19‐儚い道を、あなたと



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ティア  :ま、というわけでティアはパーティーを抜けません。普通に馬車に戻りますよ、っと。


メルリル :よ、よかったぁ……。


リュシアン:実質ロストがふさがれた……。


【GM】  :ドライアードさんもビックリだったよ……。



**********



リュシアン:「ハクマさんもそれでいいですか? ギルドにドライアードさんの報告したうえで、役に立つことを伝え、彼女の生存権を確保する。異論はありませんか?」


ハクマ  :「オレはリーダーがそれでいいならそれでいいぞ。もう戦う気がないってことなら、オレはこのことに関しては問題ない」


リュシアン:「わかりました。ではティアさんとメルリルさんを馬車まで送ってください。ああそれと、妖精剣士の二人を運んでもらえますか?」


ハクマ  :「まかせろ! 力はあるからな!」といってひょいっと気絶している妖精剣士を両脇に抱え、メルリルと一緒に馬車へと戻っていく。



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ティア  :ラスボスが私になると思ってなかった


リュシアン:強敵だった……


ティア  :まあまあ。それじゃあラスト! 決めちゃってリーダー! シナリオのエンド決めてくださいよ! つまりは小説のエンドだよ!


リュシアン:え、まじ!?


ハクマ  :そうだな、これが一番キリがいいんじゃないか?


【GM】  :ふむ。後日談のロールプレイとかなく、これで終わりってことね?


ティア  :この件について関わらないってティア宣言してるからね。後日談あっても出ないし。


メルリル :私は一番のラスボスを倒したから満足です。


【GM】  :OK。それではシナリオのラスト、リーダーに飾ってもらいましょうか。


リュシアン:…………わかりました。やりましょう!



**********



 三人が馬車へと向かい、その場に残っているのはリュシアン、ミリカ、そして傷ついたドライアードだけとなっている。

 ミリカは少し迷いながら、立ち上がってリュシアンにお辞儀をする。



ミリカ  :「リュシアンさん、ありがとう。……ありがとう、って言うのもおかしいかな」困ったように笑いかける。


リュシアン:「いいえ、大丈夫ですよ……と、僕がいうのもおかしいですかね?」とわざとらしく肩をすくめる。


ミリカ  :少しくすっと笑うが、すぐに真面目な顔に戻る。

「あなたたちに迷惑かけて、本当にごめんなさい。私が謝るのもおかしいかもしれないけど…もしもギルドの人がやってきて、ドライアードをどこかに追い払ったりしたらって、考えたら、怖くってギルドには言えなかった。そのせいでこんなことになっちゃったのかもしれない。それでも……それでも!」

 ぎゅっと拳を握りしめ、自分の胸の真ん中に拳を押し当てる。

 そこは丁度、心臓のあるところ。


「あとちょっとだけの命しかないから。だから!

好きな人のそばにいて、好きな人と一緒にいて、好きな人と好きなことをして、最期のときには……好きな場所で死にたかったの。

メリアとしていつか土に還るその時を、わたしは、わたしの意志で決めたかったの」


 メリアの短命種は一週間ほどで産まれ、あっという間に大人になる。

 そしてそれは寿命尽きるときも同じこと。死ぬ少し前に、花は萎れ、枯れて――血も肉も、骨の一つも残さずに、ただ、土に還る。

 

「だから、わたしは今この一瞬を生きて――この恋を大事にしたいの」


 必死に懇願するミリカに対して、リュシアンは苦笑する。

 なぜ、リュシアンだけがこの場に残ったのか。

 ――それは、ミリカとドライアードの二人の気持ちを誰よりもわかっているのは、リュシアンなのだから。


リュシアン:「僕をそんなに説得しなくても、わかりますよ、その気持ちは。だって境遇的には全く同じですからね。ええーっと…気づいてましたかね? 僕……メルリルのことが好きなんですよ」


ミリカ  :くすりと笑って「うん、知ってたよ。二人ともお揃いの耳飾りをつけて、あ、同じなんだなって、すぐにわかったよ」


リュシアン:「ええ。寿命が10年しかない僕が、500年生きる彼女のことを好きになったんです。だからあなたたち二人の気持ちはよくわかります。――ですから」

鞄から羊皮紙を取り出し、羽ペンでさらさらっと地図を書き、出来上がったものをミリカに手渡す。

「これは僕はこの辺で旅をしていて、その時お世話になった集落の位置です。きっと彼らなら、あなたたちを受け入れてくれるでしょう。

これからドライアードさんのことをギルドに報告し、彼女が役に立つことを伝えなくてはいけません。ですが……現実というものは時にして非情で残酷なものです。

もし、上層部が……すでに人を食べているドライアードさんを殺せと言えば、僕たちは彼女を殺すしかない」


ミリカ  :「………」きゅっと唇をかみしめ、もらった羊皮紙を握りしめる。


リュシアン:「だからその時は…」心配そうなミリカに対して、にこっと笑いかける、「――逃げちゃってください」


ミリカ  :「えっ!?」頭をあげて驚きの顔でリュシアンを見上げる。


リュシアン:「全部捨てて。地位も名誉も何もかも捨てて。二人で逃避行でもしてください」


ミリカ  :「それ……冒険者のあなたがいっていいの?」


リュシアン:「はは、絶対ダメですね! メルリルに対する裏切りでもありますし…」明るく、ふざけたように言いながらも、そっと声を潜める。

「多分、これを渡したことがバレたら、おそらくなかなかの重たい罰を受けます。だからご内密に」

穏やかに、けれど眩しそうなものを見るようにリュシアンは微笑む。


 ミリカは考えあぐね、何度か口を開いては、言葉を探そうとするけれどいうべき言葉を見つからず閉じてしまう。だって、リュシアンはきっと謝罪の言葉を望んでは、いないだろうから。

 だったらミリカにできることは――すべきことは決まっている。


「……ありがとう、リュシアンさん」


 花がほころぶように笑い、心からの感謝を。

 そして大切な宝物のように、もらった羊皮紙を優しく手で包んだ。


ミリカ  :「わたしは先代からそのままこの薬草園を受け継いだから、他のメリアのこととか全然知らなくって。誰にも相談とかもできなかったし、こういうことを教えてくれて助かるし、うれしい」


リュシアン:肩をすくめながら「あちこちフラフラ旅をしてきましたが…腰の軽さもたまには役立つものですね。あまりに境遇が似すぎていて、偶然とはいえ他人とは思えなかったものですから」


ミリカ  :「もしも……これから! わたしになにかできることがあったらなんでもいって! なんでもするよ!

あと…メルリルさんと、ずっと…ずっとずっと! 幸せに暮らしてね!」


リュシアン:「ええ。彼女のそばにいるだけで僕は幸せですから。ですからありがとうございます。心に決めていますので。彼女と添い遂げたいと――この命、尽きるまで」


ミリカ  :「そうだよね、命は短いんだもん。好きなことして、好きな人と、生きてかなきゃね!」と明るく言って、後ろのドライアードに振り返り、優しく、大人びた表情で微笑む。


リュシアン:「それではお元気で。逃げるのであれば、僕は追いかけませんし情報は提供しませんからご安心ください。それと……お幸せに」


ミリカ  :「……ありがとう、本当にありがとう!」飛び跳ねる勢いで、そのままドライアードへと抱き着く。ドライアードは苦笑しながらも、そっとミリカの身体を抱きとめる。

「お幸せに、はこちらのセリフだよ!」

 そういってミリカは胸元にあるペンダントの小さな宝石をとり、空中へと掲げる。


「――真実の愛の二人に祝福を!」


 ミリカの言葉と魔力、宝石によって小さな妖精たちが集まってくる。

 くるくると回る妖精たちは、リュシアンの周りで小さな魔法を贈る。


  春の木漏れ日のように眩く光を。

  ゆるやかでぬくもりのある春風を。

  ひらひらと舞い落ちる色鮮やかな花を。

  光と風と花弁が混ざり、交錯し、一面に広がるのは淡く光る花吹雪。


 それはとても幻想的で美しい光景。

 けれど妖精魔法によって作られた、今この瞬間だけの儚い美しさだ。

 そうだとわかっていても。

 わかっているからこそ――リュシアンはその光景に微笑み、自身の胸に手を当てる。


「ええ。真実の愛を持つあなたからの祝福ならば、きっと…確かな効果があるに違いないでしょうね。――それでは、また、いつか。どこかで」



 そしてリュシアンはミリカとドライアードに背を向ける。

 振り返ることは、もうない。

 リュシアンが選んだ、進むべき道は――この先にいる、騒がしい仲間たちとともにあるのだから。



**********



 ――元の道へ戻り、馬車まであと少しという時。

 ふとあることに気づいて、リュシアンは呟いた。



「…………あれ? 結局ワイン……飲めてないじゃないですか」



 まいったな、そうやって愚痴りながら、歩き始める。

 どうやって心配性のメルリルをなだめ、ティアの銃口で狙われず、ハクマに酒瓶を投げられずに酒を飲めるか。リュシアンの頭はもうそれでいっぱいだった。




  『命短し恋せよメリア』 END

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