とやらを出されたら、さすがに反論の余地はない。渋々、ポジションに着いた。
捕手は返球を受け取り、ノッカーに渡す。ノッカーのユウキはポジション別に器用に打ち分ける。ゴロやフライと打球を自在に操り、キラキラと輝く汗を流す。女受けもさぞ良さそうではあるが、なんせ口が悪い。
「タツヤ、何度も言ってるだろ。ボールの正面に入れ、だからイレギュラーに対応できないんだ。コウスケ、捕ってからが遅い。内野安打になるぞ。リョウタ、腰が高い!」
タツヤは逆シングル、自分から見て右方向の打球が苦手のようだ。
「タツヤ、もう一歩前に出て、ショートバウンドで捕ってみろ。そうだ、ナイスキャッチ」
「シンジは余計なことを言うな」
相変わらず、目の敵にされている様だ。ポジションがポジションだけに、どうしても、ノッカーから離れられない。
「もう勝手な事をするなよ」
「スクイズしたことか」
ノック中に小声で説教が始まった。打球を打つ少年は未だに根に持っているようだ。
「だったら、もっとケンゴを信頼したら、どうなんだ。監督代行だって、みんなで決めた事なんだろ。ユウキやヨシユキが指図してたら意味ないだろ」
「分かった口を聞くな。後輩に責任を押し付けるなんて、クズのやる事だ。わかったか、クズ!わかったら二度とするな」
さすがにムカついた。この前の一件は自分にも非がある。それは認める。でも今、コイツが言う責任だのってのは、自分がやりたいようにやるだげの口実に過ぎない。
「外野ノックを始める。バッテリーは別メニューだ。ほら、アオイが呼んでるぞ。アオイの駄犬が、尻尾でも振りに行け」
––クソったれ!
殴りかかっていた。たぶん、アオイが止めなければ……。宥めすかされ、今は事なきを得ている。掴みかかった胸ぐら、そっと拳の力を解いた。
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