第11話 キャプテン

 試合序盤は両校一点ずつ。同点のまま。守る南押原中、主将でエースの稲垣が、シード校の東中のスラッガーを相手に、気迫のピッチングで押さえ込んでいた。


 それでも、中盤に差し掛かると徐々に東中打線に掴まり始める。クリーンナップは体格も良くバッティングセンスもある。


 層の厚いスラッガーを相手に、不屈のエースにも疲労は見えてくる。スタミナも実力の内と言い切ってしまえば、それまでだが……夏の連投は苦しい。うちの野球部にも、この問題はついて回るだけに他人事とは言い難い。


 考え深に隣に座る。我が校の命運を担うエースピッチャーに目を向けた。訝しげな顔で睨み返される。


「アンタ、そんな顔して食べたら、ご飯が不味くなるわよ。」


 そう言ってアオイはセッセと弁当のピーマンを器用に省き、俺の弁当箱に移していた。


「観察。これも捕手としての立派な仕事なの。働き者の相方に、よくそんな事が言えたもんだ」

 謹んでピーマンを返上する。


「そう言うのはね。ケンゴに任せとけば良いのよ」

 そう言って、アオイは顎を突き出すようにして、視線を陰気な少年に向ける。


 南摩中の自称ブレインは、弁当を膝の上に置き、使い古したスコアブック片手に、瞬きすら忘れ熱中している。たまに、集中し過ぎて、鉛筆で白米をほじくり、焦って箸に持ち替える始末だ。


「アイツこそ、ちゃんと食わした方がいいんじゃないのか?」


 そう言って、いつの間にか置かれたピーマンを返そうとすると、アオイは食べ終えた弁当の蓋を閉めた。


「あの子はいいのよ。楽しんでるんだから。アンタも少しは野球を楽しんでみたら。」

「楽しむ……ね」

 

 試合は順当に東中が勝ち上がった。終盤、東中、主将の一発で打線に火が付き、怒涛の勢いで南押原に連打を浴びせ、終わってみれば六対一と圧勝。来週は強敵との二連戦になりそうだ。噛み砕いたピーマンが苦い。



「キャプテン」



 リョウタの声に皆が振り向く。私服姿の偉丈夫。タンクトップに短パン。剥き出した筋肉が夏の日差しを浴び、テラテラと輝いている。集中的な視線を浴びて、コウスケが口を開いた。


「シンジ、オマエに言いたいことがある」


 目の前に立つ、同級生は眉を吊り上げ拳を握る。強く、強く握りしめ、肩を震わす。鼻息の荒さが場を緊張へと誘い。俺はゴクリて唾を飲んだ。

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