エピローグ

 それから、私とリベラート様は私の屋敷で夜会に行く準備をしていた。

 実は、急遽夜会が開催されると今朝王宮から連絡があったのだ。

 どうして突然夜会をするのか私は知っている。今日の夜会は、姉とセオドア様の婚約発表のために開催されるからだ。……私も今朝お姉様に聞いて、驚いてベッドから落ちたのよね。


 夜会にはルーナと、カイル隊長も顔を出すと聞いた。

 事情を知らないカイル隊長はともかく、ルーナにはまた〝どういうことか説明しなさい!〟って迫られるのが目に見えている。だけどふたりとも、私とリベラート様が一緒にいることを喜んでくれるだろう。

 


 姉と両親は朝早くから王宮へ向かったので、今は夜会に向けてドレスアップしている頃だろう。

 私もメイドにドレスを着せてもらい、ヘアやメイクを整えてもらった。リベラートも別室で同じように、執事に着替えの手伝いをしてもらっている。


「フランカ、入ってもいいか?」


 コンコン、とドアがノックされ、リベラート様の声が聞こえた。


「どうぞー」


 返事をすると、すっかり準備を終えた正装姿のリベラート様がひょっこりと姿を現した。

 いつも下りている前髪がセットによって上げられており、色気と男らしさが増している。……こんな素敵な人の隣を歩くのかと思うと、なんだか緊張するな。


「お嬢様も準備が終わりましたので、なにか気になるところがありましたらお呼びください。私は一度失礼いたします」


 そう言って、メイドは足早に部屋を出て行った。私とリベラート様をふたりきりにしようと、気を遣ってくれたのだろう。


「フランカ……すっごく綺麗だ! こんなお姫様をエスコートできるなんて鼻が高いよ」

「それはこちらのセリフです。……かっこよすぎてずるいです。ほかの令嬢に言い寄られたらどうするんですか」


 まだ言い寄られてもいないのに、嫉妬心丸出しで拗ねる私を見て、リベラート様は驚いた顔をみせた。


「びっくりした。君からそんなかわいい言葉が聞けるなんて」

「……どうせいつもかわいくないことばっかり言ってますよ」

「はは。拗ねてもかわいいな」


 私の膨らんだ頬を人差し指でぷにぷにと押しながら笑うリベラート様を見ていると、私まで自然と笑顔になった。


 ――誰かに注目されたい。見つけて欲しい。愛されたい。

 それがきっと、幸せの道に繋がる。

 幼い頃、私はそう思って魔女にお願いをし、〝魔性の令嬢〟にしてもらった。


 時が経ち、その肩書を手放して、私はただの子爵令嬢に戻った。


 そして今、私は幸せかと問われると――答えはイエスだ。

 

 〝魔性の令嬢〟にはなれなかったけど、それでいい。

 たくさんの愛を得ることはできなかったけど、それでいい。


「フランカ、俺たちはいつ結婚する? 明日? 明後日?」

「結婚にはいろいろ準備が必要だから、そんなすぐには無理かと思いますけど」

「準備なんてお互いの心の準備さえできてればいいのさ! 俺は今すぐでも構わないよ!」

「もう! また無茶なこと言って。リベラート様ったら。……ふふっ!」


 たったひとつ、本物の大きな愛を手に入れたから。


「フランカ、俺は君を死んでも離さないよ。来世でも必ず結ばれよう! 未来永劫に!」


 ……ちょっと重いけれど、愛に飢えていた私には、これくらいがちょうどいい。


                               END


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元、魔性の令嬢です。~魅了魔法を解いたのに、なぜか溺愛がとまらないのですが!?~ 瑞希ちこ @mzkck29

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