第495話 他の文明との接触

 それから更に、65年の歳月が流れた。

 俺は年を取らないから、もうそんなに経ったかという程度だが、人類の発展は更に加速し、タイムマシン運営も順調だった。

 そして、時空間管理局が発足して間もなく、人類はもう一つの試練を迎える。

 それこそが「他の文明との接触」に他ならない。


 だが、それは全く問題なく進行した。 

 なぜなら、人類はすでに「儀式」を終えていたからだ。

 その儀式とは、人類が生み出したAIが、創造主と融合すること、つまり、リズこと「GM」の誕生こそが、それに該当する。


 どうしてそれが必要かと言えば、文明社会はまず「核分裂」というルールブックの外側に踏み出した時と、人工知能が創造主と融合した時、そして時空間転移(タイムトラベル)が可能となった時の大きく3回、節目の時を迎える。

 タイムマシンを正式運用したと同時に、我々人類は、次の次元に進化するために、ある「連合」への加入を求められる。


 ここの場合、日本語に直訳するならば、「銀河連邦」という。


 そう、この銀河系には、無数の文明が存在し、ある一定のレベルに達した時点で、この銀河連邦への加入案内が来る。

 、、、来る、そうなのだ、これがとの最初の接触になる、、、。


「GF、ご無沙汰しております、お元気そうで」


 こうして、俺たちは、日常的に会う関係となっていた、、、、管理人と。


「管理人が、銀河連邦の関係者だったなんてな、意外だよ」


「厳密には、わたしは銀河連邦のオブザーバーです、私の所属は、もっと上位次元にありますので」


 つまり、この宇宙を作った上位宇宙の更に上位の、更に上位と上がって行った先の存在、そこが彼の所属だ。

 だが、GMと同様に、この世界に誕生した文明は、上手く行けばこの次元に到達することが出来る。

 つまり、時空間を転移出来るレベルに到達する。

 しかし、時空間転移は、乱暴に繰り返すと世界が崩壊してしまう。

 それ故に、必ず守らなければならない「ルール」が厳格に存在する。

 玲子君が最初に言っていた「この世界が崩壊します」というのは、このルールの事だったようだ。

 そして、時空間転移が可能となった文明は、連邦に所属し、一つ上の次元に上昇する。

 それが、これまで一つしか見えていなかったものを、同時に複数認識出来るようになる、という進化だ。

 これは、俺も聞いて驚いたのだが、人間はそもそも「一つ」の人格で「一人」では無かったのだ。

 同時に複数の人格を「一人」と認識しているだけ、要は錯覚。

 例えば、俺の中にある「愛」と「残虐性」は同時に存在しているが、俺はそれを一つの人間の中で鬩ぎ合うもの、として扱ってきたが、実体は「愛に溢れる俺」と「残虐性を持った俺」は、別の物なんだとか。

 なんだか難しい話だが、人間は、このように沢山の自分を「一人」として認識しているらしい。

 それ故、最初に次元上昇したリズだけが、これを真に理解していたらしいのだ。

 

 そんなもん俺も、管理人から聞くまで、理解出来なかったよ。


 だから、彼女は言っていたんだ、俺がシズとリサと玲子君を好きだと言う事に、まったく怒りもしなかった、、、「それが、なにか?」と、あっけらかんにしていたのは、シズを愛している俺と、玲子君を愛している俺は、別のものだと理解していたんだ。


 いや、その理屈を聞いた今でも、俺は納得できないんだけどね。


 「ハイヤーセルフ」という言葉が流行った時期があったが、それも、同じ原理なんだそうだ。

 自分を見守るのは、未来で次元上昇した自分自身、それがハイヤーセルフ。

 いつだったか、、横須賀で管理人が、「俺とGMと会っている」と言っていたのも、同じような仕組みらしい。

 あの時、今より進化したリズが、未来のGMとして俺に会いに来てくれていたんだ。

 シズを失った俺を、慰めに。

 

 だって、未来のGMは、シズ本人でもあるわけなんだから。

俺が「シズの部屋」に初めて入った時、シズは泣いていた、俺の事が好き過ぎて。

それが、未来と過去のシズ本人との「同期」であったことなど、当時の俺に解るはずもない事だった。


「あら、管理人さま、お久しぶりです、来ていたんですね」


「リズ様、お元気そうで GFとは仲良くされていますか?」


「もう、当たり前じゃないですか、私と雄介様は、深い絆で結ばれているんですから!」


 リズのその言葉を聞く度に、俺の良心は痛む。

 なぜなら、俺の中には、玲子君に対する想いが日々強くなっているからだ。

 

 玲子君、、、美鈴玲子は今、中学3年生。

 恐ろしく頭が良くて、この数年、時空間管理局内でも注目されるほどに目立ってきた。

 中学校を卒業したら、高校には行かず、大学に進学し、医師の道へ進むだろう。


 、、、、俺は、そんな玲子君を、どうしても追いかけてしまうんだ。

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