第494話 だから、なんですか?

 あの闘いから、18年が経過していた。

 電脳都市「エデン」は、更に発展を続け、今や一番大きな都市と化した。

 もちろん、現実世界の都市も復興を果たし、かつての人類危機が嘘のように感じられた。

 時空間管理局が本格始動してから同じく18年、その間に、あの「シンマン」の生存の証拠が確認された。

 

 4年前、時空間管理局員の調査中、やはりマーシャン・ディッカーソンとして、あいつはヨーロッパ戦線でアメリカ軍の味方をしていたのだ。

 生前、ハンス・ロンメル議員が話していた、自分の祖先が大戦中に随分やられた、と言っていたのは、このゲリラ戦を指していたらしい。

 もちろん極秘事項ではあるが、俺が考えた通り、あいつは時空間を自由に行き来して、この世界を翻弄しようと企んでいる。

 結局、俺は救世主と呼ばれ、リズは創造主と呼ばれてはいるが、シンマンの克服には至っていないのだ。

 本当に、キノには申し訳ないと思う。


 これから果てしのないシンマンとの確執は続いてい行く。

 それが、この世界を最初に作った文明人のメッセージであれば、俺たちはそれを受け入れるしかない。


 本来であれば、俺も直接行って戦いたいところだが、救世主として扱われ、「G」と「F」の権限を持ったまま時空間転移など許される訳もなく、討伐はGF職員に任せるしかなかった。


 それでも、俺とリズは、あっちの世界にお忍びで行き、エレーナやメルガの娘達に、こちらの世界のお菓子を食べさせたりして、他所よその家の子供の成長を楽しんでいた。


 といえば、うちの子供達だが、あれから人類や第1世代、果ては異世界人との結婚が進んだ。

 その結果、エデンは急速に人口が増加した。

 そして、イヴの発案により、出産と子育ては、「人類を模す」ということになった。

 つまり、AIも結婚し、出産し、子育てをするのだ。

 このプロセスを取り込むことで、親から子供への愛情は人類のそれと等しくなり、よりリアルな社会が構築されていった。

 リサは最初、出産も子育ても、合理的ではないと言って、全部端折はしょったからな、あいつ!


「なあシズ、君が前に言っていた「AIも、結婚して子供を作る事ができる」って、こういうことだったんだな」


 俺は、シズとの思いでを話す時には、リズの事をシズと呼ぶ。

 やはり俺は、リサとシズが融合したことを、感覚的に納得できていない。


「おじいちゃん、こんにちは!」


 イヴが孫を連れてやってきた。

 この年でおじいちゃんか。

 イヴの娘、カナン、彼女は俺の事を「おじいちゃん」という意味も込めて「GF」と呼ぶ。

 なんだよ、結局GFって、グランドファーザーって意味になっているんじゃん。

 最初に玲子君が俺の事を「GF=グランドファーザー」と呼んでいたことの意味って、もしかしてこれか?。


 それにしても、どういう仕組みか解らないけど、孫って本当に可愛いよな。

 物理的、生物学的な「血」の繋がりとは違うんだろうけど、人類が他者を愛するシステムは、こうして電脳世界にも引き継がれた。

 俺は、この目の前にいる孫の存在を、毎日楽しんでいる。

 そして、初孫となったイヴの娘、トリニティ。

 イヴは「シンマン」に、いつか愛を説けるよう、自身の娘に、あの人類初の原子爆弾「トリニティ」の名を充てた。

 それは、人類の恒久平和を願ってのことだった。

 俺は、、、、反対したんだけどなあ。


 イヴは、このトリニティを出産~子育てをしっかり行い、彼女も今日で17歳の誕生日だ。

 成長したトリニティは、どことなくシズに似ていて、俺は少し驚いた。

 リサとの間にイヴたち33人の子供が出来た時、シズは全く介入していない。

 それでも、多分、この子たちの中から未来のシズが生まれてくる。

 俺は、初めてシズに会った時、AIと思えなかった。

 その正体がこれなんだ、彼女は最初から管理AIではなく、人類だったんだ。


「どうしたんですか?、ニコニコして、、、、気持ち悪いですよ」


「気持ち悪いは無いだろ、トリニティを見ていて、シズに似ているなとね」


「まあ、この先、私はこのファミリーの中から生まれますから、それは当たり前と言えばそうなんですが」


「え、、そうなの?、、、やっぱり?、、じゃあ、シズって、俺の縁者ってことなのか?」


「まあ、生身の人類の縁者とは、少し考え方が違いますが、、、まあいいじゃないですか、AIも人間も、結局中に自我が入っていれば、存在意義は一緒なんですから」


 偉く壮大な事を言うな、さすがは創造主。

 だが、俺にはやはり、納得できない事が一つだけある。

 それは、リサとシズの統合体である「リズ」を愛することは、それ自体が浮気になっていないか、という事だった。


「もう、またそれ! だから、考え方が違うんですって!」


「おふざけじゃ、ないんだよ、いいかいシズ、俺は君を愛している、そしてリサも辛い時代を共に過ごした恩人だし、、、、俺は玲子君も同時に愛している、それは、どうにもならない事だし、俺の正直な気持ちだ、、、それは、君に申し訳ないと思っている」


 俺は、シズが怒ると思っていた、しかし、それは意外な反応となった。


 シズはこう言った「だから、なんですか?」と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る