第12話 重い思い
初夏のキョクトウベリースタジアム。傾いた日光が石造りの本球場に降り注ぐ。
負けた南押原の選手が、グランド整備を行っていた。帰り支度を急ぐ保護者。試合後の落ち着いた観戦席。
主将コウスケの発言に、静寂を破って声をかけたのはキョウコ先生だった。
「そんな険しい顔して、どうしたの?」
筋骨隆々の少年はグッと歯を食いしばる。
「シンジ。頼む。主将を変わってくれ」
衝撃の一言に、一同がキャプテンを凝視した。深々と頭を下げるキャプテンに誰も言葉が見つからない。
「……打てないからですか」
口を開いたのは陰気な少年だった。
「それもある」
「どういう事だ……ケンゴ」
自分の問いかけに気不味そうに言葉を探す。ケンゴは、話し出すまでに少し時間を要した。
「コウスケ先輩は春からスランプなんです。去年は先輩に混じって上位打線を引っ張っていただけに……」
「それと、キャプテンが変わるのは関係ないだろ」
伏し目がちなコウスケの表情を見るに、ケンゴの推察は当たってはいるのだろう。
「打てない事もある。それに、俺はイップスなんだ」
「アンタも、やっぱりね」
どうやら、知りえなかったのは自分と、先ほどから首をかしげているキョウコ先生だけのようだった。
「いっぷす?アオイちゃん、どうゆう事」
「精神的な理由で悪球を投げてしまう。いわば心の病のような……」
「このチームは勝てるチームだ。県大会に行ける実力がある。でも、俺じゃ潰しちまう。ここぞって時にフライ上げて、暴投してピンチを招いて……。さっきの試合を見たろ、主将ってのはチームを引っ張るものなんだ。自分が足を引っ張って負けるのは、もう嫌だ」
この時ばかりはアオイも何か発しようとはせず、偉丈夫の見つめる先、俺の次の一言を待っているようだ。
「チームと足、引っ張る。ハハッ……笑えない、よな」
乾いた笑い声を漏らすだけで、どう声をかけたら良いのか分からない。
「……もう、俺のせいで負けるは、ウンザリなんだ」
「じゃあ、なんでシンジなのよ。ユウキもいるでしょ。他にも、ヨシユキだったら、アイツなら喜んでやりそうなもんよ」
「それは……」
屈強な男もアオイに睨まれたらカエルのようになる。その澄んだ漆黒の目の蛇には、取り調べの刑事のような威圧感があり、清廉潔白を示さなければいけないような気持ちまでさせられる。
「二人には断られたのか……」
「無理を言ってるのは分かってる。雑務や面倒事なら、すべて俺がやる。シンジは今日のように思ったことを全て吐き出してくれさえすればいい。だから頼む。おまえなら」
「ダメー!」
突如、甲高い声が石造りの本球場に響いた。
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