18-その花、誇り高く


メルリル :「ミリカさん、私たちはまがりなりにではありますが、ドライアードさんを助けたということですよね?」


ミリカ  :「え? う、うんっ。その、あ、ありがとう!」


メルリル :「私たちは本来なら冒険者ですから。害のある魔物を倒すことが往々にしてよくあります。それを見逃した上で、ギルドと交渉をする予定です……ですから、もう少しばかりお気持ちを、ね?」


ミリカ  :「えっと…マンドレイクの種以外に…お金をってこと?」


メルリル :「そうですねえ、そうしてくださると嬉しいですねえ」


リュシアン:メルリルの肩をとんとんと叩いて「いいえ、ここは受け取らないほうが美しいでしょう。だって…愛は金で買えないものですからね」


メルリル :「ち、ちがいますよー!こ、これはですねー……」


リュシアン:「それにここでお金をもらえば。あなたの行為が、金のためのもの、と思われてしまいます。それは僕が、ちょっとイヤ、です」


メルリル :「むう。あなたがそう言うなら…しかたないですねえ」といって口をとがらせる。

「うう、でも…ティアさんにせめてお金だけでも…渡したかったんですが…」


ティア  :「言っておきますが、今回の報酬はあたしは貰う気ないですよ。関知しないって言ったじゃないですか。それは報酬も含めて、です」


ハクマ  :「あの金にがめついティアが!? まあ……何ももらわないってことで…いいんじゃないのか? あんまり種とかたくさんもらったとしても、ギルドのほうで怪しまれる可能性があるだろ?」


メルリル :「むむ。確かにギルドに報告する予定ですが……あまり賄賂みたいなのをもらうのもよくないかもしれませんね……。

ただ、先程の提案はドライアードさんに断られちゃいましたし。困っちゃいいましたねえ……どうしたらいいですかねえ……このままギルドに報告したら、本当にドライアードさんの討伐任務がでるかもしれませんし……私、そういう交渉事、苦手なんですよねえ」


リュシアン:「僕もあまり得意じゃないですねえ」


ハクマ  :「ん? そのまんまギルマスに言うんじゃダメなのか?」


メルリル :「ハクマさんはギルマスのところに行かないほうが……いいかもしれませんねえ。それにしてもどうしましょう。困っちゃいましたねえ。こういうのが得意な人に、お願いしたいんですけどねえ」


リュシアン:「そうですね、こういうことは得意な人がやるのが一番ですからね」


ティア  :「はぁーー……」と大きすぎる溜息を吐き出して。

「わかりましたわかりました。あたしが交渉しますよ」


メルリル :「よかった! やっぱりこういうのはティアさんじゃないと!」とにこぉっと笑う。


ティア  :仕方なさそうに溜息をつきながら、きっと真面目な顔つきでドライアードを見据える。

「ドライアード。あなたは人間側にメリットを提案できますか?」


ドライアード:「ふむ。どういうことだ?」


ティア  :「ギルドにあなたがここにいることでのメリットを提示しなさい、そこであなたはここの生存権を得るんです。それができるんだったら、ギルドとも交渉できるでしょうよ」


ドライアード:「そもそもわらわは樹木の妖精。このあたり一帯の樹木すべて、わらわがやろうと思えば枯らすことも豊かな実りをもたらすこともできる。わらわはそういうモノだ。だが、しかしのう」


ティア  :「なんです?」


ドライアード:「人間の利益というものがなんなのかは知らぬ。わらわはギルドとやらもよく知らんからの。なにが利益となるかを判断するのはおぬしら人間がやることだ」


ティア  :「ここのマンドレイク自体に人間にとっては価値があります。今まで以上に生産効率の向上や安全な収穫の仕方など……まぁ、あなたならできるでしょう?」


ドライアード:「ふむ。そのようなことが人間の利益になるのかえ?」


ティア  :「ええまあ、そうですね。そうやって、あなたの価値をギルドに提案できれば、あなたがここにいることも、あなたの生存圏も脅かされないでしょう。いわゆる、持ちつ持たれつってやつですよ」


ドライアード:「もとより妖精はおぬしら人族たちに協力を求められれば、理に反しない限り返すものよ。ただおぬしの言うことは、常ならば大きな対価が必要であるが……。

ミリカの願いを聞いてもらった借りがある。おぬしら四人が望むならば、ここのマンドレイク畑をこの森一帯に広げることもできようて」


ティア  :「あたしたちではなく、ギルドに対してその価値を示してください。そうすれば……あなたとミリカさんが穏やかに暮らすこともできるでしょう」


ドライアード:「レプラカーンの娘よ。おぬしがそう言うならば、そうなのであろうな。あいわかった」


ティア  :「……なんでそこであたしが理由でわかったことになるんですかね。あたしはさっきあなたを殺そうとしてたんですよ?」


ドライアード:「妖精だからこそ、欲深い人間も浅ましい人間も多く見てきた。しかし先程のおぬしには高潔さがあった。怒りや欲だけが理由ではなかったのだろうよ」


ティア  :「……で、結局できるんです? できないんです?」


ドライアード:「できようぞ。ギルドとやらは知らんがのう」


ティア  :「ま、そのあたりはミリカさんとでも相談してください。詳しい話はまたいずれ、ということで」

くるりと振り返って「メルリルさん、これでいいです?」


メルリル :「ばっちしです!」と指を立てる。


ティア  :「リーダー、とりあえず帰りましょう。あたしはなんか疲れましたよ…。あ、そうそうミリカさん、あとはよろしくお願いしますね」


ミリカ  :「え、えっ? なになに? あとって? ワイン飲む?」


リュシアン:「飲みます! ぜひ!」


ハクマ  :「イヤそういう空気じゃなかっただろう!?」


ティア  :「リーダー……とりあえずワイン飲みながらでもいいんで、ミリカさんといろいろ話しといてください。メルリルさん、ハクマさんあたしたちは行きましょう。気絶したままの妖精剣士二人も馬車に運ばなきゃぁいけませんし」


リュシアン:「わかりました。ミリカさんに今後の方針とかは色々話しておきます。先に馬車のほうに戻っていてください。すぐに行きますから」


ティア  :「あたしの手助けはここまで、ですよ」と言って、手をひらひらさせて馬車へと戻っていく。

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